-morning-


藤色の空が明るみ、コスタ・デル・ソルの海が光を取り戻す。
まだ仄暗い部屋の中で、みみの体が大きく弓形になり、そしてベッドに沈んだ。

毎朝毎夜、体に教え込まれる快楽。
夜は気を失う様に眠りに落ちるまで、朝は覚醒前の体を揺り起こす様に、ルーファウスはみみに快楽を与え続けた。

「あぁ…」

何度目かの深い絶頂を迎えたみみに覆い被さり、ルーファウスは彼女の頭を撫で、額に柔らかいキスを落とす。
みみが甘い微睡に漂っていると、彼は唐突にこう問いかけた。

「どこか行きたいところはあるか、みみ」



ーー



雑多な旧市街の広場は、あらゆる露店で賑わっていた。熟れた果実のような匂いが漂ったかと思えば、香辛料や濃い調理油、甘い焼き菓子の様な匂いが混じり合う。
活気で満ち溢れた市場を、ルーファウスは物珍しげに眺めた。

「此処には良く来るが、この場所は初めてだな」

高価なリゾートシャツを纏った彼の姿は明らかに浮いていた。その様子に苦笑するみみ自身も、仕立ての良いブルーのシフォンワンピース姿という出で立ちで、傍から見ると二人はさながら旧市街に迷い込んだ富豪のカップルのようだった。

「有名な青空市場らしいですよ」

みみは陽の光に照らされて輝く果物の山へと近づく。コスタ・デル・ソル近郊で取れた新鮮なものばかりだ。

「はぐれるなよ」

ルーファウスは人混みに紛れるみみの手を取り指を絡めた。みみの頬がほんのりと染まる。
二人はそのまま、人の波に乗るように市場へと吸い込まれていった。



「…なんだこの魚は。食べられるのか?」

顔をしかめるルーファウスの視線の先には、ミッドガルではまず手に入らないであろうカラフルな魚介が並んでいる。

「旦那、ここの魚は見た目も派手だが味も絶品だぜ」

批判とも取れる言葉を意にも介さず、露店の主人は威勢良くそう答えた。

「わぁ…すごい色…」

みみは七色に輝く魚の鱗に目を奪われる。ミッドガルにもこんな市場があれば、どれほど楽しいだろう。

「みみ、何か欲しいものがあるのか」
「えっと…キッチンを、借りられるなら…きゃっ」

不意に繋いでいた手が解かれ、腰を抱き寄せられる。背後から荷台を引いたチョコボが足早に去っていった。

「あ、ありがとうございます…」
「それで、どの魚がいい?」

腰に回った手がスルリと腹の上に添えられる。みみは一瞬呼吸を忘れ、体を硬直させた。

「熱々だねぇ」

微笑ましそうに店主が二人を眺める。しかし、みみの顔が赤いのは恥じらいの為ではない。
ルーファウスの掌から子宮へと、じわじわと熱が送られる。何度も与えられた深い絶頂を、そう易々と忘れることは出来ない。

「どれ、綺麗なお嬢ちゃん、何を作るか教えてくれたらピッタリの魚をお勧めするよ」
「ぁ…えっ、と…アクアパッツァ、とか…」
「それなら…」

みみはしどろもどろになりながらも何とか言葉を紡ぐ。ルーファウスは至極楽しげにその様子を眺め、指先を腹の上で揺り動かす。
みみは声にならない喘ぎ声を上げた。

「ん?嬢ちゃん何か言ったかい?」
「い、いえっ、何も…」

みみがもじもじと脚をすり合わせるのが伝わり、ルーファウスはふっと笑みを漏らす。
店主の手元には今や持ちきれない程の魚介類が並んでいた。

「商売上手だな。全部で幾らだ」
「3800ギルだね」

ルーファウスは胸元から黒いカードを取り出しそれを差し出した。店主は目を瞬かせて動きを止める。

「露店じゃカードは使えないと思うな…」

みみがそう耳打ちすると、ルーファウスはふむ、と一呼吸置き、マネークリップから一番高額な紙幣を抜き取り店主へと渡した。

「釣りはいらん。後で人を寄越す、それまで取り置いてくれ」
「へ、へい!」

その気前の良さに圧倒されながら、店の主人は人目を引くそのカップルを見送った。



ーー



「さ、さっきの、やめてください…!」

みみが不意に腕に縋り付いてきたかと思えば、切実な目でこちらを見上げている。
ルーファウスは足を止めてみみを見下ろした。
市場の人々は足を止めることなく、二人を避けるように忙しなく行き交っている。

