33
翌日の夜も、風の音と波のざわめきは変わらなかった。
シャワーを終え、髪を乾かし、いつものルームウェアに身を包んで寝室へ戻る。その一連の流れは、ここ数日のうちにすっかり「ルーファウスと過ごす夜」の前奏のようなものになっていた。
ベッドサイドのランプだけが灯る薄暗い部屋で、先に横になっていたルーファウスが、いつものように片腕を広げる。
「おいで」
それだけの言葉に、胸の奥がじわりと熱くなる。昨夜の余韻がまだ身体のどこかに残っているのだと、みみは自覚せざるを得なかった。
布団の中に滑り込み、彼の腕の中に収まる。胸板の固さと、その奥にしっかりと刻まれる鼓動。その全てが、昨日よりもずっと近く、強く感じられる。
「今日は、どうだ」
耳元で落ちる声は、いつもどおり静かだ。
「昨日よりは、眠れそうか?」
「……分かりません」
口ぶりは同じでも、意味は少し違っていた。眠れない予感は、昨夜とは違う熱に由来している。
ルーファウスは、それ以上言葉を重ねなかった。代わりに、そっとみみの背中に手を回し、ゆっくりと円を描くように撫でる。肩から腰へ、腰から背中の上へと、服の上から何度も行き来する。
それだけで、肌の下がじんわりと熱を帯びていく。昨日、服の内側に触れられたときに走った火照りが、すぐに思い出されてしまう。背骨に沿って落とされた熱の軌跡が、内側からもう一度浮かび上がってくるようだった。
やがて、彼はいつものように、額に唇を落とした。
「おやすみの、練習だ」
冗談めかしてそう言いながら、眉間、こめかみ、頬とキスを移動させていく。その流れの最後に、当たり前のように唇が重なる。
「……ん」
最初は短く。触れて、離れて、また触れる。それだけなら、もう驚くことはない。だが、今夜は最初から甘さの濃度が違っていた。
唇が深く押し当てられ、形を確かめるようにゆっくりと動く。ほんの少し息を吸おうと口を開いた瞬間、舌が静かに侵入してくる。何度も繰り返してきた深いキスのはずなのに、身体の奥で広がる熱は、昨夜よりもずっと強かった。
「……っ、ふ……」
舌と舌が触れ合うたび、胸の奥から甘い痺れが広がる。頭がぼんやりして、彼の腕の中に力なく沈んでいく。昨日、服の内側に触れられた感覚まで一緒に蘇ってきて、息がうまくできなくなる。
ルーファウスの手がそっと服の裾に触れ、確かめるように内側へと滑り込む。昨日と同じように、背中を、腰を、胸の下あたりをゆっくり撫でていく。その動きは慎重で、乱暴さはひとつもないのに、触れられたところから熱が一気に広がる。
「ぁ……」
喉の奥から小さな声が漏れた。自分で自分の声に驚き、反射的に口元を押さえようとする。けれど、その手はルーファウスに優しく掴まれ、布団の上へと戻される。
「隠さなくていい」
耳元で落ちる掠れた声。
「君がどう感じているか、ちゃんと知っていたい」
そんなことを言われてしまえば、ますます声を抑えられなくなる。
背中をなぞる指先が、ゆっくりと下へ降りて腰を包む。服越しに何度も触れられて慣れたはずの場所なのに、素肌に直接触れられるだけで、まるで別の場所のように敏感になる。
「……っ、ん……」
膝から力が抜け、腰がふわりと浮いたような感覚がする。身体の奥が、どうしようもなくじりじりと疼いた。
(どうして……こんな……)
彼の手が触れるたびに、「もっと」と身を預けてしまいそうになる自分がいる。昨夜、布団の中で感じた「足りない」が、今夜は最初からはっきりと形を持って胸の奥に座っていた。
ルーファウスは、彼女の反応を確かめながら動きを調整していく。息が詰まれば撫でる場所を変え、背中が反れば、そっと支え直す。決して急かさない。彼の呼吸も確かに荒くなっているのに、触れ方だけはどこまでも優しい。
だからこそ、みみの中で、ひとつの思いがどうしても消えなかった。
(このままずっと、「練習」のままでいるのは……)
