34
ルーファウスは、腕の中でゆっくりと熱に溺れていくみみの表情から、しばらく目を離せなかった。
暗がりの中で、彼女の頬は桜色に染まり、うるんだ瞳が何度もか細く瞬く。乱れた呼吸が唇の端から漏れるたび、肩が小さく震える。その一つひとつが、彼の中の何かを容赦なく煽っていく。
「……みみ」
名前を呼ぶ声も、もういつもの落ち着いたものではなかった。喉の奥に熱を抱えた、掠れた低音。
彼女の肩から滑り落ちたルームウェアの布を指で少しだけ整えながら、その上からそっと胸元に触れる。昨夜までは背中と腰までにとどめていた手が、初めて踏み込む領域だった。
下着越しに、柔らかな膨らみの形が掌に伝わる。
その瞬間、みみの細い身体がぴくりと反応した。
「……っ」
言葉にならない息が漏れる。彼女の手がシーツをぎゅっと掴む。ルーファウスは、その反応を逃さぬように目を細めた。
決して乱暴には触れない。指先で押し潰すようなことも、扱うようなこともしない。ただ、掌を通してそこにある柔らかさを、静かに確かめるだけだった。布と肌の境目を、ためらいがちになぞる。下着の縁と、素肌との温度差を確かめるように。
「……っ、ん……」
胸そのものが「鋭く快感を飛ばしてくる」という感じではないのだと、ルーファウスはすぐに悟る。そこに触れたことで、彼女の身体の奥から直接、電流のようなものが走るわけではない。ただ、じわじわと浸透するような、くすぐったさとも違うざわめきが広がっていくだけだ。
それでも、みみの反応はあまりにも素直だった。
「ごめんなさい……変、かも、しれないんですけど……」
息を乱しながら、彼女は胸の前で自分の指を絡めるようにして、小さく呟く。
「そこ……あんまり、よく分からなくて……でも……」
肩をすくめ、真っ赤な顔のまま続ける。
「誰にも……触れられたこと、ないところだから……ルーが触ってるって、それだけで……」
最後まで言い切る前に、喉がつまって途切れた。
ルーファウスの胸の奥で、何かがきゅっと鳴る。
快感そのものよりも、「初めてそこに触れる相手が彼である」という事実のほうが、みみの中では重く響いている——それが、痛いほど伝わってきた。
「……そうか」
短く返事をする声が、どこまでも低い。
「なら、今はそれでいい」
彼は掌にこもりそうになる力を、意識して抜いた。欲望のままに貪りたい衝動は確かにある。それでも、彼女の言葉が、彼を寸前のところで踏みとどまらせる。
「誰にも触れられたことがない場所に、今こうして触れているのが俺だと、君がちゃんと感じているなら」
耳元に、熱を含んだ囁きが落ちた。
「それだけで、今は十分すぎるくらいだ」
みみの喉が、きゅっと鳴る。胸の奥に広がるざわめきは、その言葉を聞いた瞬間、別の色を帯びた。
自分の身体の秘密を、ひとつずつ確かめるように触れているのが、この男であること。そこに罪悪感ではなく、誇らしさに似た感情が混ざっていることに、彼女は気づいてしまう。
「……ルー」
震える声で名前を呼ぶと、ルーファウスは腕に力を込めて、彼女をもう一度しっかりと抱き寄せた。
「全部、俺に教えてくれ」
低く落とされたその一言は、届く場所を間違えずに、まっすぐみみの心に突き刺さる。
「君の身体がどこに触れられたくて、どこがどうされるのが嫌で、どこが『分からないけど気持ちいい』のか。全部」
唇が、再びみみの唇に重なった。さっきよりも、少しだけ丁寧に。甘さと熱に溺れさせるための、長い口づけ。
彼女は目を閉じ、そこにすべてを預ける。
胸そのものがどれほど敏感かは、まだ自分でもよく分からない。けれど、「誰にも触れられたことのない場所」を、初めて知ってゆくこの手に委ねることだけは、確かに気持ちよかった。
