会社員新開


いつもと同じ平日の昼休み。外へメシを食いに行こうと、新開と連れ立って会社のロビーへ下りた。
エレベーターが開いた瞬間、新開の視線が何かを追うのに気づき、オレもそちらへ顔を向ける。
何人もの社員が行きかう中、新開が追っていたのは黒いパンツとジャケットを着た女だった。スッと伸びた背中が清々しい。
いいケツしてンな…。いや、ちょっと待て。

「……おい」

「…なんだ靖友?」

外へと出ていくその背中から目を離さない新開は、完全に恋する男だった。

「…もしかして、アレ、狙ってンのか…?」

「やっぱり無謀だと思うか?」

「そ、」

そりゃそうだ、と言いかけてはたと新開を見る。今まで客観的に見たことなどなかったが、目の前で困ったように苦く笑った新開は、いわゆるいい男に分類されるのではないだろうか。
今の表情にドキリとする女も多いだろう。

先の彼女、深空蒼は営業部の事務をまとめるリーダーの一人で、綺麗な顔と凛とした少し近寄りがたい雰囲気から、男どもからは高嶺の花と言われている。
新開と同じことをそこらの男が言ったら、当たり前だと殴ってやるところだが、考えれば彼女と新開は似ているようにも思う。柔らかいくせになかなか落ちないこの男は、難攻不落だと女どもが噂しているのをどこかで聞いたことがあった。

ちらりと横目で盗み見ると、遠くを見る新開が目を輝かせている。いったいなにに、と思えば、自動ドアの向こうに深空サンが見えた。

「犬かオメェは…」

タッと駆け出した新開の後ろをのんびり追いかけ、2人の話が聞こえるところで立ち止まった。盗み聞きするつもりはないが、手持ち無沙汰な上全く気にならないわけでもない。

「深空さん」

「新開さん、今からお昼ですか?」

「そ、深空さんも一緒にどうだ?」

「残念、今買ってきちゃいました」

そうコンビニの袋を掲げて微笑む深空サンに、新開はその答えをわかっていたくせに肩を落とした。
…あ?深空サンってこんなに柔らかく笑う人だっけか?

「じゃあまた今度誘うよ」

「あ、新開さん、よかったらこれおやつにでも」

差し出されたボッキーを、新開はいいのかと言いながら満面の笑みで受け取った。軽く会釈した彼女は、続いてオレの前に立った。

「荒北さん、時間取っちゃってすみません」

「いーやァ」

「よかったらそれ、新開さんと一緒に食べてくださいね」

ボッキーを指し示しそれじゃあと頭を下げた彼女が、オレの横を通り過ぎて行った。
やっぱいいケツしてンな…なんて隣に立ってぼんやりと彼女を見送る新開には、口が裂けても言えない。


「おい、オメェ、あんだけ仲良さそうに話しといてなァにが『やっぱり無謀だと思うか?』だ」

「……」

「ふざけんなさっさとくっつきやがれボケ!」

「靖友…」

「…う、なに笑ってんだ気持ち悪ィ…」

「仕事終わったら飲みに行くぞ、奢る!」

「お、おお………うれしかったのかヨ…」


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