みみはかれこれ数時間、手元の鍵盤と向き合っていた。良く磨かれたグランドピアノは、疑いようもなくこれまで弾いた中で最も美しい音色を奏でている。だがみみの指は終始もつれていた。

数時間前にルーファウスに飲まされたドリンクには、確実に何かが混ざっていた。みみは薄紫の液体で満たされたグラスを受け取り、自らそれを全てを飲み干した。そうしなければ口移しになる事は目に見えていたからだ。空になったグラスを受け取ったルーファウスは、何も語らずただ妖しく微笑んでいた。そして本社へ忘れ物をしたと言い残し彼が部屋を去った後、疼き始めた体に気付くのにそう時間はかからなかった。


「はぁ…」


みみは無作為に鍵盤を叩いては、ため息を吐く。与えられた衣服はベビードール一枚で、まともな下着さえ纏わせては貰えない。僅かな布擦れでも乳首は硬さを増し、布地を押し上げて存在を主張していた。みみはそこに指先を押し当て、爪を食い込ませてみる。すると、じん、と甘さを帯びた小さな快感が体を駆け巡った。


「ん…」


いけない、とみみは自分を取り戻し、またピアノに向かい直った。こんな事をもう何時間も繰り返している。あの飲み物のせいでどうにもおかしくなっているらしい。帰宅早々挑戦的な眼差しで覗き込んでくるルーファウスの表情を想像してみる。どうした、などと白々しくのたまう筈だ。あの男はそうやって自分を弄んできた。そしてもどかしい快楽で泣きじゃくる自分を掻き抱いて笑うのだ。整った顔を歪ませ、あの青い瞳に欲望を火をちらつかせながら。

みみは知っている曲を弾き始めようとして、気付くと手を止めていた。


「…集中…」


その時、入口の扉が開いた。みみはドキリと胸を弾ませ、ピアノチェアの上で一瞬体を強張らせた。小気味の良いレザーソールの足音が悠然としたリズムで近づいてくる。その音が間近まで迫ると、みみは思わず立ち上がった。


「なんだ、弾かないのか?」


既に間近まで迫っていたルーファウスは、脱いだジャケットをピアノの譜面台に掛けるとみみの腰に手を回した。言動がちぐはぐだと念じながらルーファウスをじとりと睨み上げると、案の定彼は挑戦的な微笑みでみみを見下ろしていた。


「顔が赤いな」
「ルーが変なもの、飲ませるからでしょ…」

みみが悪態をつくのをルーファウスは愉快そうに見下ろし、そのまま唇を落とす。みみが抵抗することなくそれを受け入れると、形の良い唇は驚くほどみみの唇にフィットした。間もなく熱い舌が絡み、みみの腰はずくずくと疼く。この男の与えるキスは、あの怪しげな飲み物よりも余程質の悪い媚薬のようだった。肉厚の舌が咥内をまさぐり、逃げ場を無くしたみみの舌は何度も絡め取られる。


「ん、っふ、んん…っ」


上顎をくすぐりながらルーファウスは薄目でみみの様子を伺った。紅潮した頬が既に興奮の高まりを示している。ルーファウスは愛おしさと熱情が湧き上がった。仕上げとばかりに舌を吸い上げ、ルーファウスは唇を離す。みみはすっかり蕩けた表情で彼のワイシャツを握り締めていた。


「どんな有様か確認してやろう」


ルーファウスはそう言うと、おもむろにピアノチェアに腰掛けた。みみを見上げる双眸は、人を意のままに操る支配的な色を帯びていた。みみの子宮が疼く。この瞳に捕われたら最後、拒否することは出来なくなっていた。


「脚を開いて裾を上げてみろ」


みみは目を伏せ、椅子に腰掛けるルーファウスの眼前でベビードールの裾をたくし上げる。よく手入れされた恥部を覆うものはそれ以外に何もなかった。みみの下腹部に、甘美な恥辱の震えが走る。
ルーファウスの中指と薬指が脚の間にゆっくりと伸びると、みみは呼吸を浅くしてそれを見守った。その指がピタリと秘裂に添えられる。


「良く濡れている」


指が前後に滑ると、愛液の潤滑でそこがいかに濡れているのかをまざまざと思い知らされる。みみは声を殺し、裾を握る手に力を込めた。


「自分で触れたのか?」
「…いいえ…」


上擦った声でみみが否定するが、ルーファウスは信じていない様子で眉を動かしただけだ。愛液をたっぷりと纏わせた指を、つぷりと蜜壺に挿し込むと、みみが甘い吐息を漏らす。膣内がひとりでに蠢き、主人の指を喜んで受け入れた。


「はぁ、熱いな…」


しなやかな男の指が膣内をゆるゆると行き来し、みみは腰を震わせた。数時間疼きに耐えた体は、僅かな刺激を喜んで受け入れる。それが自分を快楽の底に沈めた男の指と思えば尚更だった。もっと欲しい、と強請るように膣壁が指を締め付ける。ルーファウスはその感触に目を細め、焦らすように膣壁を奥からゆっくりと揉み解していく。とめどなく溢れる愛液は、ルーファウスの指が数度往復する間に、太腿にまで達していた。


「ん、んっ…」


弱い部分を捏ねながら降りてきた指が、今度は愛液で濡れた肉芽に触れる。みみの体がびくりと跳ね上がった。その指が弧を描くようにクリトリスを刺激し始めると、抑えていた声がついに漏れ始めた。