彼の腕の中で、胸元をきゅっと掴む。唇を重ねられたまま、必死に息を整えながら、心の中で何度も迷う。
言うべきか。言わないべきか。
この境界線を越えたら、もう元には戻れない。秘書と副社長という線も、コスタでの甘い休暇の線も、その先へと変質してしまう。それを恐れていた自分が、確かに以前はいた。
でも――。
(もう、ここまで来てしまった)
何年も何年も、日記の中で「会いたい」と書き続けてきた。彼が地下で眠れない夜を過ごしている間、海の見えるこのヴィラで、便箋の上に愛を積み重ねてきた。その先でようやく、彼から「愛してしまっていた」と言われた。
ここまで来て、まだ一線の手前で止まり続けるのは、自分のほうが不誠実なのではないか――そんな考えが、胸のどこかで静かに息をしていた。
「……ルー」
名前を呼ぶ声が、自分でも驚くほど掠れている。彼の舌がゆっくりと動きを緩め、唇がわずかに離れる。
「……ん?」
額を重ねた距離で、彼の息がかかる。薄暗がりに、青い瞳が光った。
言わなければ、と分かっているのに、喉が固まってしまう。代わりに身体が勝手に動いた。
彼の胸に置いていた手を、そっと上に滑らせる。シャツの布越しに感じる体温と筋肉の形を確かめながら、肩に手を回す。少しだけ身を起こし、今度はみみのほうから顔を寄せた。
唇が、彼の唇に触れる。
ほんの一瞬、彼の呼吸が止まった。
今まで、深いキスはいつもルーファウスからだった。受け止めることはあっても、みみから「求めた」のは、これが初めてだった。
自分でも信じられないほどの勇気だった。唇が触れた瞬間、頭の中で恥ずかしさが爆ぜる。心臓が喉から飛び出しそうになる。それでも、逃げなかった。重ねた唇をそっと押し当てるようにして、少しだけ長く触れている。
「……みみ」
驚きと、抑え込まれた熱が混じった声がすぐ近くで響いた。
唇が離れる。視界がふらつく。彼の目が、信じられないものを見るように見開かれている。その青の色が、いつもよりもずっと深く、強く見えた。
もう、言うしかなかった。
喉の奥に引っかかっていた言葉を、みみは勇気を振り絞って押し出す。
「……もう……」
声が震える。息が上ずる。逃げ道を探す視線を、彼の瞳がしっかりと受け止めていた。
「もう、るーの……ものになりたい……です……」
最後のほうは、ほとんど消え入るような囁きだった。自分の耳にさえかすかにしか届かないくらい小さな声。それでも、確かに言葉になって外に出た。
言ってしまった瞬間、世界がどこか遠のいたような感覚に襲われる。頭の中が真っ白になり、視界の端がじんじんと熱を帯びる。恥ずかしさと安堵と、覚悟とが全部一度に溢れてきて、胸の奥で渦を巻いた。
ほんの一瞬の静寂。
それを破ったのは、ルーファウスの荒い息だった。
「……」
彼は、目を閉じて一度深く息を吸い込み、それからゆっくり吐き出す。その動きの間に、彼の中で何かが決定的に変わっていくのが、腕の中の緊張から伝わってきた。
「今の言葉……撤回するなら、今のうちだ」
かろうじて残っている理性の名残のような問いかけ。
みみは、小さく首を振った。
「……しません」
喉は震えていたが、その一言だけははっきりしていた。
その返事を聞いた瞬間、ルーファウスの何かが切れた。
ぐっと強く抱き寄せられる。次の瞬間には、唇が重なっていた。さっきまでとは違う、激しさを含んだキスだった。
「っ……!」
息を吸う暇もないほど深く。啄む余裕すらなく、最初から完全に飲み込むような口づけ。舌が絡み、歯が触れ、唇の形が乱される。彼の呼吸が、明らかに掠れ、荒くなっている。
それでも、不思議と怖くはなかった。
彼の腕は、あくまで包むようにみみを抱いている。力は強いが、壊すためのものではない。自分を手放したくないと訴えるような、必死さを含んだ抱き方。その温度が、激しさの端々から伝わってきた。
「んっ……、ふ……」
