新大陸到着


食住には困らない新大陸へ向かう船の中、することといえば食べる飲む寝る。堕落した生活に危険を感じ、船の中を探索してみたりもした。
ひとところから動かないのは苦ではないので、知識欲を満たすために積荷の資料にでも目を通せさえすれば、実を言えば一生この生活でもかまわないのだが。

とはいえ、時化になれば帆をたたむ手伝いをしたり、小型の魚類モンスターを討伐したり、あの3人がなにかとうるさかったりと、退屈することもほぼなく目指す新大陸の地を見るに至る。

「長旅ご苦労だった。ここが新大陸調査拠点、ウステラだ」

20〜30人程度の先遣隊がひとところに集まったところで、総司令という妙齢の男が口を開く。思いのほか小柄だが、威厳がある彼の前では背筋が伸びた。

「皆よく志願してくれた。本陣が到着すると共に、古龍調査に着手することとなる。それまでこの拠点で各々調査にあたってもらいたい。君たちの働きに期待している」

導きの青い星が――という言葉で総司令が演説を締めくくる。
そこからは自由行動となり、拠点内を見て回る者、早速新大陸の探索に出かける者と、思い思いに散っていった。
静かになったその場所で、ぼんやりと海を眺める。

「君か?弓の手引書を編纂したというのは」

背後から声がして振り向くと、そこには総司令の姿があった。少し離れたところにあの3人組も見える。

「そうニャ!」

「ちょ、アウルー!」

胸を張ってさっさと答えたアウルーをたしなめ、慌てて説明する。

「そんな、編纂なんて大したものじゃありません。自分用のメモを提供しただけで…」

弓の使い方のメモをギルドへ提供したのは間違いない。とは言え、たまたまクエストを受けに行ったときに落としたメモを、これまたたまたまギルドの編纂者に拾われて、原稿料は払うとの言葉にのっただけである。
恥を承知で言えば、金に目が眩んだのだ。

「しかし、実践方法など大事な部分はほとんど君が編纂したと聞いているが」

「え、あー…」

少しの情報提供にしては原稿料が多い気はしていたのだが、まさかそんなに使われていたとは知らなかった。
送られてきた完成品をほとんど確認していない自分が悪いのだが。

「あれはうさぎちゃんの著書だったのか!」

カチューシャが驚いた声を上げて、割って入ってきた。

「君たちは、」

と、総司令が目を向けると、カチューシャは改まって口を開く。

「申し訳ない。我々はブレイバーン所属のハンターで、今は彼女と行動を共にしています」

「そうだったか。ブレイバーンの名は新大陸でも有名だ。わざわざ先遣隊として送り込まれたのだ、力量は言うまでもないだろう。期待している」

背を向ける総司令を見送りながら、本体が来るまでの情報収集で来る者もいるのだと、初めて気づかされた。それはそうと――。

「あなた方、ブレイバーン、だったんですか」

「ん?ああ、うさぎちゃんには言っていなかったか、それはすまない」

「おめェがどんなイメージ持ってっか知らねェけど、安心しろよ。所詮こんなのが副リーダーだ」

「荒北!こんなのとはなんだこんなのとは!! 」

「ははは、まあうさぎさん、肩肘張らずに仲良くしてくれよ」

「はあ…」

ブレイバーンと言えば知らない者はいない超がつくほど有名なサークルだ。なんでも、とてつもなく強いとか。それがこんな気さくというか子供っぽいというか、でいいのだろうか。

「…予想外」

「予想外といえば、オレたちからしたらうさぎさんがあの本の編纂者ってほうが予想外だな」

「そうだ!本当にうさぎちゃんの著書なのか?」

「さっきも説明した通り、自分用のメモを提供しただけなんですが…」

「なんだそりゃ」

「わたし武器の扱い、すごく下手なんです。とりあえず、唯一マシに使えたのが弓で…それでもハンターとしては全然だめなんですが…。なので少しでも上手くなるようにメモしまくってたのがギルドの編纂者の目に留まり…」

「本になった、と」

はあ、と生返事をすると、3人はあっけにとられた顔をした。

「そういうこともあるのだな」

「そんな頑張り屋のうさぎさんだから、あの本ができたってのには頷けるけどな」

「…どういう意味でしょう?」

納得したように微笑むうさきち男に尋ねる。

「オレたちの中でも評判だったんだよ、あの本」

「あれだけ丁寧に書いてあるのだ。当たり前といえば当たり前だが、弓に転向する者も多くてな」

オレたち、というのはブレイバーンのメンバーなのだろう。まさかあの有名サークル内でそんな話になっているとは、驚くほかない。

「ケッ、おめェらも弓に行こうとした中の2人だろーが」

ぎょっとして彼らを見ると、うさきち男はこともなげにまあな、と笑う。

「あーらーきーたー、知っているのだぞ」

カチューシャがにやにやといやらしい笑みを浮かべた。

「な、なんだよ」

「お前もけっこう真剣に考えていただろう」

「うっせ!」

マジか…と思うと同時に、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「うさぎさん、さっきの話だと、もう別の武器の指南書書く気はないってこと?」

「はあ…他の武器使えないので、書く気のありなしというより、そもそもむりですね」

「うむ…それは残念だ。ぜひオレの武器の指南書も頼みたかったのだが」

カチューシャの言葉に、アウルー好きもうさきち男も頷く。三者三様の武器を眺め、これらの武器を間近で見る機会などないのだから、自分用にメモでもしてみようかと内心思った。

今日ここから、ウステラでの生活が始まったのである。

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