出張先での長い一日がようやく終わり、夜の帳が降り始めた街中を歩いていたルーファウスとみみ。予定していた車が急なトラブルで手配できず、仕方なく徒歩でホテルに戻る途中のことだった。

「なんてタイミングなの……」

みみがつぶやいたのは、空から突然降り出した雨の音に気づいた瞬間だった。雲行きが怪しいとは思っていたが、まさかここまで強い雨になるとは予想外だった。

ルーファウスは上質なスーツの襟を立てて雨をしのごうとしたが、無駄な抵抗だとすぐに悟る。隣で濡れていくみみを見て、ため息をつきながら呟いた。

「走るぞ。これ以上濡れると体が冷える。」
「え、あっ……はい!」

みみは一瞬戸惑ったものの、彼のペースに合わせて走り出した。雨は容赦なく二人を打ちつけ、ホテルに着く頃には全身びしょ濡れになっていた。


***


スイートルームに戻ると、ルーファウスは上着を脱ぎながら濡れた髪を乱暴にかき上げた。シャツが肌に張り付き、スーツのラインが浮き上がっている彼の姿に、みみは一瞬目を奪われたが、すぐに視線を逸らした。

「すぐに風呂に入れ。風邪をひかれては困る。」

ルーファウスの低い声がみみの耳に届いた。

「はい、でも……社長も濡れてますし、先にどうぞ。」
「では君と一緒に入る。効率がいい。」

みみは彼の言葉に驚いて振り向いた。

「えっ……それは、ちょっと……!」
「恥ずかしがる暇はない。濡れた服のままで長居すれば体調を崩す。」

ルーファウスの声は冷静だったが、その目はどこか楽しげに輝いていた。

「でも、さすがに……」

みみが口ごもるのを見て、ルーファウスは彼女の前に立ち、軽く肩を叩いた。

「私を信用していないのか?」

その言葉にみみは反射的に首を横に振った。

「そんなことはありません。でも、やっぱり……」

ルーファウスは微笑を浮かべ、少し前かがみになって彼女の目を見つめた。

「いいから来い。」


***


浴室の広々としたバスルームに入り、みみは熱い湯気に包まれながら、そっと自分の頬に手を当てた。熱気のせいで赤くなっているわけではない。緊張と恥ずかしさで心臓が早鐘のように鳴っていた。
一方、ルーファウスは彼女の隣でシャツを脱ぎ捨て、無駄のない筋肉が露わになった。視線をそらそうとするみみだったが、気づけばちらちらと彼を見てしまう自分がいた。

「どうした?」

ルーファウスが気づいて声をかけると、みみは慌てて顔を背けた。

「なんでもありません!」

二人で湯船に浸かる頃には、みみの顔は完全に真っ赤になっていた。そんな彼女の姿を見つめながら、ルーファウスは唇の端を上げて微笑む。

「普段の君はしっかりしているが、こういう時はやけに可愛らしいな。」
「からかわないでください!」

みみはぷくっと頬を膨らませるが、その仕草さえもルーファウスの目には愛おしく映った。


***


湯気の中で緊張しながらもリラックスしてきたみみが、無意識に肩を揉みながら溜息をついた。

「やっぱり今日も疲れましたね……」
「そうか。」

ルーファウスは短く答えたが、彼の目は彼女の柔らかな仕草を捉えて離さなかった。湯に濡れる彼女の肌が湯気の中でほんのり赤く染まり、ルーファウスの中で何かが音を立てて崩れそうになる。

「社長、どうしたんですか?」

みみが振り返り、不思議そうに彼を見上げる。

「いや、なんでもない。」

彼は冷静を装おうとしたが、その声には微かに熱が帯びていた。


***


ルーファウスは突然立ち上がり、みみを軽々と抱き上げた。

「えっ、社長!?何をするんですか!」
「君をここに長く置いておくと、私が理性を保てなくなる。」

彼はどこか楽しげにそう言うと、彼女を風呂から連れ出し、大きなタオルで優しく体を包んだ。

「でも、服を着ないと……」

みみが抗議しようとするが、ルーファウスはそれを遮るように彼女の髪にそっとキスを落とす。

「心配するな。私に任せておけ。」

そのまま彼は彼女を寝室へ運び、暖かなベッドの中に滑り込んだ。ルーファウスの腕に包まれると、みみの緊張も次第に和らぎ、彼の胸に頬を寄せた。

「君の全てが愛おしい。」

彼の囁きに、みみはさらに顔を赤くしながらも、心の奥底から湧き上がる幸福感に包まれていた。

その夜、二人の間にはどこまでも甘く静かな時間が流れた。