その夜、みみの身体が覚えたのは、ひとつの快楽そのものではなく、「自分の秘密を預けられる相手がいる」という、もっと深いところの温度だった。
---
ルーファウスは、胸元に置いていた手をゆっくりと離し、そのまま薄い腹部へと滑らせた。
指先が布の上からお腹の起伏をなぞるだけで、みみの呼吸がわずかに跳ねる。腹筋の力が抜け、身体が自然と彼のほうへと寄ってくる。その反応を確かめるように、彼は一度動きを止め、彼女の顔を覗き込んだ。
暗がりの中で、みみはすっかり熱に溺れた表情をしていた。潤んだ瞳は、逃げることも拒むこともなく、ただ彼の手の動きを追っている。その視線に、喉の奥がひりつく。
(……このまま、抱き潰してしまいそうだ)
衝動が込み上げるのを、奥歯を噛みしめて抑える。彼女の反応は、煽るためのものではない。ただ、素直に「感じている」だけだ。それを踏みにじるような真似は、決してしたくなかった。
「……嫌なら、言え」
低く念を押すと、みみは小さく首を振る。
「……嫌、じゃ……ない、です……」
途切れ途切れの返事。それだけで十分だった。
ルーファウスは、腹部からさらに下へと手を進める。太ももの付け根にかかるところで、一度指を止め、焦らすように円を描く。内腿をなぞる指先は、意図的に中心を外し、じれったいほどゆっくりと動いた。
「……っ、る……」
みみの声が、甘く揺れる。
下着の縁に指がかかり、布と肌の境目をなぞる。直接触れないまま、何度も何度もそのラインを往復するたび、彼女の腰が小さく跳ねるのが分かった。
「落ち着け……」
自分に言い聞かせるように呟きながら、それでも指は止まらない。彼女が「待てない」身体になりつつあることを、確かに感じ取っていた。
そして、十分に焦らしたあとで、ようやく指先が目的の場所に触れる。
下着越しに、わずかな突起に触れた瞬間、みみの身体がびくりと強く震えた。
「……っ、あ……!」
思わず漏れた声は、隠しきれないほど甘く、あられもない響きを帯びていた。自分でも驚いたのか、みみは咄嗟に口元を押さえようとするが、すでに遅い。
ルーファウスの瞳が、深く細められる。
(……やはり)
初めての刺激に、戸惑いと快感が一気に押し寄せている。怖がっている様子はない。むしろ、その未知の感覚を、身体が必死に受け止めようとしているのがはっきりと伝わってくる。
「大丈夫だ……力、抜け」
そう囁きながら、指先でそっと突起を撫でる。すり、と円を描くように動かすだけで、みみの喉から小さな声が零れ落ちた。
「ん……っ、ぁ……」
腰が無意識にくねり、彼の指を追いかけるように身体が動く。その反応に、ルーファウスの呼吸がさらに荒くなる。
撫でる動きを少しだけ強め、今度は指先で軽く押す。くり、と摘むように触れると、みみははっきりと身を跳ねさせた。
「……っ、あ……! る……っ」
声を抑えきれず、喉が震える。刺激が入るたびに、腰がくねり、太ももが擦れ合う。その一連の反応が、彼女の敏感さを雄弁に物語っていた。
「……本当に」
ルーファウスは低く息を吐く。
「素直すぎるだろ、君は……」
責める響きはなく、むしろ愛おしさと困惑が混じった声だった。指先で再び、すりすりと突起を撫で、時折くりくりと摘む。そのたびに、みみは小さく、しかし確かに快感に揺れる声を上げる。
「……っ、からだ……勝手に……」
羞恥と戸惑いに震える言葉が、かろうじて形になる。
「それでいい」
即答だった。
「今は、考えなくていい。君の身体がどう反応するか、俺がちゃんと見ている」
彼はそう言って、彼女を抱く腕に力を込める。抱きしめる力は強いが、決して逃げ場を奪うものではない。安心させるための、確かな支えだった。
