コンクリートで固められた階段を一段一段上っていく。目的の階層まで来たところで、自宅のアパートの入口前に紫煙を燻らせながら彼が立っていた。
 「あ、名前ちゃん」
 こちらに気付いた彼は手を振って和やかに挨拶をする。色の白い指が口元の煙草に添えられる姿は妙に扇情的だ。火をつけたばかりなのか、煙草はまだ指先ほどの長さがある。
 
 私が近付いたからか、煙草の火を消そうとする彼の優しさに不覚にも胸がときめいた。しかし、彼から嗜好品を取り上げるつもりは無いとそれを止める。
 本心を言えば煙の匂いが気になるが、それもまた彼に染められているような気がして悪い気はしない。
 一人だけ家の中に入っているのもつまらないと、彼と他愛もないをしていると、煙草の箱を差し出して
 「名前ちゃんも、一服どう?」
 と、冗談めかして彼は笑った。
 私が吸わないと分かっていて、巫山戯て聞いてくるのだからタチが悪い。そんな子供っぽいところも可愛いと思ってしまう自分も相当彼に絆されている。
 溜息をつきながら、じとりと彼に物言いたげな視線を送れば冗談だというように肩を竦めた。

 「まぁ俺が言うのもおかしいけどさ、煙草は吸わない方が良いよ」
 体にも悪いしね、そう吐息混じりに苦笑し、彼は煙草の火を灰皿に押し付けて消すのだった。


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