君の隣


「ヴィンセント様、おはようございます。お待たせしてしまってすみません」

「いいえ、そんなに待っていませんから…さ、行きましょうか」


さらさらと心地いい風が吹き抜けて、美しいブロンドの髪がふわりと舞うのを横目に見ながら歩き出す。彼女の隣にいると、優しい花の香りがした。それは香水のように鼻につくものではなく、時々ふわりと香る程度。

元いた世界では、どうでもいい女どもの相手をしていたとき、気持ちが悪くなるほどの匂いに嫌気がさしていたけれど。思えばたしかに彼女と一緒のときは、そういう匂いはしなかったかもしれない。

当時はそんなことに意識を向けられるほど、彼女に歩み寄ろうという考えなんてなかった。それが今では、この優しい香りのことが…嫌いではないだなんて。平和ボケというべきか、なんというか。


「今日観に行くオペラって、どんなお話なんでしょうね?」

「聞くところによると、純愛モノでファンタジーの歌劇だそうですよ。エイダ様のお好きなハッピーエンドの」

「終わり方は観たときのお楽しみですよヴィンセント様っ!ハッピーエンドだなんて先に言ってしまわないでください…」

ぷく、と頬を膨らませて怒る姿に、つい笑みがこぼれる。全く、我ながら単純だ。彼女の一挙手一投足に苛々していたあの頃の自分は、目的のために必死すぎて捻くれていた自覚はあるけれど。それにしても、惚れた弱みというのは恐ろしい。こんなにも些細なことで、笑えるなんて。

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