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 女の子は毎日忙しい。
 癒してほしい。甘やかされたい。
 そう思ったって、いいじゃない。


――ピィィィィ

本日3度目の音と共に、荒北さんが現れた。瞬きを狙うように出てくるから、一体どんなふうに現れているのかはわからない。
…なんかもういいか、そういうことで。

「わかりました。荒北さんはピューネくんでアプリでプログラムなんですよね…」

「やっぱ見るのが1番早えーな」

にっと笑った荒北さんを見ていて、ふと重大なことに気づく。

わたし、いますっぴんじゃない?!

初対面ですっぴんなんて大恥もいいとこじゃないかと、慌てて背を向けた。手の届く範囲にはますくもめがねも見当たらない。

「どーした?」

「ひっ!」

ひょいと荒北さんが覗き込んできたもんだから、どうしようもないので両手で顔を覆う。

「なんだ?」

怪訝そうな荒北さんに、顔を覆ったまま呟く。

「…すっぴんだから見ないでください…」

やだ、本当に死にたい。

「は?今更だな。別にいーだろ、なんも変じゃねーよ」

「死活問題…」

「まァたとえとんでもなくブスでデブだったとしても、オレにとっちゃ1番かわいく見えンだけどな」

「え、どういう…?」

「そープログラムされてンの。ま、おめーはンなの関係なくキレーな顔してっから、気にすンな」

プログラムとはなんてすごくて恐ろしいんだろうとひやりとした。けっこうかっこいい荒北さんが、めちゃくちゃブサイクで太った人をすごくかわいいと思ってたりしたらいたたまれない。

それにしてもそこまできれいでもかわいくもないわたしの、しかもすっぴんをきれいだなんて、プログラムはしっかり機能している。なんだか複雑な気分。
これもピューネくんの仕様ってことなんだろうか。
そうは言ってもやっぱりすっぴんは気が引けるから、どこかにあるはずのパソコン用のめがねを視線で探す。
あ、はっけん。

「ちょっと、待ってくださいね」

こそこそとカラーボックスの上に置かれていためがねをかけ、少しだけ気が楽になったところで荒北さんに向き直る。なんだか優しく見つめられて、どうしたらいいのかわからないんですけど。

「あの、確認なんですけど、荒北さんは女性を癒すためにいるってことでいいんですか?」

「おめーを、な」

「な、なんで、わたしなんでしょうか」

「それはオレもわかんねーけど…運が良かったンじゃねェ?」

運の問題なのかはわからないけど、さっきからそんな優しい目で見るのはやめてほしい。

「じゃあもしかして、小学生の可能性もあったってことですか?」

「だな。中学生だったかもしんねーし、5・60代の主婦だったり、ばーちゃんだったかもしんねーってことだ」

「それはなんとも…」

すごい確率を引き当てたんじゃないの、わたし。日本の女性だけでも…なん人だ?35億?違うこれは世界の男の数。

――ピコン

わたしのスマホが小さく鳴った。気がした。サイレントにしてたのに、と確認したら、やっぱりサイレント中。
まあいいかと見ると、ピューネくんアプリのお知らせに、『貴女の名前を登録してください』と指示が出ている。

「名前?」

「オレのマスターがおめーだって紐づけだな」

「ハンドルネームみたいな…?」

「なんでもいーんじゃね?でもまあ、オレへの自己紹介も兼ねてっから、本名の方がありがてーけど」

プライバシーは守られてるとのことだったから、本名を入力する。勝手にアプリをインストールされた身としては信憑性に欠けるけど。

『登録が完了致しました。随時新機能も増やしていく予定ですので、これからも何卒よろしくお願い申し上げます。』

相変わらず字面と文章がちぐはぐだと思っていると、なにもなかった画面の上半分に、わたしの名前が表示された。

「深空蒼…蒼か、いい名前だな」

「え、あ、その…どうも…」

すぐさま伝わった情報に、この人アプリなんだったと再確認。これ、慣れるかな…。

「あの、さっきの言い方だと、ピューネくんって、マスター?だけのためにいるっぽく聞こえたんですけど…」

「あァ。オレに必要なのはおめーだけで、蒼を癒すのがオレの存在意義だな」

「……見返り、とかは」

「おめーが笑ってりゃ、それでいい」

これって、ものすごい殺し文句じゃなかろうか。
当たり前だろと言わんばかりの荒北さんに、動揺したわたしの指はクローズボタンを押していた。
ピィィィィと小さな音が響く。

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