華やかな夜会の音楽が静かに響く中、みみは大広間の隅でグラスを手にして立っていた。ルーファウスの姿は会場の中央、数人の実業家たちと会話を交わしている。その冷ややかで自信に満ちた様子に、彼がこの場の主役であることがはっきりとわかる。

一方で、みみの隣にはあの御曹司が立っていた。以前のバーでの出来事を思い出すと、みみの胸には警戒心が湧き上がるが、彼は柔らかな笑顔を浮かべていた。

「お一人ですか、みみさん?」
彼の声は穏やかで、人懐っこさを装っている。しかし、その目には何か計算された光が潜んでいることをみみは感じ取った。

「いえ、社長と一緒です。」
みみは素っ気なく答えたが、御曹司は意に介さない様子で話を続けた。

「ルーファウス社長もお忙しいですね。あんなに多くの人と話をして、貴女をここに置き去りにするなんて。」
その言葉に、みみは眉をひそめたが、言い返すことはしなかった。ただ一瞬、ルーファウスの方を見やる。彼の背中は自信に満ちているが、どこか孤独な影も感じさせる。

御曹司はみみの沈黙を好機と捉えたのか、さらに一歩近づいた。
「みみさん、貴女の美しさはここにいる誰もが認めるところでしょう。ですが、私はただの賞賛ではなく、貴女を支えたいと思っています。」

その言葉に、みみは驚きと戸惑いを覚えた。
「支える…ですか?」
彼女が問い返すと、御曹司はさらに言葉を重ねる。

「貴女の才能や思いやりを、もっと自由に発揮できる場があると思うんです。貴女が縛られることなく、自分らしくいられる場所が。」

みみはそれが何を意味しているのかを悟り、すぐに否定した。
「私は社長の秘書です。それ以上でも以下でもありません。」

だが、御曹司は引き下がらなかった。
「みみさん、それは本心ですか?貴女が彼に尽くす気持ちは分かります。でも、貴女は彼にとってただの秘書ではない。もっと大切な存在でしょう?それでもなお、彼は貴女に見返りを与えていますか?」

その瞬間、みみの胸に小さな痛みが走った。御曹司の言葉には確かに真実の一端が含まれていた。ルーファウスが忙しさにかまけて、彼女を一人にすることがどれほど多かったか。

しかし、それでもみみは首を振った。
「そんなことを言わないでください。社長には社長の事情があります。」

御曹司はため息をついたふりをして肩をすくめた。
「どうか一度、私を信じてみませんか?貴女を心から幸せにする自信があります。」

その瞬間、大広間の空気が変わった。まるで何かが迫ってくるような緊張感が走り、みみは背筋を伸ばした。気づけば、ルーファウスがこちらに向かって歩いてきていた。

その鋭い眼差しが御曹司に向けられると、彼は一瞬怯んだように見えたが、すぐに表情を整えた。ルーファウスはみみの横に立つと、低く抑えた声で言った。
「遅くなったな。待たせたか?」

その一言で、みみの胸が温かく満たされるのを感じた。
「いえ、そんなことありません。」

御曹司は引き下がることなく、笑みを浮かべてルーファウスに手を差し出した。
「ルーファウス社長、初めまして。先ほどからみみさんと少しお話をさせていただいていました。」

ルーファウスは彼の手を取ることなく、冷たく返した。
「ああ、聞いていたよ。だが、彼女は私の秘書だ。何か用事があるなら、私を通してくれ。」

その冷たさに、御曹司は何も言い返せなかった。そしてルーファウスはみみの肩をそっと抱き寄せ、耳元で静かに囁いた。
「この場を離れよう。」

みみはルーファウスの強さに身を委ね、二人は御曹司を残して会場を後にした。後ろに立ち尽くす彼の瞳には、消えない執念の炎が揺れていた。