ご都合主義


とても寒い日、
愛しの彼氏と抱きしめあってじゃれ合いながら深夜を過ごす…。




そんな浮かれた二人組は片っ端から潰してやるから出てこい。




「ああもう!年末ってホント最悪!!」



ガタガタとキーボードを打ちながら小さく吠えても誰も相槌なんてうってくれない。
だってこの部屋で社畜は私ひとりなのだから。



年末による様々なまとめや追い込み等が重なって
ついには勤務外でさえこの有様…
社会人になってよかった事と言えば多少の金が自由にできるって事ぐらいじゃないのだろうか。




「全くもう…猫の手も借りたいなーなんてなんて。」



「お生憎様、私は猫ではなく吸血鬼ですので。」



「……知ってるよ。全く…いちいち可愛くないよね、レイジってさ。」




一瞬、キーボードを弾く手を止めて、チラリとパソコン越しにさっきから私が仕事で苦しんでいるのに何もしない最愛を見つめてみた。
すると彼もちらっとこちらを見てくれたけれどすぐさまお気に入りのティーカップに視線を戻し、自分だけ香りのいい紅茶を注ぎ始める。
………正直こんな厭味ったらしい彼氏を持ってる自分の心の広さを讃えてあげたい。




「……仕事頑張ってる彼女にも紅茶入れなさいよ。」


「…………」


「無視とか。」




外の寒ーい冬の気温よりも冷たすぎるレイジの態度に
もうこれ以上何言ってもいたわりの言葉も差し入れの暖かな紅茶も無理だと悟り
小さくため息を付いて再度仕事を再開した。



あーあ、私なんでこんな薄情な彼氏と付き合ってるんだろう。



そんな悲しすぎる事を考えながら作業をこなしていれば
ポンっと液晶画面に控えめなメール受信通知。



何だろうと受信画面を開けば送り主はなんと…




「………、」



カチリとメール本文を開く。
そしてその内容に先程までの悲しい疑問に簡単な答えが紐付けられてしまった。
ああもう、だから私は彼と離れることが出来ないんだ。




「………がんばろ。」


小さく呟いて指裁きを早める。
ああもう、あと数時間待っててね?寂しがりのいとしい人。



メール発信元は目の前の逆巻レイジ。
本文には短く一言。




【はやく終わらせなさい、寂しいです。】




それだけ。



全く……差し入れをくれないのは休憩分私の仕事時間が伸びちゃうからなの?
レイジの甘えってわかりにくすぎる。




そうだよね……仕事だって会社のやり方があるんだもん
手伝うに手伝えないか。



私が彼と離れない理由。
それは彼がとても可愛らしいから。




「ああもう、レイジ可愛い」



「うるさいですよ」



「…………現実のレイジは素直じゃない。」



再度呟いた独り言、今度は目の前の彼に拾われて
可愛くなさすぎる言葉が返ってきてしまったけれどもう悲しい思いにはならない。



そんな余裕があるならとっととこの仕事終わらせて
可愛い可愛いツンデレ彼氏を構い倒したいので。



寒い冬の夜更け。
数時間の沈黙と打ち込むキーの音のみが響き渡る部屋で
私は先ほどの考えを静かに変更した。



愛しい彼氏とじゃれ合って夜を過ごす奴は潰さない。
だって恐らく……



数時間後、私はそんな女へと成り替わる予定だから。




ええ、私はどこまで行ってもご都合主義の女である。



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