翌朝、神羅ビルの最上階。

ルーファウスの執務室は、いつもと変わらぬ静けさに包まれていた。みみはデスクの上の書類に目を通しながらも、昨夜の出来事を思い出していた。あの御曹司の言葉と態度、そしてルーファウスの毅然とした対応。胸の奥に残る不安と安堵が複雑に絡み合い、集中力を削いでいる。

その時、執務室の扉が静かに開き、ルーファウスが入ってきた。いつもと変わらぬ冷静な表情だが、みみはその奥にある鋭い感情の影を感じ取った。

「みみ。」
彼は短く呼びかけた。その声には、何かを確かめるような響きがある。

「はい、社長。」
みみは立ち上がり、ルーファウスの顔を見上げた。その目が交差する瞬間、彼がため息をつくのが聞こえた。

「昨夜のこと、まだ気にしているのか?」
彼の問いかけに、みみははっとした。どうやら彼は、自分の動揺を見抜いているらしい。

「いいえ、大丈夫です。あの方はきっと…もう。」
みみは言葉を濁したが、ルーファウスは首を振った。

「まだだ。」
その一言に、みみの心臓が跳ね上がる。

ルーファウスは窓際に歩み寄り、大都会の景色を見下ろしながら続けた。
「あの男の目的は、お前を手に入れることだ。昨夜の様子からして、一度の失敗で諦めるような人間ではない。」

みみは驚きと同時に不安を覚えた。だが、ルーファウスの背中は揺るぎない自信に満ちている。

「心配しなくていい。」
彼はみみに向き直り、その瞳をじっと見つめた。
「お前は、私のそばにいればいい。誰にも渡さない。」

その言葉にみみの胸が熱くなり、思わず目を伏せた。

「ですが、社長…彼は権力も資産もある方です。そう簡単には…」
みみの不安げな声に、ルーファウスは軽く笑った。

「権力と資産なら、この私の足元にも及ばない。」
その傲慢ともいえる言葉には、彼らしい冷たくも強い意志が込められている。

彼はデスクに歩み寄り、みみの手を取った。その手の温かさに、みみは心が解けていくのを感じる。
「心配するな、みみ。どんな手を使っても、あの男を遠ざけてやる。」

その夜、ルーファウスは動いた。

***

数日後、神羅ビルの応接室。

御曹司はいつものように冷静さを装いながら、ルーファウスの前に座っていた。だが、その内心は揺れている。ルーファウスの徹底した冷徹さと、圧倒的な威圧感を前にして、彼の計画は徐々に崩れていくのを感じていた。

「御曹司殿。」
ルーファウスは低い声で切り出した。その声には、冷たい刃のような鋭さがある。

「お前がどんな手を使おうと、みみは私のものだ。それだけは覚えておくんだな。」

御曹司は何か言い返そうと口を開いたが、その言葉を遮るようにルーファウスは立ち上がった。
「そして、二度と彼女に近づくな。これは警告だ。次があれば、容赦はしない。」

その目に宿る鋭い光に、御曹司は息を飲んだ。これ以上何かを言えば、取り返しのつかない事態を招くことを直感した。

その日を境に、御曹司がみみに近づくことはなくなった。そしてみみもまた、ルーファウスの絶対的な愛と守りを感じながら、彼のそばにいることへの安心感を深めていくのだった。