鳳の章 第一幕
『プレタポルテの憂鬱』
5


「ちょっと待てーー!」


 真っ先に口を開いたのはパイモンだった。


「なんでそこでマルタが犯人になるんだよ!? マルタの無実を晴らそうとするんじゃなかったのか!?」


 空中で地団太を踏む彼女にも、マルタ同様冷淡な視線が注がれる。ひ、と一瞬怯みはしたが、それでも今回ばかりは自分に義があると信じているので断固と踏みとどまった。


「おチビちゃん、俺は犯人を見つけると言ったんだ。何も嘘はついていないと思うけど?」
「だって、だって……!」
「パイモンちゃん」


 タルタリヤ相手になお食い下がろうとするパイモンを、マルタはそっと制した。

 重要参考人を庇いたてるだけで、社会的立場は徐々に削られていくものだ。自分はファデュイだからいい。見えない石を投げられることには慣れている。だが旅人の、モンドの英雄の、璃月の救世主の名は、今度もテイワット中に刻まれていくものだ。汚点を残すには忍びない。


「……あくまで公子様は、私が犯人だとおっしゃるんですね」
「そうだね」
「では、証拠の提示を要求します。いくら公子様と言えども、根拠なく罪を問うことはできません」


 冷や汗がマルタの頬を伝う。平静を装っていることなど、タルタリヤはとっくに見抜いていた。

 マルタからすれば、タルタリヤの行為は裏切りに近い。窮地を救うふりをして逆に窮地に立たせようとしているのだから、善悪はどうであれ不義であることは確かだった。ならばその不義の理由が知りたい。

 もちろん、と深海の目が細められる。その一直線上で、夕日に照らされたアイリスが炎のように揺れた。


「まずは目撃情報だ。犯行時刻は昨夜遅くって話だったけど、総務司は具体的な犯行時刻について把握してる?」
「ええ。事件当時被害者と一緒に現場にいたとされる男児の話から、昨夜一時未明が犯行時刻だと推測されます」


 総務司の女はタルタリヤの急な問いにも臆することなく、淡々と情報を述べた。

 おそらくその男児が、日中大衆の面前でマルタが犯人だと宣言した被害者の兄なのだろう。なぜそんな時間に子供達だけで璃月の外にいたのかという疑問はあるが、それは現時点で議論すべき問題ではない。


「それで君は? 犯行時刻はどこで、何をしていた?」
「……北国銀行で残った仕事を。それは公子様自身もご覧になられたかと思いますが」


 なんて時間まで仕事をさせているんだファデュイは。咄嗟に旅人の頭に過重労働の文字が過ぎったが、あえて口にはしなかった。


「ああ、確かに見たよ。君が仕事部屋に入っていく姿はね」


 ならば、マルタのアリバイは証明できるはずだった。けれどタルタリヤの言葉はそこで途切れることはなく、さらに氷雪を纏ってマルタに突き付けられた。


「けど、それだけじゃ君のアリバイの証明にはならないよ。ワープポイントがある限りは」


 冒険者であれば誰でもワープポイントの使用は可能だ。冒険者協会に所属せずとも、知識さえあれば移動自体はできる。ファデュイであるマルタも例外ではない。

 犯行現場はワープポイントのすぐ側だ。タルタリヤが目撃したのはマルタが仕事部屋に入っていく姿であって、彼女が仕事をしている姿ではない。扉を閉めた後にワープをしたのであれば、十分犯行に間に合う。

 でも、と旅人が疑問を挟む。


「北国銀行にマルタが帰ってくる所を見た人はいるの? もしいないなら、マルタが部屋から出ていない証明になると思うけど」
「確かに少し前までならそうだったけど、今はポケットワープポイントがある。予め部屋に設置しておけば北国銀行のエントランスを通らずに部屋に戻れるよ」


 それは、つい最近発明されたワープポイントの代わりとなるものだ。現在テイワットに存在するワープポイントはその地と固く結びついており、人の手で移動をさせることが叶わない。そもそも原理すら完全に解明できていないのだから、人工的に手を加えることなどできるはずもなかった。

 しかしテイワットはたった数十ヶ所のワープポイントで補えるほど狭くはない。現存のワープポイントだけでは少々使い勝手が悪いと開発されたものこそ、期限付きという条件と引き換えに場所と時間を問わず自由に設置できるポケットワープポイントの存在だった。


「でも、マルタがそれを使ったっていう証拠もないはずだろ?」
「まあ、使用者であれば自然消滅を待たずに消すことができるからね。そうすれば証拠は残らないから、確かにおチビちゃんの言う通りだ。……でも、使っていないという証拠もない」


 部屋に入る瞬間をタルタリヤが目撃した後、扉を閉めてポケットワープポイントを設置する。その後璃月港北のワープポイントまで飛び、犯行後は部屋にあるポケットワープポイントを利用して帰って来れば、誰にも見つからずに犯行現場と北国銀行を行き来することができる。その後ポケットワープポイントを消し、証拠を隠滅してしまえばいい。ポケットワープポイント自体に強い元素はこもっていないため、今から部屋を調べても何の痕跡も残っていないだろう。

