続リトルペイバック


わたしの弟の塔一郎はとても過保護だ。
なんと登校も休み時間も昼休みも放課後まで一緒。だっだんだけど、もったいないながらもわたしの彼氏の新開が、ちょーぜつ直接的な性的表現で塔一郎を戦闘不能にしてから、頻度が少しだけ減った。
あの後しばらく、わたしとも新開とも顔を合わせると恥ずかしそうにしてたし。
とはいえ、普通の弟よりはまだまだ過保護なのに変わりはない。

「ねねねねねね、」

「?」

昼休み、今日のお昼は焼きそばパンにしようと決めていたわたしが戦利品を抱えて歩いていると、後ろから変な声が近づいてきた。聞き覚えのあるその声に振り向くと、やっぱり我が弟、塔一郎。

「塔一郎、どしたー?変な声出して」

「ん姉さん!!! 」

「?」

姉さん、の前の『ん』が弟の動揺を物語っているけど、なににそんなに慌てているのかはさっぱりわからん。
そんなことより、廊下を走ってはいけません、を律義に守る弟が、全力疾走してくる姿がなんだか新鮮。

「はあ、そっか、塔一郎もついに校則を破るようになったんだねえ…」

お姉ちゃん、なんだか涙が出そうだよ、なんて感慨深い気持ちに浸っていたら、

「ね!え!さ!ん!! 」

と半ば飛び込むように、わたしの腰に抱きついてきた。
え、なにごと?

「塔一郎?どーした?」

「どどどうしたじゃないよ!ポケット!」

「ポケット?」

腰に回された塔一郎の腕を払って、自分のポケットへ手を伸ばす。かろうじてポケットに引っかかっていたのは、月一女子の必需品。それがぽとりと廊下に落ちた瞬間、塔一郎が両手でそれを隠す。真っ赤な顔をして。

「あ、ナプキン入れてたの忘れてた」

「蒼、塔一郎、おめさんら、なにやってんだ?」

タイミングがいいのか悪いのか、視線を向けた先には、両手いっぱいに食料を抱えた新開がわたしたちを見て微笑んでいた。
いや、微笑んでますけどね。これはなんとなく怒っている気がするのはわたしの気のせいでしょうか?!
いつも飄々として見える彼は、意外にも嫉妬深い。女としてはうれしい。うれしいけど時と場合による!

「こ、これはね、新開さん、」

「蒼?オレ、名前で呼んでくれって言ったよな?」

「あ、すみません、…隼人さん」

「隼人、な」

「は、隼人…」

怒ってる、これは怒ってる。
いつもはそこまで圧をかけて名前で呼べなんて言わないのに、実はすごく名前で呼んでほしかったのか?この人。

「なんで塔一郎が蒼の腰に抱きついていたのかな?」

「新開さん、なんでもないんです!」

塔一郎が床に這いつくばったまま返す。たぶん塔一郎はナプキンを新開に見せたくないんだと思うけど、その対応はなにか隠していますと言ってるようなもんじゃないか。
ばかだなあ、と心で思ったところで伝わるわけじゃなし。

両手の食料を器用に片腕に持ち直した新開が、塔一郎へ手を差し伸べる。

「そんなかっこしてないで立てよ、ほら」

あくまでも塔一郎には、優しい新開さんに映っているらしい。憧れの先輩に手を差し出されて、女子みたいに赤面した塔一郎は「姉がポケットから落としたので…ごにょごにょ…」と、あろうことかわたしのナプキンを片手で握り潰して背中に隠してから、彼の手を取った。

「あ、」

「ほら姉さん!もう落とさないでくれよ」

自分の握り拳の中に無理やり収めたナプキンを、わたしのポケットの奥にそのまま突っ込む。
えー、これもう使えなくない?

「なに落としたんだ?」

隣に立った新開が、わたしの腰に腕を回す。いや、近い。

「し、新開さん!! 」

慌てる塔一郎の前で、無残に潰されたナプキンが引っ張り出された。
いやいや新開、わざわざ引っ張り出すまでもなく、なにかわかってたよね?

「す、すみません、新開さん!! こんなその、こんな、そのまま持ち歩いてるような姉で!! 」

「ちょっとー、わたしだってポーチに入れてるよ!でもそれ自体トイレに持って行くの忘れるんだから、いっこくらいいーじゃん」

「姉さん!! それじゃ本末転と、」

「もーそれにほら、最近のって可愛くてナプキンだって言わなかったらわからな、」

「姉さん!!!!! 」

「むぐっ?! 」

真っ青な顔をした塔一郎がわたしの口を塞ぐ。あれ、前もあったなこのシチュエーション。今回は鼻塞がれてないだけマシか。
とは言え新開はわたしの腰に手を回し直してるし、塔一郎には口を塞がれてるし、なにこれ、あんたら近すぎだっての!

「んっんんんーんーんーんー!! 」

どっちもはなれろ!と言ってみたけど、言葉にすらならない。くそう。

「蒼は本当あけすけだよな。そこもかわいいんだけど」

「新開さん…」

それこの状況で言うことか新開!んで、なんでそんなうっとりした顔をしてるんだ塔一郎!

「でもまあ、これは使えないだろうから、」

「え、」

新開が自分のポケットから取り出した物に、塔一郎の力が緩む。

「ほら蒼、これ持ってろよ」

さっき自分が握り潰したのと同じ物が憧れの先輩のポケットから出てきたら、そりゃあ塔一郎なら固まるしかないだろう。
予備を持っててくれる彼氏ってなんだろう、とはわたしも思うけど。


「あんたらなにしてんすか」

「あ、黒田くん」

「人の目気にせず生理用品あげたりもらったりとか女子高か」

「ごめん黒田くん、塔一郎またフリーズしちゃったからおねがい」

「…そろそろいい加減にしろよ」




*以前続きが読みたいと言ってくださった方、ありがとうございました!嬉しかったので続きを書いてみました。遅くなりましたが、楽しんでいただけるとうれしいです:)


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