「あっ、あ、るー…っ」
「しっかり立て、みみ」

震える膝を諫められ、みみは姿勢を正すが、直接的な刺激に体は否応なく反応した。腰が小刻みに揺れ刺激から逃れようとするが、指は執拗に追いかけてくる。ルーファウスはうっすらと口元に笑みを浮かべ、その様子をじっくりと堪能していたが、しばらくするとまた指を蜜壺に埋め込んだ。そして今度は確実に、弱点だけを狙って指を蠢かせた。


「はあっ、あっ…ぁ…」
「今日は試作品の玩具を渡されてな。後で試してやろう」


みみは今や、より深い快楽を追い求めるように腰をくねらせていた。ルーファウスの瞳はそんなみみをじっと捉えている。こういう時は決まって、みみが目を逸らすことは許されなかった。焦点を失いながらも自分を真っ直ぐに見つめ秘所を突き出すみみの姿は、淫靡で、そして健気ですらあった。ルーファウスはその姿に満足しながらも、あくまで一定のリズムと単調な動きで、みみをじわじわと絶頂へと押し上げてゆく。


「んっ、あ、もう…っ」
「なんだ?」


ルーファウスの瞳に嗜虐の色が浮かぶ。その指は相変わらず蜜壺の中を揉み解すように優しく蠢いている。
みみは歯を食いしばりじわじわと寄せてくる絶頂の波を追い返そうとした。細く噛み締めた歯の隙間から不規則な呼吸が聞こえては時折止まる。ルーファウスはそれを愉しげに聞きながらも、弱点を知り尽くした指を決して止めようとはしない。これが最初から勝敗の決まった勝負だとみみが自覚するのにそう時間はかからなかった。


「るー、いっちゃ、いく…」


みみはついに、喉をひくつかせながらか細い声でそう告げた。ルーファウスは目を細める。言葉がなくとも、震える内腿を見れば絶頂間近なのは一目で判る。だがこうしていやらしく育っていく体を自覚させ、言葉にさせるというのが興というものだ、とルーファウスはほくそ笑んだ。


「…ふ、見せろ」
「イ、いく…っん、〜っ!」


許しを得たみみは腰をかくかくと震わせながら静かに絶頂を迎えた。帰宅したばかりの男の指二本で、立ち竦んだまま呆気なく高みに送られる自分の体が、浅ましくてならなかった。ルーファウスの指は蜜壺に押し込められたまま、床に崩れ落ちる事も許されないみみは、代わりに下半身を懸命に震わせ、腰をへこへこと前後に揺らし絶頂の余韻を味わうことになった。


「あっ、はあ、はっ…」
「ふ、可愛いな…」


何と愛らしい姿だろうか。ルーファウスは自らの嗜虐欲を存分に満たしながらそう思った。そしてみみの体の痙攣が収まった頃、ルーファウスはようやく指を引き抜く。手首にまで滴った愛液を見せつけてやると、みみは言葉にならない羞恥の声を上げた。


「みみ、ひとつ教えてやろう」


ルーファウスは手の甲をぺろりと舐めると、体を屈めてみみを真下から覗き込んだ。胸元の心許ない布地を押し上げる乳頭は、淫らに作り変えられた体を如実に示していた。この体を作り変えたのは紛れもなく自分だ。


「お前が飲んだドリンクには、何も入れていない」


みみの訝しげな表情が驚きに変わり、そして泣きそうに歪んでゆくさまを、ルーファウスは余すことなく目で楽しむ。自身の雄が既にスラックスの中で苦しげに張り詰めているのを感じた。


「さぁ、みみ。まだ終わりではないぞ」


ルーファウスはまだ言葉を失っているみみの腰を抱き、ローテーブルの据えてあるソファへと歩き出す。無造作に置かれていた紙袋から数刻前社内で受け取った”試作品”を取り出すと、みみが息を飲むのが分かった。


「女のモニターが見つからないそうでな。引き受けてやることにした」


真紅の滑らかなシリコンの塊は、モンスターの触手を思わせるグロテスクな形状をしていた。びっしりと小さなコブで覆われ、男性器よりもひと回り大きなそれは、一度腹に収めれば膣壁を余すことなく擦り上げるだろう。触手の先端は柔らかそうに見えたが、膣奥まで難なく侵入してくるに違いない。みみは恐怖と同時に、全身に血の巡る不思議な感覚を覚えた。先程絶頂を迎えたばかりの膣内がヒクヒクと痙攣する。


「い、いや…るー…」


今にも泣き出しそうな声を絞り出して弱々しく首を振る。みみの頭は頑なにそれを拒否していた。こんな物で快楽を得ることなど、あってはならない。だがこの卑しい無機物で咽び泣く自分の姿が、容易に想像できてしまう。
ルーファウスはそんなみみの腰を撫でやんわりとたしなめてやった。


「俺がきちんと見ててやる、大丈夫だ」


ルーファウスはシリコンの塊をローテーブルの角に据える。吸盤のついたそれは見事に自立し、事の成り行きを察したみみは更に青ざめた。


「もう十分解してやったが…そうだな、ローションを足してやろう」


紙袋から取り出したボトルから、ドロリとした液体が垂らされる。ローションを纏ったシリコンの塊は、テラテラと光りそのグロテスクさを増す。みみはごくりと喉を鳴らした。


「さぁ、後は腰を落とすだけだ」


ルーファウスはみみのベビードールを剥ぎ取り、ソファにゆったりと腰掛ける。全裸のままそこに残されたみみに、拒否権などなかった。