甘い水音が、静かな寝室に溶けていく。今までよりもずっと、抑えの効かない音だった。みみ自身もそれを自覚して、顔が熱に焼けるように火照る。
ルーファウスの手が、服の内側から滑り上がる。背中から腰へ、そしてもう一度背中へ。さっきまで慎重だった動きが、ほんの僅かに荒くなっている。
裾を掴んでいた指先に力がこもる。布が持ち上げられ、腰回りの肌にひやりとした空気が触れる。続けて、柔らかな掌がそこに重なった。
「……っ!」
一気に体温が上がる。腰から背筋にかけて、ぞくりとした震えが走った。彼の指が触れるたびに、身体の芯の熱が強くなる。
布が乱れる。ルームウェアの裾が少しずつ捲れ上がり、夜の空気と、彼の手の温度が、今まで隠れていた場所へと流れ込んでいく。
「みみ」
名前を呼ぶ声が、ひどく低く、掠れている。
「本当に……後悔しないな?」
まだ、その問いを手放さない。彼の最後の理性が、そこにしがみついているのが分かる。
みみは息を整えながら、彼の胸元をぎゅっと掴んだ。近すぎて表情はよく見えない。それでも、彼の瞳がどれほど真剣かは、この数年で嫌というほど知っている。
「……しません」
震えながらも、もう一度同じ言葉を告げる。
「るーのものに……なりたいって、思ってますから……」
その瞬間、ルーファウスの指先から、かすかな震えが伝わった。
「……君は、本当に」
喉の奥でくぐもった笑いとも溜息ともつかない声が生まれる。
「俺の理性を、簡単に壊していく」
言葉と同時に、もう一度激しいキスが降ってきた。
ルームウェアの布が、肩から滑り落ちる。覆っていた生地が乱れ、その隙間から、彼の掌と体温が、みみのこれまで触れられたことのない場所へと静かに侵入していく。
その夜、コスタの小さなヴィラの寝室で、ふたりは初めて「練習」の先へと踏み出した。
外では変わらず波の音が続いている。けれど、その音に紛れるように、長い間押し殺されてきた想いと、確かめ合うぬくもりが、静かに重なり合っていった。
シャワーを終え、髪を乾かし、いつものルームウェアに身を包んで寝室へ戻る。その一連の流れは、ここ数日のうちにすっかり「ルーファウスと過ごす夜」の前奏のようなものになっていた。
ベッドサイドのランプだけが灯る薄暗い部屋で、先に横になっていたルーファウスが、いつものように片腕を広げる。
「おいで」
それだけの言葉に、胸の奥がじわりと熱くなる。昨夜の余韻がまだ身体のどこかに残っているのだと、みみは自覚せざるを得なかった。
布団の中に滑り込み、彼の腕の中に収まる。胸板の固さと、その奥にしっかりと刻まれる鼓動。その全てが、昨日よりもずっと近く、強く感じられる。
「今日は、どうだ」
耳元で落ちる声は、いつもどおり静かだ。
「昨日よりは、眠れそうか?」
「……分かりません」
口ぶりは同じでも、意味は少し違っていた。眠れない予感は、昨夜とは違う熱に由来している。
ルーファウスは、それ以上言葉を重ねなかった。代わりに、そっとみみの背中に手を回し、ゆっくりと円を描くように撫でる。肩から腰へ、腰から背中の上へと、服の上から何度も行き来する。
それだけで、肌の下がじんわりと熱を帯びていく。昨日、服の内側に触れられたときに走った火照りが、すぐに思い出されてしまう。背骨に沿って落とされた熱の軌跡が、内側からもう一度浮かび上がってくるようだった。
やがて、彼はいつものように、額に唇を落とした。
「おやすみの、練習だ」
冗談めかしてそう言いながら、眉間、こめかみ、頬とキスを移動させていく。その流れの最後に、当たり前のように唇が重なる。
「……ん」
最初は短く。触れて、離れて、また触れる。それだけなら、もう驚くことはない。だが、今夜は最初から甘さの濃度が違っていた。
唇が深く押し当てられ、形を確かめるようにゆっくりと動く。ほんの少し息を吸おうと口を開いた瞬間、舌が静かに侵入してくる。何度も繰り返してきた深いキスのはずなのに、身体の奥で広がる熱は、昨夜よりもずっと強かった。
