その夜、令嬢エリナは父親が所有する高級マンションの一室で、静かにニュースを見つめていた。画面には、彼女が思い描いたものとは全く違う光景が映し出されている。

ルーファウス神羅。彼女が長年憧れ、何度も手を伸ばそうとしてきたその男性が、秘書と思しき女性を抱きしめ、彼女の唇に深く口づけをする姿。それを取り囲むようにしてフラッシュが瞬き、記者たちの声がざわめいていた。

「……嘘でしょう。」

手にしていたワイングラスの中身が揺れ、かすかに音を立てた。エリナは唇を噛みしめながら、何度も同じ映像を繰り返し再生する。

「彼が、こんな女を選ぶなんて。」

憤りと失望、そしてどうしようもない嫉妬が胸の奥で渦巻く。エリナは手にしたリモコンを乱暴にソファに投げつけ、立ち上がった。

ルーファウス神羅に惹かれる理由は数えきれないほどあった。生まれながらに持つ気品、容姿、頭脳、そして権力。それに加えて、彼がふと見せる冷徹な中にも垣間見える孤独の影。エリナにとって、それは彼を手に入れる使命感すら覚えるほど魅力的だった。

彼の心を掴むためなら、どんな手段を使ってでもいい。父の権力を使って書かせた記事もその一環だった。ルーファウスと結婚し、未来の神羅を共に支えるという夢を叶えるためなら、多少の嘘や誇張も必要だと思っていた。

だが、彼女が期待した結果は得られなかった。記事を見たルーファウスが何の反応も示さなかったどころか、今日のように堂々と秘書を連れて外出し、自分の愛を世間に知らしめる形で応じてきた。

「あの女……」

エリナの視線は再び画面に戻る。そこには、ルーファウスの腕の中で微笑むみみの姿があった。自分よりも目立たない容姿、家柄も平凡な女性に見える彼女。だが、ルーファウスの瞳が彼女を見つめるときの優しさと確信。それだけで彼が本気で愛しているのが誰なのかが、痛いほど伝わってきた。

エリナは大きく息を吸い込み、視線をそらした。悔しさが込み上げてくる。

「私はこんなところで諦める人間じゃない。」

彼女は心の中でそう呟いた。だが、どこかで薄々気づいているのだ。この勝負は、すでに終わっていると。

ルーファウスがみみに向ける感情。それは、彼女がどれだけ努力しても得られるものではないと。

ワインを飲み干し、空になったグラスをそっとテーブルに置いたエリナは、ふと窓の外を見つめた。

「……こんな女に負けるなんて。」

低く呟いた言葉は、夜の静けさに吸い込まれ、消えていった。その瞳に浮かぶ涙の光を、彼女自身も気づくことはなかった。