 あくまで可能性の話。彼女が犯行時刻部屋にいた可能性と部屋を出た可能性はこれで半々だ。けれど、アリバイを崩すにはそれだけで十分だった。


「次に、犯行に使用された凶器のナイフだけど……」
「公子殿、それはこちらから」


 タルタリヤの言葉を遮って総務司の女が前に出た。凶器を回収したのは総務司であるため、彼女が情報を提示するのは妥当だ、とタルタリヤはあっけらかんとした笑みをはりつけて引き下がる。


「被害者の父親によると、犯行現場にこちらのナイフが落ちていたとのことです」


 そう言って女が取り出したのは、北国銀行でタルタリヤが旅人に見せたものと全く同じナイフだ。唯一の相違点として、女が取り出した方には刃に乾いた血が付着している。包んでいる布にも同様に血痕が残されており、昼に父親が北国銀行に持ち込んだ時と同様の姿だった。おそらく鍾離に仲裁に入った後、そのまま総務司に引き渡したのだろう。


「ご覧の通り刀身と柄の間にファデュイの紋章が彫られています。ファデュイで実際に使用されていたもので間違いない……そうですね? 公子殿」


 タルタリヤが発言せずとも総務司の方である程度調べは付いていたらしい。特に否定する理由も見当たらないため、そうだよと簡潔に肯定した。


「ではお聞きします、マルタ殿。貴女はこのナイフを所持していましたか?」


 総務司の女が射殺すような眼でマルタを見つめる。


「いいえ。ナイフの存在自体は知っていますが」


 事実だった。そのナイフは正式回収前にタルタリヤがコレクションに加えたものを除くと、所持しているのは192人のアライアのみだ。ナイフが彼女たちに渡されたのはマルタが生まれる前なので、当然マルタはナイフに触ったこともない。

 総務司の女はアライアの存在こそ知らなかったが、そうなるだろうと予期していた。このナイフの所持者がマルタでもマルタではなくとも、凶器の持ち主であると認めることは自分の容疑が深まるリスクを高めるだけだ。彼女が否定するのは当然の行動でもある。


「ちょっといいかな」


 タルタリヤが間に入ると、総務司の女は怪訝な目で彼を見上げた。

 先ほどからこの男の目的がわからない。マルタの容疑を晴らすために彼が璃月を走り回っていたことは知っている。だからこの場でもてっきりマルタの弁護をすると思っていたのに、彼の口から出てきたのは彼女を庇うどころか彼女をより追い込むための言葉だった。まるで人が入れ替わってしまったかのように行動が矛盾していた。

 けれど相手はファデュイ執行官の一人で、公子だ。異国とはいえ立場は総務司の女よりも格段に上で、璃月七星にも匹敵する。どうぞ、と渋々発言権を譲ると、女の代わりにタルタリヤがナイフを持った。


「そういえば、現場には元素痕が残されていたそうだね。君の神の目と同じ、炎元素の痕跡が」


 自分の目で確認したくせに何を白々しい、と旅人の目がまた一段と冷ややかになった。隣にいる鍾離は一切表情を変えずに静観しているが、見ようによってはタルタリヤの出方を探っている様にも見える。


「他の火元から松明か何かで火を持ってきたのなら、元素痕が糸を引くように残されてるはずだ。だけど現場に残っていた元素痕はある一点から放射状に伸びてる。何もない場所で突如爆発が起こったみたいに」
「総務司は神の目の使用、もしくは宝盗団の使う元素薬を使用した可能性が高いと見ていますが……」
「なら、この際はっきりさせようか」


 タルタリヤはそう言って、今度はマルタではなく総務司の女に目を向けた。


「犯行現場の足元に、真新しい傷が見つかったりしなかった?」
「傷……ですか?」


 女は思いがけない問いに不思議そうな顔をしながらも、手元の冊子をぺらぺらとめくって資料を再度吟味した。全ての紙をめくり終わったところで、頭を振る。


「いいえ。そのような報告は上がってきていませんが」
「となると、元素薬の線は薄いかもね」
「……どういうこと?」


 旅人とパイモンが同時に首を傾げる。するとタルタリヤは懐から手のひらに収まる程度の小瓶を取り出し、見えるよう軽く掲げた。


「これ、俺がさっき宝盗団から奪っ……ちょっと拝借してきた元素薬なんだけど」


 縦長の瓶の中で赤い液体がちゃぷりと揺れる。

 旅人はつい寸刻前に彼から貰った鴉マークの詰まった袋を思い出して、あっと声を出した。わざわざ彼が、彼曰く何の面白みもない宝盗団に喧嘩を吹っかけるなんて、と思ってはいたが、あの鴉マークは元素薬を奪いに行ったついでに収集した戦利品だったのか。


