M:S)頭を撫でる


 女の子は毎日忙しい。
 癒してほしい。甘やかされたい。
 そう思ったって、いいじゃない。


立たせっぱなしも申し訳ないから、新開さんによければ座るように勧める。腰を下ろす彼を見ながら、わたしはキッチンへ立った。

「荒北さんは飲んだり食べたりできましたけど、新開さんもできます?」

「ああ」

「カフェオレでもいいですか?」

スティックタイプのカフェオレを見せると、新開さんは微笑んだ。

「悪いな、いただくよ」

カップにスティックを入れて、お湯を注いでかき混ぜる。簡単でおいしいなんて本当にありがたい。

「どうぞ」

「ああ、ありがとう」

カップを受け取ってきれいに微笑む新開さんを横目に、テーブルに置きっぱなしにしていたスマホを手に取った。Pのロゴのアプリを立ち上げると、最近見慣れてきてしまったスタート画面に変わった。
そこには『がんばるあなたに潤いを…ピューネくんがお届けします』のタイトル文字。

「え、あ、さっきの!」

目の前でふわふわした笑顔を浮かべている新開さんへ視線を移す。

「ん?」

「さっき、わたしに言ったのってこれですか?」

これ、とスマホの画面を指差し彼に向ける。

「ああ。それがオレらのコンセプトだからな」

「コンセプト…」

「あれ、もしかして靖友それ言ってない?」

「え…?はあ、荒北さんが言うの聞いたことないですけど…」

新開さんはやれやれと肩をすくめた。

「もしかして、本当は言わないといけないんですか?」

「まあ、絶対じゃないけど、とりあえずスローガンはアピールしてなんぼだろ?」

「…なんぼですか」

さっきのを見る限り、スローガンっていうより決め台詞っぽかった気がする。荒北さんがいやがるのもなんとなくわかるような…。
新開さんはうまいこと自分のものにしてたけど。

アプリをスタートさせてホーム画面に変わると、今までとボタンの位置が変わっていた。

「あれ、ボタンの場所変わりました?」

「あ、そうそう。オレが追加されたから少し変わったんだ。説明するな」

新開さんは画面の下の方の四角を指差す。今まで鉛筆、水色の四角、星と並んでいた所に、今は水色の四角と淡い赤の四角がそれぞれ1つずつ。

「その水色の四角が靖友ってのはそのままで、赤色四角がオレ」

「はい」

「星と鉛筆はそれぞれ四角の中に」

「へえ、ピューネくんごとになってるんですね」

「そういうこと」

四角を押すと、履歴書みたいなプロフィール。その下に鉛筆と星のマークが並んでいた。

それにしても、と新開さんを見る。
こんな男前にタオルを取らせたのかわたし。別にわたしの意思ではないけども。

「ん?どうかした?」

「え、いえ、男の人になにかしてもらうって、あんまりなかったので、なんか変な感じだなって思って」

「なんかしたっけ?」

「…タオル、取ってもらいました」

自分からさっきの失態を晒すようだと気まずく思いながらそう言うと、新開さんはきょとんとした。

「え、わたしなんか変なこと言いました…?」

「いや、タオル取ったくらいでそう言ってもらえるとは思わなかったから」

「あ…一人暮らしで家の中に異性がいるって、彼氏くらいじゃないですか。前の彼氏があんまり自分で動かない人だったから」

最初からそうだったのか、それとも付き合う中でそうなってしまったのかは今ではもうわからないし、わざわざ思い出す気もないけど、なにが悪かったんだろう、とはたまに思う。
それがわからないと、また同じことを繰り返してしまいそうな…。

「まだ好き?」

「…え?」

声につられて新開さんを見ると、優しい微笑みを向けられていた。わたしは目をしばたたかせる。

「そいつのこと、まだ、好き?」

「え、まさか!そんなふうに見えました?」

「ちょっと、寂しそうな顔してた」

笑顔に少しだけ哀愁を混ぜて、新開さんはわたしを見つめる。

「……なにが悪かったんだろうって、思っただけです」

「ん?」

「どうすればよかったんだろうとか、わたしがもっとうまくできればよかったのかなとか。あ、ちょっとだけですよ!本当に、ちょっとだけ」

「そうか」

そう言って笑みを濃くした新開さんが、ふいに手を伸ばした。そのままわたしの頭に乗せられた手は、見ているときには思いもしなかったくらい大きくて彼の笑顔のまま優しい。

「蒼ちゃんはいい子だな」

髪を梳くように優しく撫でられる感触と、細められる瞳に戸惑う。

「そいつも甘えすぎたんだな、もったいない」

「え、もったいない?」

「そ。甘えすぎなきゃ蒼ちゃんは一生自分のもんだったのに」

「え、や…そんなたいそうなものでは…」

きっとわたしの言い方が悪かったとか、タイミングだったりとか色々要因はあるはずなのに、ピューネくんの頭にはわたしが悪いって考えは少しも浮かばないらしい。
絶対的に味方っていうのは、なんとなく気後れがするけど、同時に、すごく安心もする。

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