ぜろからいち
蒼は新開君と付き合う気がする。
授業に身が入らないのは、今朝友人に言われたその一言のせいだ。
彼女が何を根拠にそんなことを言うのかわたしには全くわからなかったし、今後わかるようになるとも思えなかった。
確かに彼との仲は悪くない。
悪くはないがそれはわたしが彼の特別というわけではなく、彼が誰とでも仲がよいということだ。
そしてわたしは、申し訳ないけど彼をただの恥ずかしい男だと思っている。
指で銃を打つようなポーズを恥ずかしげもなくしてみせる男を、他にどう思えばいいというのか。
「蒼?何怖い顔してるんだ?」
気づけば目の前に新開が立っていた。
いつの間にか授業は終了しているようだ。
「え、あ、や、別に…」
「別にって顔じゃないだろ?」
言ってみろと言われて、まあいいかと口を開く。
「ご本人に言うのもどうかと思うけど、新開が言えって言ったんだからね」と釘だけ刺して、友人の言葉を彼に伝えた。
「へえ…」
「なんでそんなこと言うんだろうね?わたし別に新開好きじゃないのに」
「おめさん、本人を前にそれはないんじゃないか?」
「んー、ご自分でどう思われてるか存じませんが、あの狙い撃ちするみたいなポーズとか、恥ずかしげもなく恥ずかしいセリフ言っちゃうあたりとか、むずが、ゆく、て…、」
どんどん眉の下がる新開に、ちょっと申し訳なくなって言葉を切った。
これはフォローが必要かもしれない。こんなズバズバ言われたら落ち込むに決まってる。
「とわたしは思うけど、新開女の子に人気あるし、わたしがおかしいのかもだからそんな悲しそうな顔しないでよ」
「蒼はオレの好きなところ、ひとつもないか?」
そう言われて、素直に考えてみる。
新開はいつもの補給食の包みを開けてぱくりとくわえた。
新開の好きなところ。
「そうだなあ…優しいし気遣えるし、あ、その髪型も似合ってると思う」
異性として好きかどうかを別にすれば、いいやつだと思う。考えてみればこうしていいところもいくつか出てくる。
褒められたのがうれしいのか、わたしの前でふにゃと笑う顔もかわいいと言えなくもない。
あれ、意外に新開のこと好きなのかも?
「それでも、オレと付き合う可能性はないのか?」
「え、うん」
「即答はちょっとへこむぞ」
がくうと肩を落として見せる新開に笑ったところで、ふと彼を異性として見る日が来るのだろうかと考える。
「いや、ないな」
「ないかどうか、試してみるか?」
心を読んだのかわたしが口に出したのかは知らないが、その挑発にのってみるのもありかなと思った時点でわたしの負けは決まっていたのかもしれない。
× × ×
友人があんなことを言ったのが新開に頼まれたからだと知ったのは、彼がクセになってきてしまった後だった。
新開君に恩を売っておいて損はないと言い放った彼女には、なぜだか納得してしまう。
「そうでもしないと手に入れられなかっただろ?」とのたまう彼に、わたしは最初から勝てるはずがなかったのだ。
「あ、もひとつあった、新開の好きなところ」
「ん?」
「直線鬼んときの顔」
「…おめさん、変わってるな」
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Around and around*