「万が一戦闘以外で割れて不慮の事故でも起こったら大変だから、大半の元素薬は結構硬い材質の瓶に入れられてるんだよ。……こんな風に」


 そこでタルタリヤは、瓶を握っていた手をパッと開いた。彼の手を離れた瓶は宙に放り出され、重力に従って自由落下を開始する。一直線の軌跡は石畳の地面にカンと高い音を立てて跳ね上がり、二、三回小さくジャンプをした後コロコロと転がってマルタの足元で止まった。


「ちょっと落とした程度じゃ傷もつかない。こいつを割るには相当力を入れて叩きつけるくらいしないと駄目なんじゃないかな。でもそんな勢いで投げたとしたら、当然現場に擦過痕が残されるはずだ」


 事件現場は雲来の海が一望できる隠れた絶景スポットでもあるが、同時に常に潮風にさらされる場所でもあった。いくら神の創り出した岩といえども、千年単位で風化を迎えれば脆くもなる。硬いガラスで擦れば傷くらい簡単につくだろう。

 さらに追加で、タルタリヤは事態を静観していた鍾離にナイフを見せつけて問う。


「鍾離先生。元素視覚で何か見える?」
「……いや、そのナイフに元素の痕跡は存在しない」


 旅人もパイモンも、総務司の人間ですら、タルタリヤと鍾離の問答が何を意味するのか理解していなかった。けれど神の目を持たず、元素の流れを目視できない者も皆“往生堂の鍾離先生が言うのならそうなんだろう”とあっさりと受け入れている。鍾離の頭は生きる璃月史なのだと、周知の事実だからだ。


「で、それが一体どうしたの?」
「だって相棒、おかしいと思わない」


 タルタリヤがナイフを器用に回して答える。


「犯行現場には大量の炎元素が残されていた。凶器が落ちていたのも犯行現場。なら、どうしてナイフに炎元素が残っていないと思う?」
「それは……」


 旅人が咄嗟に答えようとしたが、その続きがくちびるの間から漏れることはなかった。

 確かに不可解ではある。出火地点と凶器の発見場所は同じで、ほぼ同時刻の出来事であるのなら、現場と同じようにナイフにも炎元素が付着しているのが自然なはずだ。


「ナイフに土や泥もないから一度遠くに置いたってことはないし、血がついたままだから泥を拭ったってこともない。犯人は立ち去る直前まで凶器を持ったままだったことになる。その状態でナイフに元素を付着させず現場にのみ残すとしたら、遠距離から元素を放つしかない。……そんな器用な真似ができるのは、神の目を持つ人間だけだ」


 再びマルタに視線が向けられる。

 現状マルタは、タルタリヤの述べた犯人像に見事に合致していた。犯行が可能であり、ファデュイであり、炎の神の目を持つ人物。それに加え事件現場にいたという目撃情報もある。旅人だってマルタの為人を知らなければ真っ先に彼女を怪しんでいただろう。

 マルタは十分に考え抜いた後、ゆったりと息を吐き出した。


「……そのファデュイのマークを、左右どちらかに回してください」


 鈴のような声が氷点下にまで下がった空気の中に溶ける。


「グリップ内部の空洞に元素薬を仕込み、必要に応じて放出させるというのがそのナイフの運用方法です。犯行に使われたのがそれであるなら、神の目の有無は条件から外れるかと」
「……公子殿、それは本当ですか?」


 マルタの証言に総務司の女は目を丸くし、タルタリヤを凝視した。総務司側もグリップ部分の軽さには気付いていたが、内部に元素薬を仕込めるという仕掛けを暴くまでには至らなかったのだろう。ファデュイ以外には仕掛けが露呈しないよう工夫が施されていたので当然とも言える。


「その仕掛けがあるとして、ナイフに炎元素が付着していないのはどう説明するつもり?」
「内部に入れられる元素薬は最大二種類までです。おそらく片方に炎元素、もう片方に水元素の元素薬を入れ、現場に炎元素を残した後水元素を使って蒸発反応を起こしたのではないでしょうか」


 異なる元素を掛け合わせることで元素反応を起こせるというのはテイワットでは常識だが、元素反応を起こした際に両方の元素が消失する現象が起きるものもある。炎と水で起こる蒸発反応もそのひとつで、付着した炎元素と同量の水元素をかけ合わせれば元素自体が相殺される。

 現場に放たれた炎元素はおそらく一瞬の事だ。既に炎が消えた場所には痕跡こそ残るものの、立ち入っても元素に染まることはない。そうやって犯人は元素を消したナイフを現場に残し、あたかも神の目で起こされた事件に見せかけて立ち去った……というのがマルタの推測だ。