「さっきの?…あぁ、これか」
「っ、もう!」

空いた手で彼女の下腹部に触れる。
みみの手に力が篭り、目に涙が滲んだ。

「お願い…変になっちゃう…」
「そう言われると触りたくなるな」

悪戯っぽく見下ろすルーファウスに、みみは蕩け始めた表情でふるふると首を振った。

「そんなに気持ちいいのか?ここは」
「っん…」

否定すればどういう状況に陥るか、みみには良く分かっていた。唇をぎゅっと引き結び、こくりと頷く。
ルーファウスは目を細めた。

「ほう。それはいい事を知った。帰ったらたっぷりと可愛がってやろう」

この男には敵わない。
みみはじんじんと下腹部を疼かせながらそう思った。

「そこの美男美女さん、美味しい揚げ菓子はどうだい!」

不意に、背後の屋台から声が掛かる。明らかにこちらに向けられた呼び声に我を取り戻し、みみは声のした方向に視線を向けた。
その屋台には色とりどりのシロップでコーティングされた揚げ菓子がみっちりと積み上げられている。見慣れない揚げ菓子だが、みみにとっては何となく味の想像ができるものだ。

「えっと…」
「まぁまぁおひとつ!」

ずいと揚げ菓子を差し出されると、みみは根っからの性分でついそれを受け取ってしまう。
隣に立つルーファウスもそれに倣い、掌に乗った人工的な青色の揚げ菓子をまじまじと見つめる。

「ギトギトで食欲の失せる色だな」
「た、試してみないと分かりませんよ」

あまりにあけすけな物言いにみみは苦笑いする。
ルーファウスはすんすんと匂いを嗅ぎ、それを口に入れる。その仕草が妙に可笑しく感じてしまい、みみは思わず笑い出しそうになった。

「…甘過ぎる」

ルーファウスは眉を顰めつつもそれを飲み下す。
みみはショッキングピンクにコーティングされた揚げ菓子を口に運ぶ。口の中でパリパリと砂糖が割れる音がする。確かに甘過ぎるが、不思議と馴染みのある味だった。

「ここの人間は皆バケツ一杯に買っていくんだぜ」
「正気か?早死にしたいらしい」
「ふふふ…」

みみはつい笑い声を上げる。すると、僅かに目を見開いたルーファウスと視線がかち合った。

「ん?」
「いや、」

しかしルーファウスはそうする代わりにみみの肩を抱き寄せ、額にキスを落とした。

「生憎、健康志向でな。だが良いものを見せてもらった」

ルーファウスは店員にいくらか持たせるとみみの肩を抱いたまま歩き出す。その横顔は思いなしか満足げだった。






-Afternoon-



海を臨む落ち着いたテラス席は、市場の喧騒で少しくたびれた身体を癒してくれた。
ルーファウスは新鮮な野菜や果物等が詰まった紙袋をテーブルの上に置くと、みみをソファベンチへと促す。

「ありがとう」
「…ああ」

半刻程前、露店のあちらこちらに吸い寄せられては商人と談笑するみみに、彼は感心していた。
お陰で、おまけやら何やらと称して増えていく荷物を抱えて歩く羽目になったのだ。後で使いの者を寄越すと言えれば楽だったが、オレンジ数個の為に市場を回らせるのも非効率だ。市場とは面倒な場所だな、とルーファウスが独り言ちたのを、みみは不思議そうな顔で見上げていた。

「とっても賑わってたね」
「ああ」

それでも、ほんのりと嬉しげな顔で席に着くみみの横顔を見ると、行く価値はあったように思える。それに、さりげなく彼女から紡がれた感謝の言葉は、セックスで得られるものは違う満足感をルーファウスにもたらすのだった。

海に面した三、四人がけのソファベンチは、屋外にも関わらず上質かつ清潔なリネン生地で覆われている。ルーファウスはウェイターにシャンパングラスを注文すると、みみの隣に腰を下ろした。

