夢で逢いましょう
今日も一人、仕事を終えて遅めの夜食を取って静かにお風呂。
数時間の一人きりのリラックスタイムを堪能してベッドイン。
人並みに最愛はいるけれどここ数日すれ違い生活で電話さえままならない。
実際に会うなんてもってもほかだ。
「ああ、今日も一日が終わるのかー…」
会えない彼の代わりにと購入した黄色の抱き枕はすっかり私の香りが移ってしまっている。
……それだけ彼ではなくこの子を抱き締めているのだと改めて自覚してしまえば少し泣きそうになる。
「シュウ君にあいたいなぁ」
ぽそりと最愛である彼の名前を言葉にすれば寂しさはぶわりと溢れかえってしまって我慢してた涙は呆気なく零れて落ちる。
こうなることを分かっているのにシュウ君の名前を呟くのは彼の名だけでも側にいて欲しいから。
「シュウくん……どんな声だったかなぁ……」
懸命に遠い記憶を辿ってみても少しばかり曖昧な声色。
嗚呼、声を忘れてしまいそうになるまで貴方と会っていなかったのか……
「寂しいよ……」
小さくそれだけ呟いて、仕事の重い疲労感に導かれるまま、静かに瞳を閉じた。
……あれ?
どれだけ時間が経ったか分からないけれど、
不自然な圧迫感を体に感じてゆるりと目を開けた。
けれど何だか視界がボンヤリしているから
嗚呼、なんだ……私は夢の中なんだと確信する。
「花子」
「ゆめ、で……ようやくあえた……」
懐かしい声に私の顔はへにゃりと綻んだ。
だってその声はずっと望んでたもので、その顔はずっと見たいって思ってたものだったから…
「しゅう、く……夢で、あいにきてくれた」
「夢……って、はぁ……」
ぺたぺたと夢の中のシュウ君を感触を確かめるためにその白い頬や大好きな唇に触れていると、どうしてか目の前の彼は長い溜め息を吐いたけどその真意が分からない。
「花子、これは」
「シュウ君……シュウ君寂しかったよシュウ君……」
「…………、」
シュウ君が何かを言おうとしたけれどそれを遮って今まで我慢してた気持ちをやさしく私を抱き締めてくれていた彼に必死にすがり付いて口にした。
いつもなら私の方が年上だからこんな事甘えたこと言わない。
でも今は夢なんだ……少し位自分に素直になっても許される気がする。
「あのね?シュウ君の声……忘れそうになってた」
「ふぅん?じゃぁ今は思い出した……?」
「ん……こんなに甘くて、やさしかったんだね……」
「ああ、ほら泣くなよ」
「やだ……寂しかったんだもん」
言葉の途中で遮られたのにどうしてか彼はその続きを口にすることはなく、只ひたすらに普段口にしない私の甘えを聞いてくれる。
ああ、やっぱり夢だからシュウ君も私が望むようにしてくれるのか……
懐かしい声が自身の記憶より少し違ってた事に寂しさと、夢でも再び聴けたと言う嬉しさが混じりあって涙を溢せば優しくさとしてくれるけど、夢の中では素直に彼の言葉を聞かない。
「……花子、他には?…他には俺に言いたいことある?夢だから何でも言って?」
「…………あのね?」
「ん……?」
そっと指を絡め取られて小さく笑いながら優しい言葉を掛けてくれるシュウ君にぼんやりと言葉を切り出そうとする。
そうだよね、これは夢だから今までに我慢していた事を全部目の前の彼にぶちまけてしまおうか…
「シュウ君……」
「なぁに?花子」
「きいてくれる?……あのね、ほんとはね?」
どこまでも優しい声と瞳に任せてぽつり、ぽつりと今まで我慢していた私の中の甘えたを呟いていく。
ほんとはもっとぎゅってして欲しいんだよ…?
ほんとはもっと沢山キスしたいんだよ…?
……ほんとはもっと「愛してる」って聞きたいんだよ?
他にも沢山……現実なら絶対に言えない事ばかり
夢の中位はと素直に私の暴露の言葉の度に顔が緩んでゆく夢の最愛に次々と甘えたをぶつけていった。
私の視界に入らない時計は今深夜2時。
再び意識が落ちて本当に目が覚めた時にやらかしたと顔面を赤くするまで後五時間。
夢にしては響く声も包み込んでいる圧迫感も妙にはっきりしている事に夢の中と言うか、寝ぼけてぼやぼやとしている私はまだ気付かないままである。
(「ええと、愛してるって言えば良いのか?」)
(「やだもっと強くぎゅぅってしながら……」)
(「…………アンタどんだけ普段我慢してきてたんだよ花子」)
戻る