脆弱な自惚れ


クリスマス…
下等な人間共が聖なる夜と綺麗ごとを並べ、祭り事に興じる日…
全く興味が…




今まではなかった。




「花子」



「ひぃ!」



「…………」



自身の最愛に声を掛けただけで短い悲鳴をあげられてしまった私を誰か慰めるべきだと思う。
ただ真後ろ至近距離5cm辺りから声を掛けただけではないか。



チラリと近くにいたシンを見やれば困ったような表情でゆっくりと首を振るが何がいけなかったのかさっぱりわからない。
私にここまで近づかれたら逆に光栄だろうなぜ今花子は小さく飛び跳ねた後そのまま私との距離を勢いよくとったのだろうか正直寂しい。


ガタガタと震えながら腰を抜かしてコチラを見つめる花子に先日シンにアドバイスをもらった通りにゆっくりと近づき
そのまま視線を合わせるためにその場にしゃがみ込んだ。
…確か怯える動物には視線を合わせて警戒心を解くのが効果的とどこかの本で読んだ気がする。




「花子……」



「は、はい…何でしょう…カルラさん」



「………」




怯えながらも今日初めて花子が私の名前を呼んでくれたので酷く気分が高揚した。
それが表情に現れてしまったのかそんな私を見守っていたシンが吹き出してしまったので後で制裁を考えようと思う。
肝心の表情の変化をわかってもらいたい目の前の最愛は私に怯えきって全く気付いてはくれないけれど…




「花子…今日、何か予定はあるか?」



「え、ええと……」



私の質問に少し彼女の視線が泳ぐ。
どうしたのかとその視線を追えばなんと自身の弟のシンへと向けられていた。
………嗚呼、確かシンは私が彼女に夢中なのを知っているはずなのだが。



「シン……短い間だったが貴様を弟としてもてて兄は幸せだった」



「違う違う違うちがうよ兄さん誤解!!激しく誤解だよまってまってまって!!」



ユラリとその場から立ち上がり弟の胸ぐらをつかみあげれば
彼は顔面蒼白のまま必死に言い訳をする。
何が違うというのだ花子の視線が貴様に向かったという事はそういう事だろう兄の愛を邪魔するな。



シンの最期の必死な言葉を華麗に聞き流していれば後ろから何か小さな声。
振り返れば花子が涙目になりながらコチラを見つめていた。
嗚呼、そうだった…私の最愛は他の者よりひどく臆病だった。




「花子…?どうした。」



「わ、わたし…シン君と…あの、えっと」



「………」




嗚呼、その言葉は聞きたくなかった本当に。
しかし涙を堪えながら必死に言葉を紡ごうとしている健気な彼女を止める気にはなれず言葉の続きを待つ。
嗚呼、弟に最愛を取られてしまうなんて始祖王としてはなんとも…




「し、シン君とカルラさんのクリスマスプレゼントを選んだのでよかったら受け取ってください!!」



「……………?」



「そ、そういう事だよ兄さんお願いだからそろそろ離してオネガイシマス」




自身が予想していた言葉とは全く反対の言葉を紡がれ硬直してしまう。
………心なしか花子の頬が赤い気がするのは気のせいではないだろうそしてシンの言葉は聞こえない。
…もしかしなくても今日、共に過ごしたいと思っていたのは私だけではないのだろうか。





自惚れはひとを脆く、弱くしてしまうが今日だけは…私もそうなってしまいそうだ。




「花子、プレゼントは何を選んでくれたんだ?」



「あ…う…ええと、…な、生ハム…」



「上出来だ。流石将来の我が妃だ」



ぽいとシンの体を投げ出して再び彼女の前にしゃがみ込めば
今度こそ真っ赤になってしまった花子の口から私の好物の名前。
嗚呼、本当に私の最愛は気が利いている。




「花子、出かけるぞ。…貴様にプレゼントの礼をしたい。」



「!……は、はいっ!」



そっとできうる限り優しく彼女の手を取って微笑みかければ、よほど嬉しかったのか
満面の笑みで答えてくれたのでそのままイルミネーションが美しいだろう夜の街へと足を踏み出した。



そうだった、彼女が酷く臆病だから忘れかけることがしばしばだが
彼女は臆病なりに私の事を愛してくれているのだった。




クリスマスなんて下らない祭りごとだが
そうだな……



「か、カルラさん…どこへ連れて行ってくれるんですか?」



「そうだな…今日くらいは貴様の望む所へ連れて行ってやろう。さぁ…どこへ行きたい?花子」



彼女が…花子がこんなにも喜ぶのなら
こんな下らない下等な催しもまぁ…




悪くないのかもしれない。



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