その腕の中で、みみは初めて知る感覚に翻弄されながらも、確かに「受け入れ始めて」いた。
未知の気持ちよさと、触れているのがこの人だという事実。
その両方が絡み合い、彼女の中でゆっくりと、しかし確実に、新しい扉が開いていくのを、ルーファウスは逃さず見つめていた。
---
ルーファウスは一度、深く息を吸った。
衝動のままに動いてしまえば簡単だと、嫌というほど分かっている。けれど、彼女のすべてが初めてであること、その一歩一歩を自分の手で確かめながら進ませたいという思いが、ぎりぎりで彼を踏みとどまらせていた。
「……いいな」
確認する声は低く、静かだった。
みみは、もう言葉を探す余裕もないまま、こくりと頷く。潤んだ瞳が揺れ、その仕草だけで答えは十分だった。
ルーファウスはゆっくりと、彼女の下着に指をかける。急がず、逃げ道を塞がないように、布を少しずつずらしていく。そのたびに、熱を帯びた肌が夜の空気にさらされ、みみの身体が小さく震えた。
最後に、布が完全に外れる。
視界に入ったその場所は、触れる前からはっきりと熱を主張していた。近づけただけで分かるほど、火傷しそうなほどの体温。彼女自身も知らなかった変化が、そこに確かにあった。
「……熱いな」
そう呟きながら、ルーファウスは指先でそっと触れる。
直接触れた瞬間、みみの身体が大きく跳ねた。
「……っ、ぁ……!」
声が弾けるように漏れ、腰が無意識に逃げようとする。それを追いかけるように、彼は指を離さない。逃がさないが、捕まえすぎない。あくまで、彼女の反応を確かめるための触れ方だった。
突起に指先を当て、今度は少しだけ強さを変える。捏ねるように、円を描くように、時折指で挟んで、ぐに、と揺らす。
「ぁ……あっ……る……っ」
絶え間なく零れ落ちる甘い声。喉の奥で押し殺そうとしても、どうしても隠しきれない。刺激を与えるたびに、みみの腰が跳ね、太ももが擦れ合い、身体全体が彼の指を追いかけてしまう。
「……っ、からだ……へん、です……」
縋るように、みみはルーファウスの胸元に手を伸ばす。指先でシャツを掴み、離れまいと必死にしがみつく。その様子に、彼の喉がごくりと鳴った。
「変じゃない」
低く、はっきりと言い切る。
「ちゃんと……感じているだけだ」
言葉と同時に、もう一度、指で挟んで揺らす。くり、と軽く摘むように触れただけで、みみの声はさらに高くなった。
「ぁ……っ、あ……っ!」
身体が追いつかず、力が抜けて彼の胸に崩れ落ちる。縋りつく腕に、ぎゅっと力がこもる。
ルーファウスはその背中をしっかりと支えながら、動きを止めない。彼女が溺れていく表情から目を逸らせず、同時に、これ以上進めば戻れなくなることもはっきりと理解していた。
(……それでも)
彼女が、自分にすがりついている。
その事実だけで、理性はもう限界に近かった。
「……みみ」
名前を呼ぶ声が、ひどく掠れる。
「そんな顔で、そんな声で……縋られたらな……」
言葉の続きを飲み込み、彼は彼女の額に額を押し当てる。指先はまだ、熱を持った場所に触れたまま。止めるつもりはなかった。ただ、次に進む前に、ほんの一瞬だけ呼吸を整えた。
みみは、彼の胸に顔を埋めたまま、震える声で答える。
「……るー……」
その一声が、十分すぎるほどの答えだった。
ルーファウスは、彼女を支える腕に力を込め、もう一度、ゆっくりと指を動かす。今度は、逃げ場を与えない代わりに、必ず受け止めるという覚悟を込めて。
コスタの夜は静かで、波の音だけが続いている。
その中で、みみは初めて知る熱に身を委ね、ルーファウスはそのすべてを逃さぬように、ただひたすら彼女だけを見つめていた。
---
指先で触れ続けているうちに、みみの身体が、はっきりと変わり始めた。
