2.飲み直し


それからしばらくして、飲み会という名の同窓会は終わりを告げた。
部屋で会計を済ませていたオレたちは、次々と店外へ流れていく。飲みに飲んで食べに食べたにも関わらず、何人かはカラオケへと雪崩れる算段を立てて声を掛け合っていた。
元気なもんだと思っていると、そのうちの1人が深空へと声をかけた。

「深空もカラオケ行かね?」

「あ、ごめん。明日休日出勤だから、今日は帰るね」

「そっか…また声かけるからその時は付き合ってくれよ!」

「うん」

気のある素振りを隠しもしない名前も忘れたソイツは、残念そうに背を向けた。
オレは内心で喜びながら、でも待てよと独りごちた。

「そうか、帰ンのか…」

どこかで一緒に飲みなおせればなどと思っていた自分に気づき、元より送っていくだけのはずだと頭を振る。ふうと1つ息を吐き、人の流れをぼんやり眺めている深空の横へと移動した。

「あれ、巻島くん?」

「帰ンだろ?送って行くっショ」

「え、でもわたし、前とは――」

「知ってる」

住んでる場所が違う、と言いかけるのを遮って言葉を続けた。オレが知っているのは深空が学生時代に住んでいた実家だけだ。
年甲斐もなく緊張している自分がおかしい。

「オレがとってるホテルの近くだって、聞いたっショ」

誰に、とも聞かず、深空はただ「そっか」と呟いた。

「あ、や、先約があるなら、別に――」

「ないよ!そんなの」

今度は深空がオレの言葉に慌てて首を振る。周りはがやがやと煩いはずが、そんな音など何も気にならなかった。

「2人共帰るのか?気をつけてな」

輪から離れたオレたちに、金城が声をかけてきた。

「金城くんは?」

深空に問いかけられた金城は、困ったように眉を下げた。

「オレは付き合わされてくるさ」

「それは、お疲れっショ」

「お疲れさま。ほどほどにね」

そう友に手を振って、深空と夜の街を歩き出す。火照った体に風が心地よく、2人で歩くこの感覚が懐かしかった。

「………久しぶり、だね…」

話の口火を切ったのは、深空だった。

「お、おう…」

「……」

「………」

続かない会話がそこで途切れる。
しばらく無言で歩き、言葉を紡いだのはまたしても深空だった。

「…あの…よかったら、なんだけど」

「?」

「これから飲み直さない?」

「え、深空明日仕事っショ。いいのかよ」

そう驚いたオレに、深空はばつの悪そうな顔をした。あの会話を聞かれているとは思っていなかったのだろう。

「あー…あれは、断る口実で…」

「本当は明日休みだった、ショ」

「だってこの格好肩凝るんだもん。早く帰りたいのは本当」

ため息をついて肩を落とす深空は、さっきまでの大人な雰囲気をがらりと変え、オレの知っている頃の深空そのままだった。うーんと大きく伸びをした深空のワンピースの裾が上がり、太ももが覗く。

「だから、うちでよければ、なんだけど」

そんなことを気にする様子もなく、深空はそう申し訳なさそうに続けた。

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