It’s between you and me.


「チッチッ」

「…なぁーお」

「おめーなー、もうちょいこっちこいよ」

校舎の裏に黒猫を見つけて早1ヶ月。食いモン持ってるときは寄ってくるくせに、それ以外は距離をとるこの猫をどうにか触ってやろうとしているときだった。

「あ、やっぱり荒北くんだ」

背後からかけられた声に慌てて振り向くと、いつの間に来やがったのか、そこには同じクラスの変わった女が立っている。

「…げ、深空…」

「げ、はないんじゃない?ひどいなあ」

「思ってもねェこと言ってンじゃねーよ」

睨んでみたところで、深空はふふふと笑う。

「荒北くん、猫好きなの?」

「好きじゃねェ」

「嫌いではないんだ?」

「オレは犬派だ」

「犬も猫も好きなんだね」

「おい、どこでそーなった」

オレがなにを言ったところで、深空の都合のいいようにとられてしまうのはいつものことだ。半ば諦めてるとはいえ、ついつい突っ込まずにはいられないのは、うまいことのせられてンのか?
でもまァ、あながち間違いではないのがやっかいというか腹がたつというか。

「このコおっきくなったよねえ」

オレ越しに猫を見て、深空はなんとも嬉しそうに言った。

「前はちっこくて細っこくて、折れちゃいそうだったよね。荒北くんがご飯あげてくれたおかげかな」

「おめーもだろーが」

「え?」

「バレてねェつもりかよ」

顎をしゃくって、手に握られたコンビニのレジ袋を示すと、「ばれてた?」と照れたように笑う。
透けて見えた商品には、でかでかと猫の写真がプリントされている。

「見てくれってくれーでけー猫が写ってっからな」

「…あら本当だ」

袋を顔の高さまで上げて確認する深空の前に、一瞬存在を忘れられていた猫がずいと進み出た。
どうやらエサの匂いを嗅ぎつけたらしい。

「本当に君はご飯もらうときだけ来てくれるんだねえ」

「なぁーお」

「普段はパーソナルスペース広すぎるくせに現金な」

「みゃおぅん」

「もー、そうやっていろんな人からご飯もらってるんでしょー」

甘えた声で鳴く猫を前に、しゃがんで猫用のおやつの袋を開ける深空は、ぶつぶつ言いながらも顔が緩みきっている。
この猫は誰にでも一定距離をとるのだと知って、少し安堵したのは秘密だ。
オレも深空の隣にしゃがんで、一心不乱に鰹味と書かれたおやつを貪る猫に手を伸ばす。ふわりと柔らかな毛並みをわしゃわしゃと堪能。食ってるときは、触られても文句も言わねーンだよなこいつ。

「さっき猫缶食ったばっかだっつーのに、よく食うな」

「あ、そうなの?」

オレへ向けた視線をすぐに猫へと戻し、深空は笑う。

「食べたばっかだったのかー、太るぞー」

「もう手遅れだけどな」

「わあ、お前今酷いこと言われたよ?」

ぐるぐると喉を鳴らす猫は、そんなことはどうでもいいらしい。
深空は猫の頭に顔を寄せて、太陽を浴びた毛並みをすんと嗅いだ。そして何を思ったかそのままオレへ顔を向ける。

「みんなが今の荒北くん見たら、絶対怖そうなんて思わないのにね」

「は?お、おめーぜってー言うなよ!今日見たことは忘れろ記憶から消去しろなかったことにしろ!! 」

「えーー、もったいない…」

「もったいねーじゃねェよ」

「しょうがないなあ、いいよ2人の秘密ね」

深空はそう悪戯っぽく笑った。


「荒北くん、おいしいクレープのお店教えてもらったんだけど、いつなら行ける?」

「あ?知るか」

「……ねーー……」

「……」

「…………こ」

「ア〜〜ッ、今度の土曜13時に校門前ェ!」

「わーい!」

(((((あの荒北が手懐けられてる…!!! )))))


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