青い春にはかなわない


座ったオレの膝頭にぐりぐりと頭を押しつけてくる犬コロ。
コロンと丸いその頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を閉じて、途端に大人しくなる。

「本当に靖友くんのこと好きみたい」

キッチンから顔を出した蒼さんがくすりと笑う。その手にはシュワシュワと泡を飛ばすベプシの入ったしゃれたガラス。いつしか彼女の家の冷蔵庫に常備されるようになった、オレのためのそれに優越感を感じながら、蒼さんの動作を盗み見る。
グラスをコースターに置いた彼女は、真向かいに腰を下ろした。
先っぽだけ色の入った爪を大人だと思ってしまうのは、やっぱオレがガキだからだろうか。そんな小さなことで、さっきまでの優越感の代わりに鈍く胸が痛む。

「今日はどこまで走ってきたの?」

「…あ?」

センチな気分を振り払い、痛みにも気づかないふりをして蒼さんに視線を向けた。
『今日はどこまで走ってきたの?』頭で彼女の言葉をリピートさせて、答えを探す。

「あー、箱根山から国道を慣らしで80キロ…」

「慣らしで80…!」

目を丸くする蒼さんに自然に笑みが漏れ、山じゃ東堂がうるっせーし平坦じゃ…、と続ける。毎回毎回この人は本当に楽しそうに聞くもんだから、ついついなんでも話してしまう。

「はあ、青春だねえ」

「あっただろ蒼さんにもそういう時期。20年くらい前か?」

「あ、ひっどい!そんなに前じゃあ、り、ま、せ、ん」

でもなあ、と蒼さんが遠い目をする。オレの横で眠るワンコがちろりと視線を上げて、またすぐ目を閉じた。

「そんなにがんばったもの、なかったなあ。もし今もう1回……いや、どうせなにもしないか」

そう淋しそうに呟いて、オレを見て目を細めた。

「だから、靖友くんが眩しいよ」

オレと彼女の距離がとても遠いものに思えて、――実際遠いんだろうけど――ベプシを喉に流し込む。チリチリと走る痛みは炭酸かそれとも。

「ほら、今あおはる?流行ってるじゃない?」

「、なあ」

オレの気も知らず話を続ける蒼さんを遮ると、気を悪くする様子もなく「なに?」と首をかしげる。
ちょいちょいと指で来いと誘い、身を乗り出した蒼さんに

「アンタ、いつまでオネエサンやってるつもりだよ?」

と囁き、その唇にくちづけた。


「や、靖友くん…」

「オレ今絶賛アオハル中らしいんでェ」

「……」

「アンタも巻きこんでやるから、覚悟しろヨ」


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