エリナは失意の中で帰路につきながらも、諦めの感情を捨てきれなかった。ルーファウスの心を手に入れるために、彼の隣に立つ資格があるのは自分だと信じている。
しかし、彼女が知らないところで、ルーファウスとみみはさらに深い絆で結ばれていこうとしていた。

翌朝、神羅ビルの一室
みみは、昨夜の出来事を思い返しながらカップに注いだ紅茶を手に、ルーファウスの執務室へ向かっていた。控えめにノックをすると、低い声が中から響く。

「入れ。」

扉を開けた瞬間、彼女の視線は書類に目を落としているルーファウスの姿を捉えた。その無表情な横顔を見た瞬間、みみの胸の中には少しの不安がよぎる。昨夜、エリナとの件で怒らせてしまったのではないか――そんな考えが頭をよぎる。

「……お茶をお持ちしました。」
静かに言葉を紡ぎ、机の端にカップを置こうとした瞬間、ルーファウスが彼女の手を取り、そのまま引き寄せた。

「待て。」

驚いたみみが顔を上げると、彼の鋭い碧眼が自分を真っ直ぐに見つめている。

「昨日のこと、何か思うことはあるか?」
静かな声だったが、その奥に込められた感情の重さを、みみは感じ取った。

「その……私は、少し心配でした。令嬢の方はルーファウスにとても熱心で……」
みみは顔を伏せながら小さな声で続けた。「私は、社長の隣にいて良いのか、不安になる時があるんです。」

その言葉に、ルーファウスの眉がわずかに動いた。彼は立ち上がると、みみの肩に手を置き、その目を強引に自分へ向けさせる。

「君は、何もわかっていないな。」

彼の口調は冷たいようで、どこか優しさが混じっていた。

「昨夜、エリナのことなどどうでもいい。彼女が何をしようと、私が見るのは君だけだ。」

「でも、私はただの秘書で……」

「秘書ではない。」
ルーファウスは即座に言葉を遮る。その目には強い決意が宿っていた。

「君は私のすべてだ。そんな簡単な事実を、まだ理解できないのか?」

彼はみみの頬に手を添え、そのまま優しく唇を重ねた。

***

一方、エリナは自宅の書斎で新たな計画を練っていた。昨夜の失敗を糧に、次こそはと気持ちを奮い立たせている。

「直接攻めるのは効果が薄い……次は周囲を固める作戦にしましょう。」

父親のコネクションを利用して神羅の取引先に影響力を及ぼし、ルーファウスを追い詰める。彼が選ぶべき相手は、自分以外にいないと悟らせるよう、環境を整えるつもりだった。

「いずれ、みみという存在を排除する。そのためには……」

エリナの瞳に浮かぶのは、執着と嫉妬の炎だった。

***

数日後、神羅ビルの屋上にて、みみはルーファウスと並んで立っていた。冬の冷たい風が二人の間を吹き抜ける中、ルーファウスは彼女をじっと見つめた。

「みみ、何かあれば必ず私に言え。君に何かを背負わせるつもりはない。」

「でも、私は社長の負担になりたくなくて……」

「負担ではない。君がいるからこそ、私はこうしていられるんだ。」

ルーファウスは彼女の手を取り、しっかりと握りしめた。その強い握りに、みみは胸の奥から安心感が広がるのを感じた。

「私は、君を誰にも奪わせない。」

その言葉が風に乗って消えていく頃、二人の間には再び固い絆が芽生えていた。

そして、どれだけエリナが画策を巡らせようとも、この絆を壊すことは、決してできないのだと――彼らの心は確信していた。