「好きなものを頼め」

値段のないメニューを渡すと、みみが僅かに困惑の表情を浮かべる。
ルーファウスはテーブルに肘をつき、その様子を見て微笑みを浮かべた。

「良く似合っているな」

自分が選んだブルーのシフォンワンピースを満悦そうに眺め、ルーファウスは衣服のラインを確かめるかのようにみみの脇腹へと手を伸ばした。

「ん…」
「どうした?」

眉を上げて挑戦的な視線を送ると、みみは赤い顔をメニューで隠す。

「このカットでお前の胸がより綺麗に見える」

大胆に切り込まれたドレスの胸元を、つつ、と指でなぞる。勿論、下着はつけていない。熱を纏い僅かに汗ばんだ胸の谷間に、ルーファウスは舌舐めずりをした。そのまま胸元の生地に指を滑らせ、胸の突起を爪先で掠める。

「んっ…」
「素直な体だな」

すぐに硬くなるそこをカリカリと爪先で弾けば、柔らかいシフォン生地を押し上げて乳首がピンと勃ち上がった。

「さて、決まったか?」
「ま、まって…!」

じんじんと乳首を疼かせながらみみは息を震わせる。
ルーファウスは体を起こし、隣からメニューを覗き込んだ。それと同時に勃起した乳首をキュッと抓り上げられ、みみは思わずびくびくと揺れた。

「それならこれを頼むといい」

トン、と指で示されたメニューになんとか視線をやる。
丁度その時、シャンパングラスを持ったウェイターがテラスに現れた。

「お決まりですか」
「は、はい…」

じくじくと胸の尖端に集まる熱を感じずにはいられない。ウェイターに見られはしないかとみみの鼓動が早くなった。
胸元をメニューで隠しながら、なんとかオーダーをする。

「かしこまりました。他にご注文はございますか、サー」
「食事に合うワインを頼む」
「あっ」

ルーファウスはみみからメニューを取り上げ、ウェイターに差し出した。衣服を押し上げた乳首を晒されてしまい、みみの顔がカッと熱を帯びる。

「…こちらでセレクトさせていただきます」

それに気付いてか否か、ウェイターは二人に恭しく会釈をしその場を去っていった。

「さて、乾杯だ」



ーー



運ばれてきたのはコスタ・デル・ソル近郊で収穫されたハーブや柑橘類を添えたチキンソテーだった。
ルーファウスは相変わらず海を眺めることもなく、チキンを取り分けるみみを飽きもせずに見つめている。
程よく日避けがされたテラス席には、爽やかな潮風が吹き抜けていた。

「美味しい」

チキンを口に運んだみみの頬が綻ぶ。爽やかな柑橘の香りが鼻を抜ける。シンプルな味付けが素材の良さを引き立てていた。

「…食べないんですか?」

隣から感じる視線に耐えかね、みみはついそう問い掛ける。

「そうだな…荷物を運んで疲れた手を休ませている」
「なにそれ」

緩慢な声で答えるルーファウスに、みみはくすりと笑みをこぼした。
彼の要望を何となく察し、チキンを一切れフォークに刺して口元へと運んでやる。

「悪いな」

ルーファウスはわざとらしい声色でそう言い口を開いた。無防備に開けられた口に、つい母性がくすぐられてしまう。しかし同時に、その唇や舌が如何にして自分に快楽を与えて来たのかを、みみは意識せずにはいられなかった。

それに気づいたのか、ルーファウスはうっすらと目を細める。
片手をみみの太腿に滑らせると、ドレスの裾をゆっくりと引き上げ太腿をあらわにした。

「美味いな」
「あ、ちょ、ちょっと…!」

剥き出しの太腿を明らかな愛撫の手つきで撫で上げられ、みみは悩ましげに眉を寄せる。

「ん?」

太腿にルーファウスの指が食い込む。そこに歯が当てられる所を想像して、みみの下半身はじくじくと疼いた。



ーー



「この辺りの砂は粒子が細かい」

食事が終わり波打ち際を眺めているみみに向けて、ルーファウスはおもむろにそんな事を言い出した。
みみが首を傾げると、突然足首を掴まれルーファウスの膝の上に乗せられる。