最初は小さな震えだったものが、次第に大きくなり、やがて逃げるように身を捩り始める。腰が浮き、太ももが閉じようとして、無意識に刺激から遠ざかろうとする。
「……っ、や……ぁ……っ」
掠れた声が零れる。
「へん……なんか……へん、です……っ」
その声色に、ルーファウスはすぐに気付いた。恐怖でも拒絶でもない。快感が限界に近づいたときにだけ現れる、戸惑いと焦りが混じった響き。
(……来るな)
彼は指を止めなかった。ただし、動きを少しだけ緩めながら、逃げようとする身体を腕でしっかりと抱き留める。
「大丈夫だ」
低く、落ち着いた声で言い聞かせるように囁く。
「逃げなくていい。今のは……そういう時だ」
みみの背中に回した腕に力を込め、彼女が安心して身を預けられるように支える。捩る動きが次第に小さくなり、代わりに全身が細かく震え始める。
「……っ、る……」
涙の滲んだ声で名前を呼ばれる。
ルーファウスは彼女の耳元に顔を寄せ、わざとゆっくりと息を吹きかけた。そのまま、耳の輪郭に舌を這わせる。
「こういう時はな」
低く囁きながら、耳元で言葉を落とす。
「『イく』って言うんだ。隠さなくていい」
その言葉と、耳をなぞる感触が重なった瞬間、みみの身体がびくりと大きく跳ねた。
「……っ、あ……」
息が詰まり、喉が震える。もう抑えきれないのが、自分でも分かっているようだった。
「……い……」
必死に呼吸を整えようとするが、身体は言うことを聞かない。ルーファウスの腕の中で、震えがどんどん強くなっていく。
「……い、いき……」
最後の一線を越えるのが怖いのか、声が裏返る。けれど、彼の腕がしっかりと支えていることが、確かな安心として伝わっていた。
「大丈夫だ」
もう一度、耳元で囁かれる。
その瞬間、みみは観念したように、彼に縋りついた。
「あ……っ、い……いきます……っ」
震える声が、はっきりと形になる。
「……イきます……っ」
告げた瞬間、身体の奥で張り詰めていたものが一気に弾けた。
「……ぁ……っ!」
声にならない声が溢れ、全身が大きく震える。腰が跳ね、指先が痙攣するようにシーツを掴む。初めて味わう感覚に、思考が一瞬、真っ白になった。
ルーファウスは、彼女が崩れ落ちないように、しっかりと抱き締める。動きは止め、ただその震えが収まるまで、腕の中に閉じ込めた。
「……そうだ」
低く、静かな声。
「よく言えた」
みみは彼の胸に顔を埋めたまま、荒い息を繰り返していた。身体はまだ小さく震えているが、その震えの質は、先ほどまでとは違う。波が引いていくような、余韻を含んだ揺れ。
「……る……」
名前を呼ぶ声は、もうかすれきった囁きだった。
ルーファウスは、彼女の髪に顔を埋め、ゆっくりと呼吸を合わせる。初めての絶頂を迎えた彼女を、ただ大切に抱いたまま。
その夜、みみは「未知の快感」だけでなく、「それを受け止めてくれる腕がある」という確かな安心を、身体ごと覚え込んでいた。
---
ルーファウスは、彼女の震えが完全に収まるのを待たなかった。
ただし、動きは先ほどよりもずっと穏やかで、確かめるようだった。身体が覚えた感覚を、忘れさせないために撫でる――そんな触れ方。
みみの身体は、達した直後とは思えないほど正直だった。ほんの少し触れられただけで、びくりと跳ね、息が乱れる。さっきまで受け止めていた刺激が、何倍にも膨らんで返ってくる。
「……っ、る……」
声にならない声が漏れる。拒もうとするより先に、身体が彼の手を求めてしまうのが、自分でも分かっていた。
「今は、敏感だ」
低く囁かれた言葉が、耳元で溶ける。
「無理なら、止める」
そう言われているのに、止めてほしいとは言えなかった。むしろ、その確認があるからこそ、みみは安心して身を預けてしまう。