「……っ、ふ……」
舌と舌が触れ合うたび、胸の奥から甘い痺れが広がる。頭がぼんやりして、彼の腕の中に力なく沈んでいく。昨日、服の内側に触れられた感覚まで一緒に蘇ってきて、息がうまくできなくなる。
ルーファウスの手がそっと服の裾に触れ、確かめるように内側へと滑り込む。昨日と同じように、背中を、腰を、胸の下あたりをゆっくり撫でていく。その動きは慎重で、乱暴さはひとつもないのに、触れられたところから熱が一気に広がる。
「ぁ……」
喉の奥から小さな声が漏れた。自分で自分の声に驚き、反射的に口元を押さえようとする。けれど、その手はルーファウスに優しく掴まれ、布団の上へと戻される。
「隠さなくていい」
耳元で落ちる掠れた声。
「君がどう感じているか、ちゃんと知っていたい」
そんなことを言われてしまえば、ますます声を抑えられなくなる。
背中をなぞる指先が、ゆっくりと下へ降りて腰を包む。服越しに何度も触れられて慣れたはずの場所なのに、素肌に直接触れられるだけで、まるで別の場所のように敏感になる。
「……っ、ん……」
膝から力が抜け、腰がふわりと浮いたような感覚がする。身体の奥が、どうしようもなくじりじりと疼いた。
(どうして……こんな……)
彼の手が触れるたびに、「もっと」と身を預けてしまいそうになる自分がいる。昨夜、布団の中で感じた「足りない」が、今夜は最初からはっきりと形を持って胸の奥に座っていた。
ルーファウスは、彼女の反応を確かめながら動きを調整していく。息が詰まれば撫でる場所を変え、背中が反れば、そっと支え直す。決して急かさない。彼の呼吸も確かに荒くなっているのに、触れ方だけはどこまでも優しい。
だからこそ、みみの中で、ひとつの思いがどうしても消えなかった。
(このままずっと、「練習」のままでいるのは……)
彼の腕の中で、胸元をきゅっと掴む。唇を重ねられたまま、必死に息を整えながら、心の中で何度も迷う。
言うべきか。言わないべきか。
この境界線を越えたら、もう元には戻れない。秘書と副社長という線も、コスタでの甘い休暇の線も、その先へと変質してしまう。それを恐れていた自分が、確かに以前はいた。
でも――。
(もう、ここまで来てしまった)
何年も何年も、日記の中で「会いたい」と書き続けてきた。彼が地下で眠れない夜を過ごしている間、海の見えるこのヴィラで、便箋の上に愛を積み重ねてきた。その先でようやく、彼から「愛してしまっていた」と言われた。
ここまで来て、まだ一線の手前で止まり続けるのは、自分のほうが不誠実なのではないか――そんな考えが、胸のどこかで静かに息をしていた。
「……ルー」
名前を呼ぶ声が、自分でも驚くほど掠れている。彼の舌がゆっくりと動きを緩め、唇がわずかに離れる。
「……ん?」
額を重ねた距離で、彼の息がかかる。薄暗がりに、青い瞳が光った。
言わなければ、と分かっているのに、喉が固まってしまう。代わりに身体が勝手に動いた。
彼の胸に置いていた手を、そっと上に滑らせる。シャツの布越しに感じる体温と筋肉の形を確かめながら、肩に手を回す。少しだけ身を起こし、今度はみみのほうから顔を寄せた。
唇が、彼の唇に触れる。
ほんの一瞬、彼の呼吸が止まった。
今まで、深いキスはいつもルーファウスからだった。受け止めることはあっても、みみから「求めた」のは、これが初めてだった。
自分でも信じられないほどの勇気だった。唇が触れた瞬間、頭の中で恥ずかしさが爆ぜる。心臓が喉から飛び出しそうになる。それでも、逃げなかった。重ねた唇をそっと押し当てるようにして、少しだけ長く触れている。
「……みみ」
驚きと、抑え込まれた熱が混じった声がすぐ近くで響いた。
唇が離れる。視界がふらつく。彼の目が、信じられないものを見るように見開かれている。その青の色が、いつもよりもずっと深く、強く見えた。
