走り出したこの恋に
好意を寄せているとミッターマイヤー上級大将に伝えると、驚いたような顔でこちらを見た。不意をつかれたと言いたげに、灰色の目をまんまるにしてこちらを見るものだから、その表情に愛しさを感じ微笑むと、彼は形の良い眉を下げて苦笑を見せる。
彼は暫し、口を閉ざして考え込むと、意を決したように話を切り出す。
何と返されるのかは薄々察しがついていたが、彼の言葉の続きを待った。彼に抱いた感情をどうしても伝えたいという、自分のエゴに付き合わせてしまったことを申し訳なく思いながら。
「すまない。」
まずは一言、謝罪の言葉を口にして、
「俺には妻がいるから、君の想いには応えられない。」
続けられた言葉は、自分が思い描いていたものと同じだった。これが戦場であれば、相手の手の内が読めた事を好機だと捉えていただろうか。
生憎な事にここは戦場でもなければ、彼と戦っている訳でもない。叶うことなら読みが外れて欲しかったとすら思う。
彼が愛妻家であることは、銀河帝国の士官の殆どが知っていることだろう。以前、夫人と対話する機会があったが、とても可憐で素敵な女性だった。
彼女に叶わないと分かってはいたのだ。告げることに意味があるのだと、自分を納得させるために心の中で反芻する。
「だが、」
不意に、その思考を遮られた。その接続詞の後に告げられる言葉がどんなものなのか、想像もつかない。
もし彼に嫌われてしまったら、そんな不安に駆られ、じわりと視界が滲む。
しかし、どうやらそれは杞憂に終わったらしい。
「俺の事を好きになってくれてありがとう。」
続けられたのは感謝の言葉だった。伴侶がいると分かっていて告白する自分にも、こうして真摯に向き合ってくれる彼が好きだ。
元より脈などないのだから、いっそ手酷く振ってくれたら良いというのに、ますます惹かれてしまう。……そんな彼の為人を好ましく、ほんの少し狡さを感じながらも、彼を想うだけで幸せなのだと、隠すように笑った。