「ひゃっ」

シフォンワンピースに合わせて履いていたサンダルのストラップが、ルーファウスの手によって解かれる。するりと履き物を抜き取られ、みみは困惑した。
もう片方の足からも同様にサンダルを脱がせると、ルーファウスはソファから立ち上がりみみの腕を引いた。

「来い」

導かれるままに素足でテラス席の階段を下る。支払いはいいのだろうか、などと余計な心配事が湧き起こったが、真っ白な浜辺が眼前に広がると、その思考は自然と奪われてしまった。

「わ、綺麗…!」

太陽の光を真上から浴びた、シミひとつない白い砂浜。その向こうには、透明から薄いエメラルドグリーンへ、更にその奥は濃いグリーンへとグラデーションを描く美しい海が見渡せた。

砂浜に一歩踏み出そうとしたみみを制し、ルーファウスはその体を横抱きにする。そのまま波打ち際へとゆったりと歩き出すと、みみのシフォンワンピースの裾が潮風でたなびいた。

「お、重くない?」

みみは思わずルーファウスの首に腕を回し、そう問いかける。場違いな問いかけにルーファウスはふっと鼻を鳴らした。

「今更する質問か?」

みみの顔が赤く染まる。
彼の逞しい腕は、もう何度となくこの体を抱いているのだ。みみは目を伏せ、小さな声でいいえ、と答えた。

波の打ち寄せる音が迫り、みみは抱き上げられたまま足下を見下ろす。
潮風であおられた白い砂がさらさらと浜辺を漂っている。透明度の高い海は、砂浜と波打ち際との境目を探すことさえ難しい。

「ここなら足を火傷することもない」

ルーファウスは足を止め、みみの体をそっと浜辺へと下ろしてやった。石ころや貝殻のかけらもない、しっとりとした砂の感触に、みみは驚く。

「すごい…気持ちいい」

みみは思わず足踏みをした。キュ、キュ、と足元から砂の擦れる音が聞こえてくる。
ぱっと明るくなったみみの表情に、ルーファウスは目を細めた。

「あ、魚が泳いでる。かわいい」

ドレスの裾を持ち上げ浅瀬で魚と戯れるみみを、ルーファウスはしばらく堪能する。彼女の見せる表情の変化に、今日は目を奪われてばかりだった。

「みみ」
「はーい、きゃっ!」

聞き返そうと数歩歩み寄ったみみの手首を掴み、一瞬のうちに胸の中へと抱き寄せる。

「愛している」
「…わ、たしも」

みみの腰を抱き、ルーファウスは貪るようなキスをした。
長年押し込めてきた人間らしいほの温かい感情が、どうしてこの女一人に呼び起こされるのだろうか?
ルーファウスは愛おしい感情と独占欲をキスでぶつけた。セックスの記憶を呼び起こすような、激しい口づけだ。爽やかな海辺には似つかわしくない水音が辺りに響き渡る。
みみの足が覚束なくなるが、そんな事に構いはしなかった。

「っは…」

涎に塗れた唇を離し、みみの表情を覗き見る。
トロリと目を蕩けさせ、弛緩した半開きの口で熱い呼吸を繰り返すみみに、ルーファウスはいつも通りの自分を取り戻す。

「るー…」

みみはなんとか呼吸を整え、ルーファウスの胸元に顔を埋めた。

「なんだ」
「私も、あいしてます…」

ルーファウスの手が後頭部を撫でる。その手を、みみは心地よく感じ目を閉じた。

「ふ、知っている」

不意に顎をクイと持ち上げられ、みみは顔を上げる。いつもの嗜虐的な笑みを浮かべたルーファウスが自分を見下ろしていた。

「俺から一生離れられなくしてやる」

みみの腰にじんと痺れが走る。蜜壺は彼に見つめられるだけであっという間に愛液を滴らせた。

「もう離れられないのに」

太陽が頭上で輝く真昼間の海辺で、みみは今夜味わう快楽について思いを馳せる。
己の不安を押し込めて念を押すルーファウスを見て、波間に揺れながら、みみは愛おしさを感じずにはいられなかった。