コスタ・デル・ソルの夕暮れは、黄金の光に包まれていた。空が深い橙色に染まり、波打ち際では潮騒が優しく響く。ルーファウスとみみは、リゾートホテルのプライベートビーチで並んで座っていた。穏やかなひととき——だが、その背後には影のような存在があった。

「……あの方、まだこちらを見ていらっしゃいます。」
みみがそっと耳打ちすると、ルーファウスはわずかに顔をしかめた。その視線を辿ると、砂浜の遠く、椰子の木の陰にひっそりと立つ女性の姿が見える。長い黒髪に均整の取れたプロポーション、そして宝石のような瞳を持つ彼女は、神羅カンパニーの取引先の令嬢、アレッタだった。

彼女は数日前からルーファウスを追いかけ、ここコスタ・デル・ソルにまで現れた。みみは初めて会ったときから、彼女の存在に気圧されるような感覚を覚えていた。美しく、知的で、どこか傲慢な雰囲気すら似合う彼女は、みみとは違う世界の住人のように見えた。

「彼女がここに来てから、ずっと気分が落ち着かないんです……」
みみの声は小さく震えていた。アレッタはストーカーのようにどこにでも現れ、ルーファウスにアプローチを続けている。そのたびにみみは不安に苛まれるのだった。

「彼女が何をしようと、俺の心は動かない。」
ルーファウスの言葉は冷たく、はっきりしていた。しかし、その言葉で安心できるほど、みみの不安は小さくない。特にアレッタが持つ圧倒的な美しさと自信を見ると、自分が彼にふさわしいのかという疑念が胸を締めつけた。

「それでも……彼女は美しい方ですし、私なんかより……」
みみの言葉を遮るように、ルーファウスは彼女の手を取り、強く握りしめた。

「お前に比べれば、あの女の美しさなど空虚な飾りに過ぎない。」
彼の声には確信があった。そのまなざしは、みみに対する深い愛情で満ちていた。

その瞬間、遠くのアレッタがこちらに歩み寄ってくるのが見えた。砂浜をゆっくりと歩く彼女の姿は、夕陽を背景に一層際立っている。

「ルーファウス様、やはりこちらにいらしたのですね。」
彼女の声は甘く、まるで古い知己のように親しげだった。みみに対する視線には、見下すような冷たさが含まれている。

「アレッタ、お前には何度も言ったはずだ。」
ルーファウスは冷然とした声で言い放つ。だが、アレッタは怯む様子もなく、さらに一歩近づいた。

「私のことを冷たく拒絶なさるのも、あなたの興味を引くためかしら?」
アレッタは艶然と微笑みながら、彼の肩にそっと手を伸ばした。しかし、その瞬間、ルーファウスは素早くみみを引き寄せ、彼女を抱きしめた。

「お前のような存在に、俺の時間を割く価値はない。」
その言葉とともに、ルーファウスはみみの耳元に顔を寄せ、低く囁いた。

「お前だけが俺のすべてだ。他の誰にも、それを覆す力はない。」

彼の声は深く、胸の奥に響くようだった。そして、そのまま彼はみみの頬に唇を落とし、ゆっくりとその形を確かめるように口づけを重ねた。それは、見せつけるための行為でありながらも、彼女に対する本物の愛情が込められていた。

みみは驚きと恥ずかしさで体を硬くしたが、ルーファウスの腕の中にいると、不安や嫉妬は次第に薄れていく。彼がこれほどまでに自分を大切にしていると示してくれることが、何よりも嬉しかった。

アレッタはその光景を見つめながら、唇を噛み締めた。そして何も言わず、踵を返して砂浜を去っていく。

「……大丈夫ですか?」
ルーファウスが問いかけると、みみは小さく頷いた。

「はい。でも、あんなに堂々と……少し恥ずかしいです。」

「それでいい。」
彼はみみの髪を優しく撫でながら言った。「お前が俺以外の誰にも不安を感じなくて済むようにするためなら、俺は何だってする。」

波音が再び穏やかに響き渡る中、みみはルーファウスの胸に顔を埋め、彼の鼓動を感じていた。彼の愛が、自分にとって唯一無二のものだと、改めて確信する瞬間だった。