出航新大陸へ
彼らと再会したのは、5期団の先遣隊として新大陸へ向かう船の中だった。
ハンターたちのついでに物資も送るという話だったが、物資の合間を縫うように人間が居場所を探すこの状況では、どちらがついでなのだかわからない。
ハンターたちは停泊する港のどこからでも乗り降り可能となっている。試験のクエストをクリアした際にギルドから発行された証明書さえあれば、新大陸へ行くも途中でやめるも自由らしい。
そんな適当でいいのかとも思うが、その気もないのに無理やり行ったところで使い物にならないということか。
「おめェがちんたらやってっから前ンとこで乗り遅れたンだろーが!」
「な!仕方なかろう、これがないと狩れるものも狩れん!」
「そんなに邪魔ならさっさと髪切っちまえよ」
「それはならん!荒北の言いたいこともわかるぞ、オレの美貌はどんな髪型だろうが揺るがんと言いたいのだろうが、」
「ちょい待ったァ!誰がンなこと言うか!! 」
「ほらそろそろ静かにしないと他の人の迷惑になるぞ」
「知るか、東堂に言いやがれ」
乗り込んで来た瞬間から注目を浴びるとはこれいかに。しかも当の本人たちはまったく気にした様子もないというのだから、とことん自分とは次元が違う。
「ニャ」
一瞬きょとんとしたアウルーが、止める間もなく椅子の上に立ち上がり声を上げた。
耳聡くアウルー好きが辺りを見渡し、瞳を輝かせる。
「お前…!」
「おお、うさぎちゃんではないか!」
「元気そうだな」
こちらへ向かってくる3人に、仕方なく視線を投げる。
「どうも」
「元気だったかうさぎちゃん!心配していたのだ、女子1人でアオウシラ2頭は大変だったのではないか?」
「ニャー!」
カチューシャの顔の前に拳を突きつけるアウルーに、彼はそうだったと向き直る。
「これはすまない。君も一緒なのだから、うさぎちゃんが危険になることなどなかったな」
「ニャ」
アウルーはその通りだと言わんばかりに頷き、誇らしげに胸を張る。
そこにアウルー好きが声をかけて来た。アウルーに、である。
「お前名前なんてンだ?」
「ニャ?アウルーニャ!」
「いや、じゃなくて、名前だよ名前」
「ニャ?」
アウルーが困ったように首を傾げ、助けを求めるようにこちらを見つめる。
「アウルーですよ」
「は?や、だから…」
「靖友が言いたいのは種族じゃなくて個人の名前ってことだと思うんだけど」
うさきち男が口を挟む。
「はい、だから、種族がアウルーで、個人の名前もアウルーなんです」
ね、と言うとうれしそうにアウルーが頷く。本当にかわいい。
「いや…」
「それは…」
「ちょっと…」
「?」
喜怒哀楽のどれとも少し違うような、変な顔を揃える3人に眉を寄せる。
「なんですか?」
「もうちょいなんかいい名前、考えてやれよ…」
アウルー好きが心底不憫そうに呟く。
「いい名前だと思うんですが」
至極真面目に答えると、アウルー好きはアウルーと視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「お前はそれでいいのか?」
「ニャ?蒼の旦那さんにもらった名前、いい名前ニャ!」
「お前…!! 」
今にも泣き出しそうにアウルーを抱きしめるアウルー好き。
なんだろう、なんだかすごく悪いことをした気になる。
「そんなに変でしょうか?すごくいいと思ったんですが…」
「あっはっはっはっはっ!気に入ったぞうさぎちゃん!」
カチューシャにポンと背中を叩かれる。とても不本意だ。
「アウルーのアウルーか。シンプルでいいかもな」
うさきち男もうんうんと頷く。なんだか納得いかない。
閃いた瞬間は天才かと思ったものだが、センスというものがほとほとなかったのかと、少々落ち込む。
「おめェ、本当にシングルパーティ?」
アウルーの毛並みを堪能しながらアウルー好きが話しかけてくる。
「そうですけど」
「と、いうことは、うさぎちゃんはハンターでもあり編纂者でもあるということか?」
「編纂者ってほど大したものではないですが」
編纂者とは、手っ取り早く言えば事務方である。モンスターの弱点やら取れる素材、狩りに役立つ道具やその使い方などを取りまとめる。モンスターから作る料理、などという書籍も出ているほどで幅が広い。
ハンター1人で生計を立てるとなると、そういう情報も、戦いながらまとめていく必要があった。必要最低限ではあるが。
「あ、1つ提案なんだけど、」
と、うさきち男が人差し指を立てる。
「見てわかるかもしれないけど、オレたちサークル組んでチームで行動してて…まあ、ハンターが主で編纂は役回りって感じなんだけど」
「はあ」
「うさぎさん、オレらとチーム組む気ない?」
「は?」「隼人?」「新開?」
唐突な申し出に、仲間のカチューシャとアウルー好きでさえも首をかしげる。うさきち男はそんな2人に口を開く。
「今回オレら3人。ハンター2に編纂1が妥当だろうけど、うさぎさんにも言った通り、オレらみんな狩猟には自信あるけど編纂はいまいちだろ?」
「あー…まあな」
「確かに…その通りだ」
「これが2、2ならいいと思わないか?」
話に合わせて3、2、1、2、2と指を立てるうさきち男に、2人が明らかに納得し、期待に満ちた瞳をこちらへ向けた。
「1人が、気楽なんですが」
「もちろん、ただとは言わないさ。オレらからの依頼だから、謝礼は払う。いいだろ、尽八?」
「もちろんだとも!」
謝礼、の言葉に心が揺らぐ。依頼はこれまでも受けてきたし、他のハンターとパーティを組んだこともある。これは謝礼による、か?
「うむ、そうだな…1狩平均5000として1日1〜3回。3回として15000…。よし、1日20000でどうだ?」
「に…!? 言っておきますが、1日3回は無茶ですよ、最高でも2回がいいとこ」
「無論だ。実際は1狩行ければ充分だろう」
「わかっててその金額提示してるんですか…」
今までの流れと、誰も文句を言わないところを見ると、決定権はカチューシャにあるらしい。なんとなく意外だ。
そしてこの人たちの金銭感覚は大丈夫だろうか。
「ただし、条件がある」
これだけの好待遇、やっぱりかと身構えて続きを待つ。
「新大陸にいる間、基本的にはオレたちとの行動を優先してもらいたい。他のパーティに入るな、とは言わんが」
「はあ」
「そして、もう1つ。個人プレーも可能だが、…オレたちの中にも勝手にやるヤツもいるしな」
チッと舌打ちするアウルー好きを横目に、カチューシャが続ける。
「ただ、情報の共有はしてほしい。もちろんこれはお互いに、だ」
「はい」
「………」
「………。…え、それだけですか?」
「それだけだ!」
明るい声を上げるカチューシャに、力が抜ける。どんな無理難題を押しつけられるかと思っていたが、そんなもの条件にも入らない。
ただまあ、情報提供料も込みということか。
「ちなみに、クエスト報酬の取り分は?」
「もちろん人数で平等」
「言っておきますが、わたし使い物になるかわかりませんよ?」
「問題あるまい」
邪魔なら切るか、もしくは編纂専用にすればいいのだから損はしないだろうが、実力も見ずでいいのだろうか。
こちらの答えを待つ3人と、アウルーを順に見やる。
「……2は多すぎます。日当1で」
わっと3人プラス1匹が歓声を上げた。
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Around and around*