クリスマスパーティーの華やかな喧騒が遠ざかる中、令嬢エリナは控え室のソファに深く腰掛けていた。グラスに注がれたシャンパンが揺れ、彼女の指先はその冷たい縁を何度も撫でている。

「みみ、ね……。」
彼女は小さく呟いた。ルーファウス神羅が伴っている、あの控えめな女性の名前。周囲から「秘書」として紹介されている彼女が、ただの秘書ではないことは誰の目にも明らかだった。

***

エリナは長い間、ルーファウスに心を寄せていた。彼の冷徹なまでの知性、神羅の象徴ともいえるその立ち居振る舞い、そして誰にも媚びない鋭い眼差し。その全てが彼女の理想だった。

しかし、その理想の人が、一介の秘書に愛情を注いでいると知った時、彼女は胸の奥に鋭い痛みを感じた。そして、その痛みを埋めるように決意した。彼を自分のものにする――そのためなら、多少の手段を問わなくても構わない。

「ルーファウス様、少しお時間をいただけますか?」
微笑みを浮かべながら彼に声をかける。パーティー会場の隅、彼女の呼びかけに応じるようにしてルーファウスが立ち止まった。

「……何だ?」
彼の低い声には、どこか面倒そうな響きが混じっていたが、エリナは気にしなかった。

「少しお話がございます。こちらに。」
エリナは手で示しながら、広間の外へと彼を誘導した。

***

個室の扉が閉まると、エリナはドレスの肩紐をゆっくりと下ろした。自分の肩や首筋が露わになる様を、彼が見ていることを意識しながら。

「ルーファウス様、私はずっとあなたを想っています。あんな地味な女ではなく、私のような存在が、あなたにふさわしいと思いませんか?」

彼女は自信に満ちた笑みを浮かべ、彼の胸元にそっと手を添えた。続けて唇を近づけ、甘い香りを漂わせるように囁いた。
「あなたに触れることが許されるのは、私だけであるべきです。」

しかし、ルーファウスの表情は微動だにしなかった。それどころか、冷たく鋭い眼差しを向けられたエリナは、一瞬怯んだ。

「終わったか?」
その声は低く、冷酷だった。

「くだらない真似をしている暇があるなら、自分の愚かさを省みたらどうだ。」

エリナの全身が凍りつくような言葉だった。言い返す言葉も見つからないまま、彼が扉の方へ歩き始めたその瞬間、廊下から足音が聞こえた。

***

「ルー?」
扉を開けて姿を現したのはみみだった。彼女の困惑した声に、ルーファウスは即座に反応した。

「ちょうどよかった。」
ルーファウスはみみの腕を掴み、そのまま部屋の中へ引き入れた。

エリナの目の前で、彼はみみを胸に抱き寄せ、まるで宝物を扱うかのように彼女の顔を両手で包み込む。そして、何の躊躇もなく彼女の唇に深いキスを落とした。

「君が来てくれてよかった。」
みみに優しく囁きかけるその声は、エリナが一度も聞いたことのない、柔らかで甘いものだった。

エリナは唖然としながらその光景を見ていた。みみの顔が赤く染まる中、ルーファウスは再び彼女の唇にキスをする。

エリナは拳を握りしめた。涙がこぼれそうになるのを必死でこらえながら、ゆっくりと部屋を出た。

***

廊下を歩きながら、エリナは自分の胸に湧き上がる感情を整理しようとしていた。屈辱、嫉妬、そして深い絶望。

「どうして、あんな女が……」
声にならない呟きが彼女の唇から漏れる。

自分は彼にとって相応しい存在だと思っていた。生まれ育った環境、教養、容姿、全てにおいて自信があった。それでも彼の目には、自分ではなく、あの小さな女性が映っている。

「まだ諦めないわ……絶対に。」
エリナは涙をぬぐい、再び冷静さを取り戻そうとしていた。計画は失敗したが、まだ次がある――彼女の心に宿る執着が消えることは、しばらくなさそうだった。