M:A)ごはんを食べる


 女の子は毎日忙しい。
 癒してほしい。甘やかされたい。
 そう思ったって、いいじゃない。


仕事帰りに近所のスーパーに立ち寄って、今日の晩ごはんの材料を物色する。

「…なににしようかなー」

とりあえず、青果売り場でサラダ用のカット野菜を買い物かごに入れて、食べたいものを考える。
あ、ハンバーグ食べたい。
そうと決まればと、家に玉ねぎがあったか少し考えて、まああっても問題ないかと1袋かごに入れた。調味料はあるし、卵もこの間買ったのがまだ残ってたはず。

「あとはミンチ…」

向かった精肉売り場はがらんとしていた。晩ごはんの準備には遅い時間の上に、どうやら肉の安売りの日だったらしい。残っているミンチは1人分にしては量の多いものばかりだ。
でも気分はもうとっくにハンバーグで、いまさら別のメニューにはしたくない。どうしてもハンバーグが食べたい。
というわけで、確実に量が多いミンチをかごに入れる。あとはお湯入れるだけのコーンスープと、チンするだけのポテトを買って帰宅。

「さてと。ミンチ半分残すか、もう全部ハンバーグにしちゃうか…どうしようかな」

こういうときだれかいれば…だれかいれば…?

――ピィィィィ

「よお」

「あ、どうも」

キッチンに向かっていた体をくるりと回すと、後ろに優しい顔をした荒北さんが立っていた。だれか、とは思ったけど、プログラムの荒北さんはごはん食べたりするんだろうか。
…なんか前にもそんなこと思ったな。

「今日はどうした?」

「あの、荒北さんって、ごはん食べたりできるんですか?」

「あ?突然だな。でもまーできる。絶対必要ってわけじゃねーけど」

「おいしいとか、そういうのもわかるんですか?」

「わかるぜ、おめーらと変わんねーよ」

最後のは完全にただの興味だったけど、食べられるなら一緒にごはん食べてもらいたい。1人は味気ないし。

「あの、よかったら、ごはん一緒に食べてもらえませんか?」

「あ?、そりゃむしろありがてーけど、…いーのか?」

「荒北さんさえよかったら…」

そう言うと、荒北さんはうれしそうに笑った。

「えと、今から作るから待ってもらわないといけないのと、作るっていってもそんなにすごいものではないのですけども…」

「蒼の手料理だろ?なんも問題ねー」

「え、そう、ですか…」

たかだかわたしなんかの料理でそんなにうれしそうな顔されたら緊張する。
…うまく作れますように。

「よかったら、テレビでも見て待っててください」

「ここにいたら邪魔か?」

「え、そんなことないですけど…おもしろくないし、まだかかりますよ?」

「ダメか?」

そう眉を下げて首をかしげる荒北さんに、なんだかきゅんとした。だめなんて言えるわけがない。

「え、いえ、いいですけど…」

まずお米をといで炊飯器のスイッチを押す。ちょこまかするわたしに「悪ィ」と荒北さんが道を開けてくれるのがくすぐったい。
冷蔵庫を開けて玉ねぎを探してみたけど、どうやら使い切ってたようで見当たらなかった。買っといてよかった。
レジ袋から玉ねぎの袋を出して、1つ取り出す。

「なー、作りながら話して大丈夫か?」

「はい、だいじょうぶですよ」

玉ねぎを洗って、頭とお尻を落として皮をむきながら、横に立つ荒北さんの言葉に耳を傾ける。

「こないだ、オレが出てくるときのこと言ってたろ」

「え?…あ、実体化のオンオフをそちらで判断してくれたらいいなってやつですか?」

「そーそー。あれな、そーいう仕様になったぞ」

「わ、それは助かります」

「あ」

玉ねぎに包丁を入れようとしたら、荒北さんが声を上げた。手を止めて荒北さんを見上げる。

「どうかしましたか?」

「いや、手、切ンなよ」

心配そうな荒北さんに、この間指を切ったのを思い出した。あれはクリアファイルだったけど。ついでにむりやりひっぱり出したからだけど。
「気をつけます」と笑って、玉ねぎをみじん切りにしてボウルに入れた。ミンチ卵パン粉に塩こしょうも入れて、ぐちゃぐちゃと混ぜる。
荒北さんの視線を感じながら、そばに人がいてくれるだけで、ごはん作るのがこんなに楽しいなんてと思う。

「ハンバーグか?」

「そうです、苦手でした…?」

「いや、好きだ」

「よかった。いっぱい食べる人ですか?」

「まー、たぶん普通よりは」

少し考えてからそう荒北さんが答える。
細いのに食べるんだ、男の人だもんなあ。

大きめのと小ぶりのと、2つのハンバーグの形を整えて、フライパンで焼いていく。両面焼いたら火を弱めてふたをしてちゃんと中まで。

「やべー、腹へった…」

「ふふ、お腹へるんですね」

「この匂いはやべーだろ」

情けない顔でお腹に手を当てる荒北さんがやけにかわいらしい。

「あ、なんか手伝えるか?」

「え、だいじょうぶですよ!」

「ねーか?やること」

「えっ、と、なくは、ないです、けど」

それじゃあと瞳を輝かせた顔は、なんだかお手伝いがしたくてたまらない小さな子どもみたいだ。
大きめのお皿を2つ出してもらって、カット野菜と、レンジにつっこんだポテトの盛りつけをお願いする。
わたしはその間にソースを作る。って言っても、よぶんな油を取った肉汁に、ケチャップとソースと砂糖を混ぜるだけの簡単なやつだ。

お湯入れるだけのコーンスープとお米も添えて、テーブルにお皿を並べる。パンのほうがよかったかなとも思ったけど、いいんだわたしはお米が食べたい。

「「いただきます」」

2人で手を合わせて、荒北さんがハンバーグを一切れ口に入れるのをどきどきしながら見守る。
こんな状況、いつぶりだろ。

「、うっめ!」

「…よかった…」

「蒼、マジでうめーわ」

すごくうれしそうにもぐもぐと口を動かす荒北さんに、わたしのほうがうれしくなった。

≪
Around and around*
ALICE+