 それは、この会合が始まる前にタルタリヤと旅人が突き止めた真実でもある。今マルタの口から語られたシナリオは、本来タルタリヤの口から出るはずのものだった。それがどうしてかタルタリヤの立場が逆転し、当初の筋書きから逸れてしまっている。

 パイモンが本来の脚本に戻りかけたことで満足げに頷いた。璃月では大悪党と罵られる公子の名は、今この場においては旅人とパイモンから見ても相応しいと感じられる。しかし彼らの脳内で罵られている当の本人はそんなことは意に介さず、ふっと口角を上げ、


「ああ……確かに、彼女の言う通りなんだろう」


 そう認めた。


「はあ〜〜〜!? じゃあ、今までのは一体何だったんだよ!?」
「まあ落ち着いておチビちゃん。そうだ、こうしよう。最後に俺が一つ……いや、二つだけ質問をして、それで終わりにしようか」


 ありえない、とパイモンは顔を真っ赤にしたが、これでタルタリヤの矛盾だらけの行動の意味を知れるのならと旅人がそっとなだめた。その怒りは、全てが終わった後で思う存分ぶつけてもらうとしよう。

 さて、とタルタリヤとマルタが向かい合う。張り詰めた空気の中にどこか吹雪のような不明瞭さと、つららのような尖ったものを感じたのは、二人がスネージナヤ出身だからだろうか。凍えるほどの冷気を全身に浴びながらも凛と立つ彼女は、これが物語であれば間違いなく主人公だっただろうに。


「君が犯人じゃないとすれば、その推理はきっと正しい。ナイフの仕掛けも君が言った通りだ。ファデュイ執行官“公子”タルタリヤが保証するよ」


 海色の目はさらに深みを増して、息を吐き出した。


「だけど……どうして君がそれを知っている?」


 意味深な問いに、マルタは不可解そうに疑問符を頭に浮かべた。


「このナイフは三年前に製造が中止されていて、資料も残っていない。そして君がファデュイに入ったのは二年前だったね。なぜ君が、自分が入る一年も前に廃棄処分になった武器のことを知っている?」


 そんなの、決まっている。彼だって知っているはずだ。


「それは、アラ――……っ!」


 ごく自然と、脳内に流れるがままに言葉を紡ごうとして、はっと口を塞いだ。

 気づいた。気づいてしまった。彼が、公子がマルタに何をしてほしかったのかを。

 アライア。それは、禁忌の名前。女皇陛下の氷で閉ざされた厄災の名称。

 マルタとナイフを繋ぎ止めるのは他でもない彼女たちの存在だ。けれど、それを口外することは禁じられている。彼女たちは表向きには存在しないことになっている。

 その名前を出した瞬間、マルタは氷の女皇の意志に背いたとして然るべき処分を受けるだろう。総務司もアライアについて探り始め、スネージナヤの汚点が白日の下にさらされることになる。

 だから、口を噤むしかなかった。


「それ、は……」


 マルタは言い淀むばかりで、いつまで経ってもその続きを言おうとはしない。否、できなかった。たとえそれが、自身の潔白を主張する唯一の手段だったとしても。

 知っている筈のナイフの仕掛けを話さなかったのは、マルタの口から語らせるためだ。そうやって必要な情報と伏せる情報を絶妙な具合で混ぜ込んで、よりマルタが不利となり、また彼女が口を閉ざさざるを得ない状況を作り上げた。

 この場の誰よりも、公子という男は卑怯だった。彼女が言い逃れや弁解を最も苦手とすることを彼は知っていた。知った上で、あえてその方法を選んだ。彼の無慈悲な言説は追い打ちをかけるようにマルタに降り注ぐ。


「言えない? なら当ててあげようか。それは、君こそがこのナイフの所持者だからだ。君は昨夜未明、北国銀行から璃月北のワープポイントへ飛んだ後、偶然通りがかった被害者を斬りつけた」
「……」
「犯行直前、君は炎元素を放出した。おそらくは目くらまし目的で。被害者が逃げた後炎元素を蒸発反応で相殺しようとしたけど、そこで一つ重大なミスを犯した」
「……」
「このナイフが廃止された理由は内部を隔てる板の欠陥だ。中で二つの元素が混ざり合って勝手に元素反応を起こしてしまうんだけど、君も中で蒸発反応が起きていることに気づかなかったんだろう? ナイフに付着した元素を消す分はあっても、現場自体に付着した分を消す頃には水元素薬が残っていなかった」
「……」


 藤の瞳に影が差す。天衡山から流れた風がふわりと吹いて長い髪を揺らし、美術品のようなかんばせを隠した。まるで、未完成の絵画に布をかけるみたいに。


「だから君は、急遽計画を変更した。……犯行の痕跡を綺麗さっぱり消す方向から、特定の人物に疑いを向けさせる方向に」


 最後の質問だ、と言って、タルタリヤはマルタに一歩近づく。


「……それで、は一体誰?」


 タルタリヤは静かに笑っていた。例えるなら、そう、魔王のような。煉獄から囁くように、彼はマルタを見下ろした。


「おい、公子? 一体何言って……」
「玉京台には香炉が二ヵ所ある。璃月内外問わず毎日多くの人がここに来て香をあげるから、日が暮れる頃には緋雲の丘やチ虎岩よりも若干元素濃度が高まっている……だったよね、鍾離先生」