彼の指先が、再び同じ場所をなぞる。さっきよりも軽く、しかし逃がさない。身体が覚え込んだ快感を呼び起こすように、ゆっくりと、執拗に。
「……ぁ……っ」
声が上がるのを、もう抑えられない。胸の奥がきゅっと締め付けられ、息が浅くなる。達したばかりで柔らかくなっている感覚が、重なって押し寄せてくる。
「……っ、だめ……」
そう言いながら、腕は彼に縋りついている。拒絶の言葉と、身体の動きが、まるで噛み合っていない。
「大丈夫」
ルーファウスの声は変わらず落ち着いている。
「さっき覚えたばかりだ。戸惑うのは、当たり前だ」
囁きとともに、触れ方がほんのわずかに変わる。その違いだけで、みみの身体は簡単に反応してしまう。
「……っ、る……」
喉の奥が震え、背中が大きく反る。先ほどよりも早く、熱が一気に込み上げてくるのが分かる。逃げ場を探すように身体を捩るが、彼の腕がそれをやさしく、しかし確かに受け止めていた。
「……言えるな」
耳元で囁かれ、みみははっと息を詰める。
「また……来る」
その一言で、身体の奥に溜まっていたものが一気に溢れそうになる。
「……っ、い……」
必死に呼吸を整えようとしても、もう間に合わない。さっきよりも、ずっと近く、ずっと強い。
「あ……っ、い……いきます……っ」
震える声が、今度は迷いなく告げる。
その瞬間、身体が大きく跳ね、熱が一気に弾けた。二度目の波は、最初よりも深く、長く、みみの中を通り抜けていく。
「……ぁ……」
声は細く、甘く、力なく溶けていった。
ルーファウスは、彼女が崩れ落ちる前にしっかりと抱き締める。もう触れることはせず、ただ、その余韻が静まるまで腕の中に閉じ込めた。
「……よく頑張ったな」
髪に口づけながら、そう囁く。
みみは彼の胸に顔を埋めたまま、何度も浅い呼吸を繰り返していた。身体はまだ熱を帯び、思考はまとまらない。それでも、不思議と不安はなかった。
ただ、彼の腕の中にいるという事実だけが、はっきりと心に残っていた。
その夜、みみの身体は「快感」だけでなく、「受け止めてもらえる安心」を、より深く覚え込んでいった。
暗がりの中で、彼女の頬は桜色に染まり、うるんだ瞳が何度もか細く瞬く。乱れた呼吸が唇の端から漏れるたび、肩が小さく震える。その一つひとつが、彼の中の何かを容赦なく煽っていく。
「……みみ」
名前を呼ぶ声も、もういつもの落ち着いたものではなかった。喉の奥に熱を抱えた、掠れた低音。
彼女の肩から滑り落ちたルームウェアの布を指で少しだけ整えながら、その上からそっと胸元に触れる。昨夜までは背中と腰までにとどめていた手が、初めて踏み込む領域だった。
下着越しに、柔らかな膨らみの形が掌に伝わる。
その瞬間、みみの細い身体がぴくりと反応した。
「……っ」
言葉にならない息が漏れる。彼女の手がシーツをぎゅっと掴む。ルーファウスは、その反応を逃さぬように目を細めた。
決して乱暴には触れない。指先で押し潰すようなことも、扱うようなこともしない。ただ、掌を通してそこにある柔らかさを、静かに確かめるだけだった。布と肌の境目を、ためらいがちになぞる。下着の縁と、素肌との温度差を確かめるように。
「……っ、ん……」
胸そのものが「鋭く快感を飛ばしてくる」という感じではないのだと、ルーファウスはすぐに悟る。そこに触れたことで、彼女の身体の奥から直接、電流のようなものが走るわけではない。ただ、じわじわと浸透するような、くすぐったさとも違うざわめきが広がっていくだけだ。
それでも、みみの反応はあまりにも素直だった。
「ごめんなさい……変、かも、しれないんですけど……」
息を乱しながら、彼女は胸の前で自分の指を絡めるようにして、小さく呟く。
