6.理性と衝動


荒い呼吸のままオレの上から逃げるようにベッドの隅に移動した深空の目の前に、鉄の小さな鍵を掲げた。

「コレ、なにかわかるよなァ?」

焦点を合わせた深空がハッとした顔をするのを見ながら、オレは今けっこうな極悪面してンだろうなと思う。奪い返そうとする深空の手をかわし、自分を拘束している邪魔なそれを外した。ようやく自由になった手首を回して「さてと」と声を出すと、深空の肩が小さく跳ねた。

「ソイツはオレが警察に行くとか考えなかったっショ」

「……わたしがどうなっても、どうでもいいんじゃない?」

視線を落として諦めたように呟く深空の言葉に、ふざけてんな、と眉間にしわが寄った。

「手錠でも身体でも使えって、言ってたし」

「は…?なん、だよ、それ…」

そんなヤツに深空がいいようにされてるのかと思った途端、スッと冷静になる自分がいた。
深空の左手首を持ち上げると、強く握りしめていたのか爪の痕がてのひらについている。

「な、に…?」

「深空のお願い、きいてやるっショ」

「え……」

「その代わり、お前の時間はオレがもらう」

いいよなと言いながら、オレは困惑する深空の左手首にガチャリと手錠をかけた。


「っ……ん、…ふ…」

「…は…」

そのまま深空を組み敷いたオレは、もう何度目かわからない口づけを落とした。上唇と下唇を自分のそれで順に柔く挟み、呼吸をしようと深空が開けた小さな隙間から舌を挿し込む。目を開けると、自分の髪が深空の顔を覆うように流れて、彼女を捕らえた感覚に体がゾクリと粟立った。
歯列、上顎と舌を這わせ、最後に彼女の舌を絡めとり吸い上げた。
そうしながらTシャツの裾から手を差し入れ、その滑らかな肌に触れる。ピクリと反応した深空に気をよくして、肌を撫でながらその手を上へと滑らせていく。
下着の上からやわやわと胸を揉むと、小さく声が漏れた。

「…ん…」

諦めたのか快楽に堕ちたのか、はたまた最初からそのつもりだったのか、深空の声は甘い。

「深空…」

「、……?」

「ソイツとは、どこで会った?」

逸る気持ちと体を抑えて聞くと、うっすらと目を開けた深空は嫌そうに眉根を寄せた。首筋をねっとりと舐めあげ、指の力を強くすると、オレの手に合わせて下着の中の深空の胸が形を変えるのがわかった。

「…ん、うちの会社の…会長が…着物を」

「ソイツに頼んだ?」

いつだったか、その会社が着物のデザインも手がけるようになったと聞いたような気がする、と頭の片隅で思いながら、言葉を引き継いだ。
小さく頷く深空に、胸を揉む手はそのままに、顔をそらせた耳元にキスを落とす。次いで背中に手を回し、ホックを外した。開いた隙間から下着の中に手を滑り込ませると、しっとりと柔らかな感触が手に吸いついてきた。

「ここ、硬くなってるっショ」

「や、っ…!? 」

ツンと主張した先端をつまむと、ビクリと体を震わせて目を見開いた深空が声を上げた。伸ばそうとした左手が鎖に阻まれ途中で止まる。

「で?なんでソイツと深空がつき合うことになった?」

「っ……、」

いやいやと首を振る深空のシャツを下着ごと押し上げ、きめの細かい肌を露わにする。突然素肌をさらされた深空は恥ずかしそうに小さく身じろいだ。
好きな女のこんな姿を見て、のんびりしていられるほどオレは大人じゃない。いや、もうすでに結構前から余裕なんてほとんどないのが正直なところだ。
一方をこりこりと指でいじりながら、もう一方の頂に舌を這わせた。

「!あ、んぁや…ぁ……」

逃げようとする深空の体に腕を回して押さえつけ、胸の先を甘く噛んだり舌先で押しつぶしたりを繰り返す。太ももを撫でショーツに指を這わせると、そこはすでにしっとりと湿っていた。閉じようとする脚の間に体をねじ込み、「で?」と薄い布の中へと指を埋めて先を促す。

「や、だ…」

クチュリ、と絡みつく粘膜の音とナカを擦る緩い刺激に、眉を下げて浅い呼吸を繰り返す深空は、耐えきれないと言うように口を開いた。

「っ、……その着物に…後輩がしみ、つけて、…あ…それをかばっ、たら」

浅く深く往復させていた指の動きを止め、深空を上から見下ろす。与えられていた感覚が消えた深空は、熱に浮かされた顔でオレを見て腰を揺らした。

「まき、し、まくぅ…ん…」

「ッ…」

熱い吐息と厭らしいその姿に、ドクンと下肢に熱が集まった。

「……マジ限界っ、ショ」

そんな顔で、そんな声で名前を呼ばれるのがどれほど破壊力があるか、深空は知らない。

「蒼」

呼んでしまえば、何に気後れしていたのかと不思議なほど当たり前な音がした。
突然呼ばれた名前に目を丸くした蒼の腰を掴んで、ショーツの端から一気に奥まで挿入する。

「、ああぁっ!!」

「ク…ッ」

背を反らせて、蒼は悲鳴のような嬌声を上げた。初めてでもないだろうに、狭く締めつけてくる蒼のナカに吐精感に襲われ、それをやり過ごすように口を開く。

「つき合ってるヤツがいるのに、オレと、こんなことして、いいのかよ?」

「あっ…は…あ…あぁ…」

「ああ、ソイツの指示だったか?」

「ち、がぁ…」

「わないっショ」

否定できない蒼に酷いことを言ってしまうのは、思ってもいないことを言った彼女への八つ当たりだと、オレ自身が1番よく知っている。
ゆるりと引いた腰を押し込みながら「悪い」と呟いた言葉は、荒い呼吸で枕を必死に掴む蒼に届いたのかは分からない。それでも今までにないほどの気持ち良さに、動きは勝手に早くなった。

「蒼ッ…」

「あ、やあ……ああっあぁ…!まきしまく、ん、」

「クッ…呼べよッ!昔、みたいに」

蒼は今にも泣き出しそうに顔を歪めた。

「ずるっ…い……、昔は、やめろって…言ってた、くせっ、」

「いいから、呼べッ!! 」

蒼の白い脚を自分の肩にかけ、より深い場所へと腰を進めると、グチャグチャと卑猥な音が大きくなった。体が揺れるたび、蒼の瞳から涙が落ちた。濡れた瞳にオレだけを映した蒼は、ただただ綺麗だった。

「ひぁ、や、うぁぁ…!」

無理矢理犯している罪悪感とかずっと好きだった女を手に入れた充足感とか、色々な感情がないまぜになる。でもまだだ。
早く、オレだけのもんになれよ。

「ほ、ら!」

「あ…、……っうう…ん…まき、ちゃ…」

「…ハ…好きだ蒼、…好き、だッ」

笑いたいような泣きたいような自分でもわからない気持ちを無視して、ただ好きだと繰り返しながら腰を振る。

「まき、ちゃ…ん、会い、た、かっ、た…っ」

蒼が切れ切れに口にする言葉に、自分が泣いていることに気づいたのは、彼女の白い肌の上で、雫が数滴弾けた後だった。

「、蒼ッ…」

「は、…あ、やぁまっ…!? そこ、や、!あぁぁああっ!! 」

「ク、…う…」

一際高い声を上げ体を痙攣させる蒼の腹に欲を吐き出し、オレもベッドへと体を沈めた。

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