 それはいつかの酒の席で、鍾離がタルタリヤに向けて授けた知識だった。

 元素は万物を構成している。物体を灰へ還すというのは、元素粒子を空気へ還元する事と同義だ。だから香を焚けば焚くほど、香から分離した元素が空気を漂い始める。と言っても微々たるものなので、元素オーブを形成するには至らないが、と酒を片手に話していたことを彼は覚えていた。


「だからさ、ここにいたら自然と元素が溜まっていくんじゃないかなって思ったんだけど、どう? 相棒。元素爆発使えそう?」
「え? あ、うん……確かに、チャージは終わってるけど……」
「そういえば、公子の神の目もいつの間にか光ってるな……天衡山であんなに暴れたのに」


 ヒルチャール、アライア、宝盗団と戦闘続きのタルタリヤと旅人の元素は、璃月港に帰ってきた頃にはすっかり空っぽになっていた筈だ。だがタルタリヤの神の目は明度の落ちた空の下でぼんやりと輝いており、旅人も神の目ではないが耳や手首の宝飾が元素を受けて輝度を増している。使おうと思えば今すぐにでも元素を放出できるだろう。


「鍾離先生もずっと璃月港にいたから、当然元素は溜まってる。けど……その鍾離先生と一緒にいた君は、どうして元素が溜まっていないのかな」


 タルタリヤの鋭い視線が、マルタの胸元――光の消えた神の目に向けられた。

 彼女は昼から一度も元素を操っていない。消費が無いから蓄積される一方だった筈だというのに、元素濃度の高い場所に移動してもなお元素が溜まることはなかった。


「それは、その神の目が君のものではない……ただの精巧なガラス玉だからだろう?」


 ぎゅ、とマルタが自らの神の目を手で覆い隠す。けれど複数の視線が神の目を射抜いて、まるでその奥の心臓までもが貫かれてしまいそうだった。


「全ては俺の部下を陥れるために君が仕組んだことだ。だよね……マルタの偽物さん」


 鳥の羽ばたく音だけが、静まり返った玉京台の空気を震わせた。

 犯人はおまえだ。けれど、おまえはマルタではない。

 針のような言葉だった。あるいは、極限まで冷やした鉄のような言葉だった。触られてはあっという間にしもやけになってしまう手で、タルタリヤはべたべたと触れた。

 止めたのはパイモンと、総務司の女だった。


「ま、待て待て! マルタの偽物って、いったいどういうことだよ!?」
「公子殿、あくまでそれは憶測に過ぎません。ここにいる彼女がマルタ殿ではないという証明はまだ……」
「なら神の目を使ってもらえばいい。神の目は一人に一つ、本人にしか使えないんだから、一種の身分証だ」


 飄々と告げる公子に女は頭を抱えたくなった。こんな傍若無人っぷり、どこもかしこも契約で雁字搦めな璃月ではなかなか味わえない。


「……マルタ殿。恐れ入りますが、神の目を使って見せていただけますか」


 仕方ないから、ずきずきと痛む頭を抑えて総務司の女はマルタに頼み込んだ。泥のような事態を少しでも濾過したい気持ち半分、あとは岩王帝君の膝元でこれ以上公子に好き勝手されたくない気持ちと、ほんの少しの疑いが上手く混ざり合った具合だった。

 しかし、想像に描いた炎は、いつまで経っても現れることはなかった。


「……マルタ殿?」


 神の目を、と再度問いかける。だが彼女は目を伏せるばかりで、元素を動かす事すらしなかった。

 僅かに時間をおいて、最後のカラスが羽ばたくと同時に、彼女は果実のようなくちびるから息をこぼした。


「……ええ、分かりました。きっと、そういうこと、なんですね」
「マルタ?」


 そうわけのわからないことを呟いたかと思うと、彼女の体がぐらりと傾いた。慌てて旅人が肩を支えようとしたが、


「!? 痛っ……!」


 バチン、と音が鳴って痛覚を刺激する。一体何なんだ。痺れの残る左手を反対の手で擦り、瞼を開く。

 マルタが衆目に向かって右手を伸ばした。白い外套から伸びる腕は同じくらい真っ白で、夕日に照らされた姿は救済を告げる天の使いのようにも見えた。

 その手からいつも、灼熱が生み出される。それと全く同じ動作で、彼女は元素を寄せ集めた。

 そこに現れたのは、万象を焼く焦熱の炎――ではなく、夕闇を裂く紫電の一閃。









「え……?」


 マルタが差し出した右手をぎゅっと握り、横へ払う。紫電はそれに追従するかのごとく放射状に走り、静粛とした玉京台に雷鳴をもたらした。

 その轟きを、旅人は知っている。一度目は黄金屋で公子と刃を交えた時に。二度目は、天衡山でアライアの襲撃に遭った時に。


「邪眼……!」
「まさか、今までオイラ達と一緒にいた方がアライアだったのか!?」


 パイモンの叫びに弾かれるように、彼女は走り出した。控えていた千岩軍が逃げる彼女を取り囲み、槍先を向ける。だが所詮は神の目を、邪眼を持たない人間だ。明滅する雷の速度にはどうやったって追いつけはしない。

