エリナはその後も諦めることなく、ルーファウスを手に入れるための策略を巡らせていた。父親の影響力を存分に活用し、神羅カンパニーと取引の深い企業の経営陣に接触する。彼女は社交の場を利用して、ルーファウスが自身の婚約者であるかのように振る舞い、それを周囲に信じ込ませるための布石を打っていった。

「ルーファウス様と私は、以前から特別な関係にありますの。父も彼を信頼していますし、いずれは正式な発表があるはずですわ。」

笑顔で語るエリナの言葉は、次第に噂として広まり始める。神羅社内でも一部の社員がこの話を耳にし、みみの立場を気遣う者もいた。

***

ある日の昼下がり、みみはタークスの一員であるレノに呼び止められた。

「おい、みみ。最近、変な話が広まってるのは知ってるか?」

「変な話……ですか?」

レノは腕を組み、真剣な表情でみみに告げた。

「エリナって令嬢が、社長と婚約してるって吹聴してるらしい。もちろん俺たちは信じちゃいないけど、どうも厄介なことになりそうだ。」

みみの胸の奥に、一瞬鋭い痛みが走った。

「そんなこと……でも、噂に振り回されてはいけませんよね。私は信じています。」

そう口にしながらも、みみの声はどこか震えていた。

***

みみの様子の変化に気づいたルーファウスは、彼女を直接問い詰めた。執務室に彼女を呼び寄せ、デスク越しに静かに見つめる。

「最近、様子がおかしいな。何か心配事があるなら言え。」

みみは少しの間、視線を逸らしたが、意を決して口を開いた。

「……エリナさんが、社長と婚約しているという噂を流しているそうです。それが気になって……」

ルーファウスは短く息を吐き、苛立ちを隠さない表情を浮かべた。

「くだらない話だ。あの女が何を言おうと、私は君を選んでいる。それだけだ。」

彼は席を立ち、みみの前に立つと、彼女の頬に手を添えた。

「そんなことで心を乱されるな。私がいる限り、君を不安にはさせない。」

***

ルーファウスは、ついにエリナと直接向き合う決意をした。彼女が父親と共に出席しているビジネスランチの場で、彼は毅然とした態度で話を切り出した。

「エリナ嬢、最近妙な噂を耳にするが、君の仕業か?」

エリナは動揺するそぶりを見せず、微笑みを浮かべて答えた。

「噂というのは自然に広まるものですわ。私が何かをしたわけではなく、周囲が私たちの相性を見て感じ取ったのでは?」

その言葉に、ルーファウスは冷笑を浮かべた。

「ならば、誤解を解いてもらおう。君にはそうする責任がある。私の隣に立つのは、君ではない。」

エリナの微笑みは一瞬で消え去り、その場の空気は一気に張り詰めた。

***

その夜、ルーファウスはみみを自室に呼び寄せた。穏やかな照明の中、彼はソファに座るみみを隣に引き寄せ、真剣な眼差しで見つめた。

「エリナには、はっきりと釘を刺した。もう余計なことはしないだろう。」

みみは小さく頷き、ぽつりと言葉を漏らした。

「社長は、いつも私を守ってくれますね。」

「当たり前だろう。君は私にとって、唯一無二の存在だからな。」

その言葉に、みみの目尻から一筋の涙がこぼれた。それを見たルーファウスは彼女をそっと抱き寄せ、優しく髪に唇を落とす。

「泣く必要はない。私がどれだけ君を愛しているか、もっと証明してやろうか?」

彼の声は低く甘く、みみの心に優しく響く。

「……それだけで、十分です。」

二人の間に漂う静かな幸福感は、誰にも壊されることのない、確かな絆の証だった。

そして、この夜、エリナという影は完全に二人の間から消え去るのだった。