囮捜査はほどほどに 新米刑事の受難 [1/4] どこか遠くで自分を呼ぶ声がする。 『……藤!聞こえるか?』 その声に、また何かに取り憑かれてしまっていたのだと理解した。 (だから嫌だって言ったのに……) 体中が痛い。体の節々が、先の尖った何かで突き刺されたかのようにつきりと痛む。 体は重く、体中が軋むようななんとも言えない不快感に、遠藤はようやく意識を取り戻した。 「遠藤!大丈夫か?!」 大丈夫なはずがないでしょう、そう言ってやりたい。それは進藤が一番知っていることだ。 それでもなんとか、 「だいじょ、ぶ。です」 顔をしかめながら答えると、 「もういい。喋るな!」 なんて、理不尽窮まりないことを言われてしまう。貴方が言わせたんでしょうが、そう文句の一つも言ってやりたかったが、どうやら今の遠藤には無理なようだった。 「大丈夫だ。少し眠れ。よくやったな」 今度はすぐ近くで、藤堂の声がした。頭を優しく撫でられ、 「1、2……」 普段は厳しい藤堂の穏やかな声にゆっくり数字を数えられると、徐々に、けれど確実に強い眠気が襲って来る。 ああ、だめだ。もう目を開けてはいられない。一応は本編の主人公である遠藤が強制的に眠らされるその前に、少しだけ彼の紹介をしておこう。 遠藤憲太(えんどうけんた)、23歳。 遠藤は警視庁の刑事部、捜査一課の特殊能力捜査班に、ほんの数週間前に配属されたばかりの新米刑事だ。 身長が163センチしかない上に童顔の遠藤は、就職後初のスーツ姿も就活スーツだとか、七五三だと(主に進藤から)言われ、からかわれている。 それなりの学力が必要な都立高校を卒業後、いじめを受けたことのある遠藤は警察官になるための学校を受験した。根っから真面目な優等生。しかも成績も良かった遠藤は、その後の試験も全て一発合格で、気付けば警察官の巡査部長になっていた。 更に気付いた時には、遠藤は警視庁の刑事部、捜査一課に籍を置く刑事にまでなっていたのである。 いじめを受けた経験から警官になったというのが理由の一つだが、遠藤は子供の頃から警察の制服に憧れていた。実はコスプレが趣味の隠れオタクである遠藤は、警察官の制服を着られただけで満足していて、特に刑事になりたいわけでもなかった。 しかし、区役所に勤める両親に奨められるままに何度か昇進試験を受けた遠藤は、真面目な性格のお陰か全ての試験に一発合格。その結果、23歳で刑事になってしまったわけだ。 有名大卒のキャリア組が辿る道とは違い、23歳なら高卒のノンキャリア組の刑事への昇進としては、最短ルートだと言えるだろう。しかし、特に刑事になりたいわけでもなかった遠藤は、自分の措かれたそんな現状に、ただただ戸惑っていた。 |