 跳躍。天地をひっくり返し稲妻を放つ。彼女の手を離れた雷光は槍を薙ぎ落とし、いとも簡単に場を圧倒する。流水の如き身のこなしは、以前鍾離が路地裏で邂逅を果たした時よりも洗練されているような気がした。

 千岩軍の包囲網をするりと抜け、塀や木をトントントンと駆け上がる。虚弱さの欠片など一切見せずに、あっという間に月海亭の屋根までたどり着いてしまった。


「公子様の言う通り、犯人は私です。ですので、私を拘束したいのでしたら、どうぞ青墟浦の東までいらしてください」


 きっと、そこが終点でしょうから。

 彼女はそう完結に言い残し、雪のような外套がふわりと宙に浮いた。かと思うと、屋根から飛び降りた背が下へ下へと垂直に落下し、建物の陰に隠れてしまった。

 誰もがあっけにとられたまま数秒の時間が流れ、はっと我に返った者から順に慌てて足を動かし始める。


「は、犯人が逃げたぞ! 追え!」
「そ、空! オイラたちも一緒に……」
「待て、旅人」


 ばたばたと建物を回り込む千岩軍に続こうとした旅人とパイモンだったが、今この場で最も冷静沈着であろう男に呼び止められた。


「鍾離先生、本物のマルタは……」
「本物も何も、今立ち去った彼女がマルタ本人だ」
「……えっ?」


 絶句。開いた口が塞がらないとはこの事だろうか。ええ、と叫びかけた二つの口はすぐさま背後から伸びてきた手に押さえつけられ、むぐ、とくぐもったうめき声を上げるだけだった。

 なんだ、と不満の詰まった目で睨みつけると、亜麻色の髪がふわふわと揺れるのが視界に映った。


「公子殿にしては随分と強引な茶番だったな?」
「……やっぱり鍾離先生にはバレちゃってた?」
「神の目とガラス玉の違いくらいさすがに分かる」
「あはは。まあつい最近まで神様だったんだし、それくらい看破できて当然か」


 総務司と千岩軍、そしてその他の関係者が皆何一つ聞いていないことをいい事に、二人の男がぺらぺらと語り始めた。その間に挟まれた旅人としては堪ったものではなかったので、比較的ほっそりとした、でも得物を握るには十二分な筋肉のついた腕をばんばんと叩く。ようやっと手が離されたところで、旅人は大袈裟に息を吸い込んだ。


「今の、本当? さっきのマルタが本物って……」
「そうだよ。アライアはみんな同じ顔なんだ、向こうがこっちに成りすませるんなら、こっちだって向こうに成りすませて当然でしょ?」
「それは、そうだけど……」
「けど、なんでマルタはそんなことしたんだ!? あの様子じゃ、まるで……」


 アライアを、犯人を庇ったみたいだ。

 本人の自白により、総務司はマルタが犯人であると確定した。マルタ自身は姿を消して追われる身となり、被害者の父親は彼女が消えた方角へ向かって呪詛を吐き続けている。全て、真犯人が被るべき罪だと言うのに。


「色々言いたいことがあるのは分かるよ。でも、悪いけど今は後回しにしてくれないかな……まだやらなきゃいけないことが残ってる」
「うん、マルタを助けに行かないと」


 感情的なパイモンとは対照的に、旅人は比較的冷静だった。以前から世界を渡る旅をしているからだろうか、状況判断能力は並みの人間よりもずっと高い。その内他の執行官からスカウトされそうだなという感想を喉の奥に押し込んで、タルタリヤは頷いた。


「邪眼はその力の代償に命を削る。元々体の弱い彼女じゃ、璃月港を出た瞬間に倒れていてもおかしくはない」
「じゃあ、オイラたちも一緒に……」
「いや、相棒たちは鍾離先生とここに残って」
「でも……」
「今回の事件のせいで総務司も千岩軍も大騒ぎだ。璃月一の大悪党よりも、モンドの栄誉騎士で璃月の救世主である君が話した方が収拾がつく」


 今や巷で公子だなんて名乗ろうものなら反感を投げつけられる始末だ。対して旅人は、モンドを救い璃月を守り、さらに冒険者としての地位も高めつつある期待のスター。璃月七星だって旅人直々の話であれば、書類を捲る手を休めて耳を傾けるだろう。

