帝都は冬。
伝統ある赤煉瓦の建物も、凍える外気に晒されてその色を濃くするそんな季節。それでも、巨大なこの都市は賑わい大勢の人で溢れかえっている。
行き交う人混みの中に、帝都を観光する2人の少女の姿がある。無邪気に笑う赤毛の少女と、そんな彼女にどこか大人びた表情で応える薄紅の髪の少女。
仲睦まじく寄り添う彼女らは、その手にクレープやらホットココアやらを持ち歩く、観光とは名ばかりの所謂食べ歩きの真っ最中だ。
その販売車に行きたい、雑誌に載っていたカフェに行きたい、あっちの出店も気になる。やれタピオカだ、やれポッピングボバだ、姦しく話しながらもうかれこれ5時間は帝都を歩き回っているはずだ。
どちらも華奢な体つきだというのに、その体力はどこから生まれているのだと問いたくなってしまう。
「クロウー? おーい、遅れてるぞー」
「クロウー! 次はこれ買ってー!」
虹色の巨大綿飴の屋台を前に手を振る2人に、やれやれと頭を掻きながら懐の財布を取り出して近づく。この一日で随分と軽くなった中身に、少しだけ肩が落ちた。
本当なら明日は競馬場へ行くつもりだったのだが、この心許ない資金では勝負も何もあったものではない。どうやら諦めた方が良さそうだ。
「あっ! あのアイスクリーム美味しそうですよ!」
「本当だな。よし、行こうか」
腕を組んだまま歩き出した2人の軽い足取りが、ふと止まって振り返る。大きく手を振る。笑顔で名前を呼んで、早く早くと手招く。
まぁ、たまには良いか。表には出さず、呆れた表情を繕ったままで彼女らに歩み寄った。
こんな穏やかで平和な世界で
妹と
妻と過ごす──そんなあり得なかったはずの日常は、冬に凍える身体にも金欠に寒くなる懐にも容赦なく温もりを与えて、たちまちのうちに溶かしていってしまうのだから。