夜のコスタ・デル・ソルは、昼間とは違う顔を見せていた。温かなランタンが砂浜に点在し、波打ち際に反射する光が幻想的な輝きを放つ。リゾート地のバーからは穏やかなジャズが流れ、海風と共に甘く酔わせるような雰囲気が漂っている。

みみはバーのカウンターに座り、琥珀色のカクテルグラスを手にしていた。昼間の散歩で疲れた体を癒すように、ひと口ずつゆっくりと飲む。彼女の隣には、同じくグラスを傾けるルーファウスの姿があった。黒いシャツに袖を軽くまくり、カジュアルでありながらも威厳を感じさせるその姿に、周囲の視線が自然と集まっている。

「リラックスしているように見えるな。」
ルーファウスがみみに微笑みかけながら言った。その声は低く、静かな夜の空気に溶け込むようだった。

「ええ、こうしてあなたと過ごせる時間が、とても特別に感じます。」
みみは微笑みながら答えた。彼女の言葉には、日々忙しい彼との貴重なひとときを大切に思う気持ちが滲んでいた。

ルーファウスは満足げに頷き、少しだけグラスを傾けた。その後、彼はふと立ち上がる。「少し席を外す。すぐ戻る。」

みみは小さく頷いたが、彼が離れると、背中に冷たい気配を感じた。振り返る間もなく、彼女の隣の席に見覚えのある男が座る。

「やあ、久しぶりだね、みみさん。」

その声にみみの背筋が凍る。目を向けると、大企業の御曹司であるジェラルド・ヘインズが自信たっぷりの笑みを浮かべていた。彼はルーファウスほど洗練されていないが、整った顔立ちと背の高い体格で一見すると魅力的に見える。だが、みみにとって彼はただの厄介な存在だった。

「……ジェラルドさん。」
みみは冷静を装いながら言葉を返した。

「こんなところで偶然会えるなんて運命だと思わないかい?」ジェラルドは彼女の手元のグラスに目をやり、すぐにバーテンダーを呼び止める。「このレディにもう一杯、俺のおごりで。」

「いえ、大丈夫です。」みみは即座に断ったが、ジェラルドは意に介さない。

「遠慮しないで。昔の関係を考えれば、これくらいは当然だろう?」

彼の言葉に、みみは眉をひそめた。数年前、彼と短い間だけ交際していた時期があった。だが、その関係は彼の浮気によって終わりを迎え、以来、彼の執着がみみの負担となっていた。

「私にはもう関係のない話です。」
みみは毅然とした態度で言ったが、ジェラルドは微笑みを崩さない。

「君がそう言うのは分かるよ。でも、俺の気持ちは変わらない。それに、あの冷たいルーファウスなんかより、俺の方が君にふさわしい。」

ジェラルドがみみの手に触れようとした瞬間、背後から低く冷たい声が響いた。

「その手をどけろ。」

みみが振り返ると、そこにはルーファウスが立っていた。彼の瞳は月光を受けて鋭く光り、声には冷たい怒りが滲んでいる。

「ルーファウス様……」みみは安堵の息をついた。

ジェラルドは一瞬怯んだが、すぐに笑いを作って立ち上がる。「これはこれは、社長自ら迎えに来るとは。さすがですね。」

「みみが迷惑しているのが分からないのか?」ルーファウスは一歩前に出ると、ジェラルドを睨みつけた。「二度と彼女に近づくな。次は容赦しない。」

ジェラルドの表情が強ばる。彼は何か言い返そうとしたが、ルーファウスの威圧感に言葉を飲み込み、その場を去っていった。

二人きりになると、ルーファウスはみみの肩に手を置き、柔らかな声で言った。「怖い思いをさせたな。」

「いいえ、あなたが来てくれて安心しました。」みみは微笑みながら彼を見上げた。その瞳には感謝と愛情が満ちている。

ルーファウスは静かにみみの手を取り、指を絡めるように握った。「俺のそばにいる限り、何も心配するな。お前を守るのは俺の役目だ。」

彼の言葉にみみの胸は熱くなった。夜風が二人の間を通り過ぎる中、彼らの絆はさらに深まった。

バーの灯りが揺れる中、ルーファウスはみみの頬にそっと口づけを落とした。その瞬間、波音と夜空の星々が、二人だけの愛を祝福しているように感じられた。