「そこ……あんまり、よく分からなくて……でも……」
肩をすくめ、真っ赤な顔のまま続ける。
「誰にも……触れられたこと、ないところだから……ルーが触ってるって、それだけで……」
最後まで言い切る前に、喉がつまって途切れた。
ルーファウスの胸の奥で、何かがきゅっと鳴る。
快感そのものよりも、「初めてそこに触れる相手が彼である」という事実のほうが、みみの中では重く響いている——それが、痛いほど伝わってきた。
「……そうか」
短く返事をする声が、どこまでも低い。
「なら、今はそれでいい」
彼は掌にこもりそうになる力を、意識して抜いた。欲望のままに貪りたい衝動は確かにある。それでも、彼女の言葉が、彼を寸前のところで踏みとどまらせる。
「誰にも触れられたことがない場所に、今こうして触れているのが俺だと、君がちゃんと感じているなら」
耳元に、熱を含んだ囁きが落ちた。
「それだけで、今は十分すぎるくらいだ」
みみの喉が、きゅっと鳴る。胸の奥に広がるざわめきは、その言葉を聞いた瞬間、別の色を帯びた。
自分の身体の秘密を、ひとつずつ確かめるように触れているのが、この男であること。そこに罪悪感ではなく、誇らしさに似た感情が混ざっていることに、彼女は気づいてしまう。
「……ルー」
震える声で名前を呼ぶと、ルーファウスは腕に力を込めて、彼女をもう一度しっかりと抱き寄せた。
「全部、俺に教えてくれ」
低く落とされたその一言は、届く場所を間違えずに、まっすぐみみの心に突き刺さる。
「君の身体がどこに触れられたくて、どこがどうされるのが嫌で、どこが『分からないけど気持ちいい』のか。全部」
唇が、再びみみの唇に重なった。さっきよりも、少しだけ丁寧に。甘さと熱に溺れさせるための、長い口づけ。
彼女は目を閉じ、そこにすべてを預ける。
胸そのものがどれほど敏感かは、まだ自分でもよく分からない。けれど、「誰にも触れられたことのない場所」を、初めて知ってゆくこの手に委ねることだけは、確かに気持ちよかった。
その夜、みみの身体が覚えたのは、ひとつの快楽そのものではなく、「自分の秘密を預けられる相手がいる」という、もっと深いところの温度だった。
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ルーファウスは、胸元に置いていた手をゆっくりと離し、そのまま薄い腹部へと滑らせた。
指先が布の上からお腹の起伏をなぞるだけで、みみの呼吸がわずかに跳ねる。腹筋の力が抜け、身体が自然と彼のほうへと寄ってくる。その反応を確かめるように、彼は一度動きを止め、彼女の顔を覗き込んだ。
暗がりの中で、みみはすっかり熱に溺れた表情をしていた。潤んだ瞳は、逃げることも拒むこともなく、ただ彼の手の動きを追っている。その視線に、喉の奥がひりつく。
(……このまま、抱き潰してしまいそうだ)
衝動が込み上げるのを、奥歯を噛みしめて抑える。彼女の反応は、煽るためのものではない。ただ、素直に「感じている」だけだ。それを踏みにじるような真似は、決してしたくなかった。
「……嫌なら、言え」
低く念を押すと、みみは小さく首を振る。
「……嫌、じゃ……ない、です……」
途切れ途切れの返事。それだけで十分だった。
ルーファウスは、腹部からさらに下へと手を進める。太ももの付け根にかかるところで、一度指を止め、焦らすように円を描く。内腿をなぞる指先は、意図的に中心を外し、じれったいほどゆっくりと動いた。
「……っ、る……」
みみの声が、甘く揺れる。
下着の縁に指がかかり、布と肌の境目をなぞる。直接触れないまま、何度も何度もそのラインを往復するたび、彼女の腰が小さく跳ねるのが分かった。
「落ち着け……」