 だから、表の世界で輝くのは君。舞台裏で血を流すのが俺。

 旅人とタルタリヤの関係は、そんなものだ。


「……分かった、やってみるよ。鍾離先生は公子と一緒に行くの?」
「いや、先生の役割は別にあるよ」
「別?」
「そう。たぶんもうそろそろ……」
「――公子殿」


 そう呼んだのは、普段流れるようにうんちくを垂れ流すテノールではなく、ぴんと張った糸のように硬い女の声だった。


「現時刻をもって、総務司・千岩軍双方はマルタ殿を犯人と見て捜査を再開します。しかし、スネージナヤからの使者であるファデュイの一人が璃月の民間人に傷を負わせたとなれば、もはや私たちのみで手に負える問題ではありません」
「……」
「よって、この件は璃月七星に報告をし、ご判断いただきたいと考えておりますが、公子様もそれでよろしいですね?」


 これは、外交の話だ。外つ国の使者が自国の民に傷を負わせた。しかもその外つ国は、国交において各所と軋轢を生んでいると話題のスネージナヤである。表面上は友好的な交流を続けてはいるが、七星は常に手を切る口実を探していた。実際問題、貿易によって経済自体は潤ってはいるが、北国銀行の参入によって璃月の資本は徐々に食いつぶされているのだから。

 今回の一件は、ファデュイの勢力を削ぎ落すのに絶好な機会だった。それ故に、璃月の実質的な統治者である七星に判断を仰がなければならない。

 そしてタルタリヤは執行官の一人で、璃月内にいるファデュイの最高責任者だ。璃月の地でファデュイが問題を起こしたとなれば、当然監督責任を問われる。


「分かった。今回の件について、判断は全て七星に委ねる。その変わり一つ約束してほしい」
「約束……? 契約を結ぶ、と?」
「そんなお堅いものじゃないよ、あくまで約束」


 はて、と総務司の女は訝し気にタルタリヤを見上げるが、口を挟むことはなく続きの言葉を待った。


「七星は、必ず真実を吟味して公表すること。要求はそれだけだよ」
「……承知しました。その旨、七星にお伝えいたします」


 女が一礼し、千岩軍の元に戻ろうとする。

 が、彼女が振り返ると同時に、あのお、と一歩引いた男の声がかかった。


「こちらにファデュイの公子様がいらっしゃると聞いてやって来たんですが……」
「ん? ああ、公子は俺だよ。何か用事?」


 二十代後半くらいの、まだ若いとも言える男だった。上下緑の見慣れた制服を着ているので、冒険者協会の人間だと言葉にせずとも分かる。冒険者、と呼ぶには多少弱々しいような気もするが。少なくとも旅人の知り合いではない。

 タルタリヤが名乗ると、彼は不安を煮詰めた顔をぱっと明るくさせた。


「ああ、良かった。一度北国銀行に行ったんですが、今は玉京台に行っておられると聞いたもので。実は、モンドのファデュイの方から公子様宛の手紙を預かっておりまして」
「手紙……? ああ、あれか」


 封蝋の押された手紙を受け取り、送り人を見る。確かに、現在モンドに滞在しているファデュイの人間の名だった。


「ファデュイも冒険者協会に依頼をすることあるんだな……」
「これはファデュイっていうよりも北国銀行の案件だけどね。ちなみに相棒が昼間受けてた植物の採取依頼、あれも北国銀行が冒険者協会に出したやつだよ」
「あれお前の依頼だったのかー!?」


 正確にはタルタリヤではなく、他の北国銀行職員が出した依頼であったが。

 衝撃の事実だった。冒険者協会から紹介される依頼は、依頼人の意志により匿名であることも多い。その場合依頼品を直接冒険者協会の受付に渡すのが通例なのだが、まさかあれの行先が北国銀行であったとは。セシリアの花やら琉璃袋やらでいっぱいいっぱいになった袋と銀行が結びつくとは思えなかったが、彼が言うのだから一応事実ではあるのだろう。

 冒険者の男は視線を動かし、旅人の顔を見ると大いに驚いて声を張り上げた。


「って、よく見たら旅人じゃないか! あれ、どうして璃月に? 今はドラゴンスパインにいるんじゃなかったか?」
「え?」


 旅人の金色の瞳がぎょっと見開かれる。パイモンも同様の様子で、傍から眺めていたタルタリヤがこの二人似てるなと思うよりも早く、小さな口から叫び声が飛び出した。


「いやいや、オイラたち、ドラゴンスパインなんて行った事もないぞ!」
「そんなはずは……ここに来るのにドラゴンスパインを通ったけど、俺、確かに旅人の姿を見たぞ」


 がつん、と旅人の頭がかき混ぜられた。

 ドラゴンスパインはモンドにある雪山の名称だ。温暖な気候と隔絶された氷の地は、名立たる冒険者でさえも油断すれば命を落とすとされている。モンド内であればどこにいたって山頂が見えるので存在自体は知っていたが、もう少し準備をしてから挑もうとパイモンと約束をしていたはずだった。

