コスタ・デル・ソルの眩しい陽射しが降り注ぐ午後、みみは小さなカフェのテラス席でアイスティーを片手に、海岸線を眺めていた。彼女の隣には、地元に住む青年、カイルの姿があった。爽やかな笑顔と柔らかい物腰の彼は、この数ヶ月で何度もみみに会いに来ていた。彼の積極的な態度に、みみは困惑しながらも、強く断ることもできずにいた。

「こんなに素敵な場所で一緒に過ごせるなんて、俺は幸運だよ。」
カイルが言い、みみに微笑みかける。その笑顔は無害そうに見えて、どこか執着を含んでいるようだった。

「そう言っていただけるのは嬉しいです。でも、私は……」
みみは言葉を濁す。彼女の心には常にルーファウスの存在があった。彼以外の誰かに惹かれることはあり得ない。だが、それを知らないカイルはその沈黙を脈ありと受け取った。

「もし俺がもっと早く君に出会っていれば……今頃は一緒に未来を考えていたかもしれないね。」
その言葉に、みみは思わず息を呑んだ。彼の気持ちの真剣さを感じる一方で、彼女の胸には罪悪感と違和感が入り混じる。

その時だった。冷たく鋭い声が背後から響いた。
「いい未来のためには、余計な幻想を抱かないことだ。」

みみが振り返ると、そこにはルーファウスが立っていた。冷徹な視線をカイルに向けながら、カフェのテラスに入ってくる彼の姿は、周囲の視線を一瞬でさらっていた。

「ルーファウス様……」
みみがその名前を口にすると、彼は彼女の隣に立ち、堂々とカイルを見下ろした。

「彼女はお前の手の届く相手ではない。」
ルーファウスの声には冷たさと、隠しきれない嫉妬が滲んでいた。

「……誰だ、この人?」
カイルが眉をひそめる。彼の動揺は明らかだったが、それでも彼はみみに視線を向け、言葉を探すように口を開いた。
「みみ、この人は君の知り合い……?」

「知り合いだと?」
ルーファウスが皮肉げに笑みを浮かべた。その笑顔はどこか危険な予感を抱かせるものだった。

彼はみみの手を取り、そのまま彼女を自分の方へと引き寄せた。突然のことにみみは驚きつつも、抵抗することなく彼に身を預ける。

「俺たちがどんな関係か、教えてやる。」

ルーファウスはみみの顔を持ち上げると、彼女の唇に深く口づけた。公衆の面前という状況にもかかわらず、それは遠慮のない、所有を示すようなキスだった。

みみは目を閉じ、彼の感情の激しさをそのまま受け止めた。彼の嫉妬、不安、そして彼女を絶対に手放さないという執念が、その一瞬に詰め込まれているのがわかった。

カイルは目を見張り、言葉を失ったまま立ち尽くしていた。ルーファウスがキスを解くと、みみの頬は赤く染まり、目を伏せたままだった。

「これで十分だろう。」
ルーファウスが冷ややかにカイルを見据える。その視線は、これ以上の干渉は許さないと明確に告げていた。

カイルは何も言わず、椅子を引いて立ち上がる。彼の目には敗北感が浮かんでいた。
「……分かったよ。でも、また会える日を待ってる。」

その言葉を残し、カイルはカフェを後にした。

みみは小さく息をつき、ルーファウスの顔を見上げる。
「……ルーファウス様、そんなことをしなくても……」

「必要だった。」
彼は言い切った。その表情には未だ残る嫉妬の色が見て取れる。

「お前が俺以外の男とこんな場所で会っているなんて、俺は耐えられない。」

彼の言葉には弱さが滲んでいた。強い独占欲の裏にある不安を、みみは感じ取った。

「あなた以外に誰もいません。」
みみはそう告げると、そっと彼の手に触れた。その温かさに、ルーファウスの表情が少しだけ柔らいだ。

二人の間に再び平穏が戻った頃、波音だけが静かに響き渡っていた。