もう、言うしかなかった。
喉の奥に引っかかっていた言葉を、みみは勇気を振り絞って押し出す。
「……もう……」
声が震える。息が上ずる。逃げ道を探す視線を、彼の瞳がしっかりと受け止めていた。
「もう、るーの……ものになりたい……です……」
最後のほうは、ほとんど消え入るような囁きだった。自分の耳にさえかすかにしか届かないくらい小さな声。それでも、確かに言葉になって外に出た。
言ってしまった瞬間、世界がどこか遠のいたような感覚に襲われる。頭の中が真っ白になり、視界の端がじんじんと熱を帯びる。恥ずかしさと安堵と、覚悟とが全部一度に溢れてきて、胸の奥で渦を巻いた。
ほんの一瞬の静寂。
それを破ったのは、ルーファウスの荒い息だった。
「……」
彼は、目を閉じて一度深く息を吸い込み、それからゆっくり吐き出す。その動きの間に、彼の中で何かが決定的に変わっていくのが、腕の中の緊張から伝わってきた。
「今の言葉……撤回するなら、今のうちだ」
かろうじて残っている理性の名残のような問いかけ。
みみは、小さく首を振った。
「……しません」
喉は震えていたが、その一言だけははっきりしていた。
その返事を聞いた瞬間、ルーファウスの何かが切れた。
ぐっと強く抱き寄せられる。次の瞬間には、唇が重なっていた。さっきまでとは違う、激しさを含んだキスだった。
「っ……!」
息を吸う暇もないほど深く。啄む余裕すらなく、最初から完全に飲み込むような口づけ。舌が絡み、歯が触れ、唇の形が乱される。彼の呼吸が、明らかに掠れ、荒くなっている。
それでも、不思議と怖くはなかった。
彼の腕は、あくまで包むようにみみを抱いている。力は強いが、壊すためのものではない。自分を手放したくないと訴えるような、必死さを含んだ抱き方。その温度が、激しさの端々から伝わってきた。
「んっ……、ふ……」
甘い水音が、静かな寝室に溶けていく。今までよりもずっと、抑えの効かない音だった。みみ自身もそれを自覚して、顔が熱に焼けるように火照る。
ルーファウスの手が、服の内側から滑り上がる。背中から腰へ、そしてもう一度背中へ。さっきまで慎重だった動きが、ほんの僅かに荒くなっている。
裾を掴んでいた指先に力がこもる。布が持ち上げられ、腰回りの肌にひやりとした空気が触れる。続けて、柔らかな掌がそこに重なった。
「……っ!」
一気に体温が上がる。腰から背筋にかけて、ぞくりとした震えが走った。彼の指が触れるたびに、身体の芯の熱が強くなる。
布が乱れる。ルームウェアの裾が少しずつ捲れ上がり、夜の空気と、彼の手の温度が、今まで隠れていた場所へと流れ込んでいく。
「みみ」
名前を呼ぶ声が、ひどく低く、掠れている。
「本当に……後悔しないな?」
まだ、その問いを手放さない。彼の最後の理性が、そこにしがみついているのが分かる。
みみは息を整えながら、彼の胸元をぎゅっと掴んだ。近すぎて表情はよく見えない。それでも、彼の瞳がどれほど真剣かは、この数年で嫌というほど知っている。
「……しません」
震えながらも、もう一度同じ言葉を告げる。
「るーのものに……なりたいって、思ってますから……」
その瞬間、ルーファウスの指先から、かすかな震えが伝わった。
「……君は、本当に」
喉の奥でくぐもった笑いとも溜息ともつかない声が生まれる。
「俺の理性を、簡単に壊していく」
言葉と同時に、もう一度激しいキスが降ってきた。
ルームウェアの布が、肩から滑り落ちる。覆っていた生地が乱れ、その隙間から、彼の掌と体温が、みみのこれまで触れられたことのない場所へと静かに侵入していく。
その夜、コスタの小さなヴィラの寝室で、ふたりは初めて「練習」の先へと踏み出した。
外では変わらず波の音が続いている。けれど、その音に紛れるように、長い間押し殺されてきた想いと、確かめ合うぬくもりが、静かに重なり合っていった。