 なので、きっとこれは彼の見間違いか何かだ。そう思って至極真っ当な説明をしようと口を動かした時、今度は全く別の声がそれを塗り潰す。


「だから、さっきからずっと言ってるだろ!? 本当にお前が夜泊石20個を注文して来たんだって!」
「そんなでたらめがあるか! お前が言う時間、俺は軽策荘にいたんだぞ! 注文なんてできるわけないだろう!」


 千岩軍の指揮と男たちの口論が混ぜこぜになって、夕暮れの玉京台に混沌が訪れた。怒号を飛ばし合う二人組が遠方から近づいて来たかと思うと、総務司の女に詰め寄って互いに指を指し合う。


「ああ、総務司の方! こいつ、こいつを捕まえてください! うちの店で確かに夜泊石を頼んだくせに、料金を踏み倒そうとしているんです!」
「全部こいつの嘘っぱちです! 俺は昨日軽策荘にいたんだ! ほら、範木堂の領収書だってある! こいつ、俺から金を奪おうとありもしない取引をでっち上げやがった!」
「何を……!」
「落ち着いてください」


 さらに白熱しそうな言い争いに対し女がピシャリと冷水を浴びせると、男たちは渋々口を閉じた。女は強し、と言うよりは、この総務司の女の眼力が強いのだろう。

 軽策荘に行ったと言う男から領収書を預かり、書面を見る。上から順に店名、男の名前、購入品名、日時を確認し、そして再度口を開いた。


「確かに、これは範木堂の領収書で間違いありませんね。あそこの家具には総務司もよくお世話になっていますから、見間違えるはずはありません」
「や、やっぱりそうですよね! ほら見たことか!」
「そんなはずありません! そうだ、こっちだって帳簿を付けているんです! こいつが自分で書いたサインだってあるんですよ!」


 そう言うと店屋の主人は懐から冊子を一つ取り出して、女に向けてページを広げて見せた。何も怪しい箇所なんてありません、と堂々と見開きにして渡したので、近くに立っていた旅人とパイモンの目にも自然と留まってしまう。

 確かに、範木堂の領収書の宛名と全く同じ名だった。購入時間に十数分の差異はあるが、璃月港と軽策荘はとてもその程度で移動できる距離ではない。ワープポイントでも使ったのなら話は別だが、この男の身なりからして冒険者という事はないだろう。


「どういうことだ? まるで同じ人が全く別の場所に現れたみたいだ……」
「……同じ人物が、別の場所に?」


 何気なくパイモンが放った言葉を、総務司の女は怪訝な面持ちで復唱した。

 璃月にいたはずの旅人がドラゴンスパインで目撃され、軽策荘にいたはずの男が璃月港の石材店を訪れ――北国銀行にいたはずのマルタが、璃月港北に現れた。

 ありえないことだ。けれど、ありえないことが起こるのが璃月だ。かの岩王帝君は天に還ったが、魔性の類が全て消失したわけではない。妖魔は未だ人間のすぐそばに潜んでいる。かつての大戦で眠った多くの魔神も、いつの日か再びその眼を開く時が来るだろう。

 3700年間、璃月はそうした魑魅と長い時間を過ごした。過ごしたからこそ、例え点と点と繋いでできた虚像のようなものであっても、人は名をつけ、理由を当てはめてしまう。


「……鍾離殿。つかぬことをお聞きしますが、離魂……いいえ、ドッペルゲンガーというものをご存じでしょうか」


 魔神戦争時代から続く往生堂の客卿。今この瞬間は、この場の証人でもある。

 鍾離はその時、ようやくタルタリヤの言葉を理解した。なぜ自分に割り当てられた役割が、“立会人”ではなく“証人”であったのか。

 証人。証を示す人。

 その口からこぼれる言葉は、全て噓偽りのない真実でなければならない。

 そして、璃月の人は皆知っている。鍾離の頭は、生きる璃月史なのだと。


「ああ……確かに、ドッペルゲンガーと呼称されるものは存在する」


 彼は決して嘘をつかない。けれどそれは、事実のみを話すというわけではない。

 事実は常に一つだけだが、真実も常に一つとは限らない。塩の民がヘウリアを殺したのは岩神モラクスだと信じているように、真実なんてものは個人の信条や解釈によって容易に捻じ曲がる。

 都市伝説上のドッペルゲンガーなんて本当は存在しないのかもしれない。けれど、全く同じ顔で、全く同じ存在である者をドッペルゲンガーと名付けるのであれば、アライアシリーズはそれに該当してしかるべきなのだろう、と。

 鍾離がまるで講談師のように語り始めたのを見て、タルタリヤはひそかに口端を吊り上げた。
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