夜の社長室は、いつもより少し静かだった。重厚なデスクを挟んで、みみはソファに腰掛け、ルーファウスの書類をまとめていた。だが、その手はどこか落ち着かず、視線はルーファウスの顔をちらちらと盗み見るばかりだ。

彼はペンを走らせながらも、時折みみの動きを意識している様子だった。

「何か言いたいことでもあるのか?」
ルーファウスがふと視線を上げると、みみは驚いたように目を丸くした。

「え、い、いえ、何も…」
声を震わせて答えるみみに、ルーファウスは小さく笑みを浮かべる。

「俺のことをそんなに見つめるのは、何か理由があるのだろう?」
彼の言葉に、みみは顔を赤くし、視線を逸らす。

「別にそんなつもりじゃ…」
みみは何とか言い訳をするが、その声には明らかに動揺が混じっていた。

実はみみには一つ、密かに思っていることがあった。最近、ルーファウスの仕事が忙しく、甘い言葉を聞く機会が減っていたのだ。それが少し寂しくて、彼の口から愛の言葉をたくさん聞きたいと思っていたのだが、自分から言い出す勇気はない。

「ふむ。」
ルーファウスは彼女の反応を面白がるようにじっと見つめ、デスクの向こうからゆっくり立ち上がる。そして、みみの隣に腰を下ろした。

「みみ。」
低く甘い声で名前を呼ばれ、みみの心臓が跳ねる。

「俺に何か隠していることがあるなら、正直に話すんだ。」
その真剣な眼差しに、みみはたまらず視線を泳がせた。

「あの…その…」
もじもじと言葉を探すみみに、ルーファウスは腕を組み、考え込むように首を傾げる。
「もしかして、俺に何かしてほしいことでもあるのか?」

その鋭い指摘に、みみの動きが止まる。そして小さく頷いた。

「…最近、あまり言ってくれないから…」
ぽつりと漏らされた言葉に、ルーファウスは眉を上げる。

「何を言わないって?」
彼が聞き返すと、みみは顔を真っ赤にしながら、小声で答えた。

「その…ルーが…私のこと、好きだとか…愛してるとか…そういうの。」

その瞬間、ルーファウスの表情に驚きと笑みが混ざる。

「なんだ、それだけのことか。」
呆れたように言いながらも、彼の声には愛しさが滲んでいた。

「だって、最近は忙しくて…全然言ってくれないから…」
みみが不満そうに呟くと、ルーファウスは彼女の頬をそっと撫でた。

「なら、今ここでたくさん言えばいいんだな。」

彼はみみの顔を両手で包み込み、真剣な目で見つめる。

「お前は俺のたった一人の大事な人だ。俺はお前を心の底から愛している。それに…」
彼の唇が彼女の額に触れる。
「お前のことを誰よりも大切に思っている。お前なしでは生きていけない。」

みみは彼の言葉に涙ぐみながら、小さく笑った。
「…もっと言って。」

ルーファウスは苦笑しながらも、みみを抱きしめた。
「いいだろう。お前が望むなら、これから毎日言ってやる。」

みみは彼の胸に顔を埋めながら、静かに幸せを噛みしめた。