脱衣所から廊下へ出て、リビングの扉に手をかける。すう、と深呼吸を一度。大丈夫、さり気なく、さり気なく。がちゃりと扉を開けると、白いソファに座ったルーがちらりと私を見上げた。あがったよ、と声をかけて、冷蔵庫から炭酸水を取り出す。コップに注いだそれをごくりと飲み干して、小さく息を吐く。自然に、さり気なく。

「ひさびさにゆっくり入っちゃった」
「しっかり温まったか? 今晩も冷える。きちんと髪を乾かせ」
「うん」

 生理中はなんとなく、ゆっくりバスタブに浸かることがはばかられる。それから、どうしてもイライラしてしまって、仕事の合間にクッキーやビスケットを摘んでしまうのだ。だから、生理が終わってからの体重計に乗るのはいつも恐ろしかった。ルーと、こうやって一緒に暮らすようになるまでは。

「……どうした?」
「あ、えっと、」
「ん?」
「…………また、少し、太っちゃって、」

 ひっくり返りそうになる声を必死で抑え込む。平常心、と胸の内で囁いたことに、ルーは気づいたのだろうか。ふ、と小さく笑みを溢したルーが、手にしていた本をぱたんと閉じる。それに、びくんと身体が反応してしまった。

「みみ、」
「っぁ、るー、」
「髪を乾かしてこい。……俺は――」

 寝室で、待っている。
 その言葉が、ひどく甘く聞こえたのは、きっと気のせいじゃない。



***



「ひう、あ、るー、ふぁ、んんっ、」
「ほら、みみ、そんな調子ではイけないぞ」

 するりとルーの手のひらが脇腹を撫でて、それだけでぞわぞわとしたものが背筋を駆け上る。私が腰を振るたびに、くちゅくちゅという湿った水音が寝室にこだました。手をつくルーの腹筋は固く引き締まっていて、触れている私の方がどうしてか感じてしまう。ベッドに横になったまま、ルーが楽しそうに私を見上げた。細められたその視線を、これ以上ないくらい意識してしまって、もういろいろと限界だった。

「んん……るー、んあっ、るー、好き、」
「っは、みみ、可愛いな、お前は……」
「るー、イきた、っふぁ、るぅ」
「痩せたいんだろう? しっかり動け」
「あぁっ、でも、私、もう、」
「……仕方ないな」

 楽しそうに呟いたルーが、その大きな手のひらでお腹をゆるりと撫でる。指先がとん、と肌の上から子宮に触れたので、中に埋まってるルー自身をぎゅうぎゅうと締め付けてしまった。唇から耐えきれなかった喘ぎ声が飛び出して、びくんびくんと身体が震える。自分の形を確かめるみたいに、ルーの指先がつつ、と下腹部をなぞった。それだけで、頭が破裂してしまいそうなくらいの快感が生まれては弾けていく。

「ひゃああっ、ルー、だめ、るー、」
「はぁ、締まるな、そんなにいいのか?」
「あ、ああ、イっちゃ、ルー、イく、」
「ああ、お前はここも、は、好きだったな?」
「っ、だめ、そこは、ひ、ああぁぁぁあっ!」

 ルーの親指が、どろどろに蕩けたその場所の、一番敏感な突起をぬるりと擦り上げる。電撃みたいな刺激に、私の意識はすぐに持っていかれてしまった。全身がぶるぶると震えて、身体を支えきれずにルーの胸板へと倒れ込む。耳元で心臓がどくどくと走った。必死で呼吸を整える私の背中を、ルーが戯れに撫でる。その爪が肩甲骨をかり、と引っ掻くたびにぞわぞわとしたものが湧き上がっては募っていく。ふ、とルーが笑った気配がした。

「イったのは久々だな。良かったか?」
「っ、」
「くく、俺に抱いてほしいなら素直に言えばいいだろう」

 かぁ、と顔が熱くなった。恥ずかしさを誤魔化すようにルーにすり寄ったけれど、彼にはきっとお見通しに違いない。さり気なく告げた「太っちゃった」の意味も。自然に、自然に、と思っていたそれすら、きっとルーは気付いているだろう。私の髪を優しく撫でたルーが、両手で腰をぐっと掴む。ぐい、と力を込められて、促されるまま再びルーのお腹に手をついて、彼を見下ろす。私の真っ赤に染まった顔に気づいたルーが、にやりと唇を釣り上げた。そのまま。掴まれた腰が持ち上げられ、ぐちゅんと下ろされて、突然の刺激にバチバチと視界が弾ける。

「ひゃああぁんっ! るー、まって、あぁっ」
「待っていても痩せないだろう、ほら、みみ、もっとだ」

 ばちゅばちゅと突き上げられて、奥ばかりごりごりと刺激されて、二度目の絶頂もすぐにやってきた。息を整える間も無く、身体を起こしたルーに抱きしめられたと思ったら、引き抜かれたそれが再びぐちゅんと埋められる。

「ま、まって、るー、むり、んあぁっ」
「誘ったのはお前だからな、みみ、覚悟しろ」

 ぎらぎら光る目が私を射抜く。降ってきた唇に応えるように、目蓋を下ろして首筋に腕を回した。吐息ごと、全部奪われてしまいそうで。シャンプーの香りが鼻をくすぐる。夜はまだまだ終わらない。



211220