007
木造の小さな部屋に、真っ白なスーツを被せたシングルベッドと一人掛けのソファ。曇った窓の向こうにごおごおと燃えるオレンジと焼け落ちる多くの木材。壁の向こうは火の海だというのに、なぜか私は、ひどく冷静だった。段々と室内まで伝わって、じりじりと肌を焼け付く篭るような熱。息が苦しい、目を開けていられない。ああ、このまま、死ぬ。そう思ったとき、古いドアが外からこじ開けられた。ドアの向こうに立つ人の顔は、背後で燃え盛る炎の逆光で見えない。大きな手が力強く私の腕を引っ張って、抱きしめて、狭い部屋から脱出させた。「ーー……。」何を言ったかは聞こえない。けれど、聞き覚えのあるテノール。私はこの人を、この男を知っている。「ルーファウス、」縋りつくように背中に腕を回して、当たり前のように私の口から彼の名が零れた。役職名ではなく、名前。なぜ? その答えは考えても出てこないけれど。手の力を強くするほど、彼の手も同じようになって、そして、消えた。いつの間にか私は一人で砂浜に一人で突っ立っていて、湿気と塩分を含んだじっとりした風が頬を撫でつけた。「さむい」炎に囲まれて、彼の熱い抱擁を受けた私の身体は、突然放り出された海辺の涼しさに耐えられなかった。しゃがみこんで、両腕をクロスさせて擦る。私は今ひとり。この場から救い出してくれる男は、もういない。