自分に言い聞かせるように呟きながら、それでも指は止まらない。彼女が「待てない」身体になりつつあることを、確かに感じ取っていた。
そして、十分に焦らしたあとで、ようやく指先が目的の場所に触れる。
下着越しに、わずかな突起に触れた瞬間、みみの身体がびくりと強く震えた。
「……っ、あ……!」
思わず漏れた声は、隠しきれないほど甘く、あられもない響きを帯びていた。自分でも驚いたのか、みみは咄嗟に口元を押さえようとするが、すでに遅い。
ルーファウスの瞳が、深く細められる。
(……やはり)
初めての刺激に、戸惑いと快感が一気に押し寄せている。怖がっている様子はない。むしろ、その未知の感覚を、身体が必死に受け止めようとしているのがはっきりと伝わってくる。
「大丈夫だ……力、抜け」
そう囁きながら、指先でそっと突起を撫でる。すり、と円を描くように動かすだけで、みみの喉から小さな声が零れ落ちた。
「ん……っ、ぁ……」
腰が無意識にくねり、彼の指を追いかけるように身体が動く。その反応に、ルーファウスの呼吸がさらに荒くなる。
撫でる動きを少しだけ強め、今度は指先で軽く押す。くり、と摘むように触れると、みみははっきりと身を跳ねさせた。
「……っ、あ……! る……っ」
声を抑えきれず、喉が震える。刺激が入るたびに、腰がくねり、太ももが擦れ合う。その一連の反応が、彼女の敏感さを雄弁に物語っていた。
「……本当に」
ルーファウスは低く息を吐く。
「素直すぎるだろ、君は……」
責める響きはなく、むしろ愛おしさと困惑が混じった声だった。指先で再び、すりすりと突起を撫で、時折くりくりと摘む。そのたびに、みみは小さく、しかし確かに快感に揺れる声を上げる。
「……っ、からだ……勝手に……」
羞恥と戸惑いに震える言葉が、かろうじて形になる。
「それでいい」
即答だった。
「今は、考えなくていい。君の身体がどう反応するか、俺がちゃんと見ている」
彼はそう言って、彼女を抱く腕に力を込める。抱きしめる力は強いが、決して逃げ場を奪うものではない。安心させるための、確かな支えだった。
その腕の中で、みみは初めて知る感覚に翻弄されながらも、確かに「受け入れ始めて」いた。
未知の気持ちよさと、触れているのがこの人だという事実。
その両方が絡み合い、彼女の中でゆっくりと、しかし確実に、新しい扉が開いていくのを、ルーファウスは逃さず見つめていた。
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ルーファウスは一度、深く息を吸った。
衝動のままに動いてしまえば簡単だと、嫌というほど分かっている。けれど、彼女のすべてが初めてであること、その一歩一歩を自分の手で確かめながら進ませたいという思いが、ぎりぎりで彼を踏みとどまらせていた。
「……いいな」
確認する声は低く、静かだった。
みみは、もう言葉を探す余裕もないまま、こくりと頷く。潤んだ瞳が揺れ、その仕草だけで答えは十分だった。
ルーファウスはゆっくりと、彼女の下着に指をかける。急がず、逃げ道を塞がないように、布を少しずつずらしていく。そのたびに、熱を帯びた肌が夜の空気にさらされ、みみの身体が小さく震えた。
最後に、布が完全に外れる。
視界に入ったその場所は、触れる前からはっきりと熱を主張していた。近づけただけで分かるほど、火傷しそうなほどの体温。彼女自身も知らなかった変化が、そこに確かにあった。
「……熱いな」
そう呟きながら、ルーファウスは指先でそっと触れる。
直接触れた瞬間、みみの身体が大きく跳ねた。
「……っ、ぁ……!」
声が弾けるように漏れ、腰が無意識に逃げようとする。それを追いかけるように、彼は指を離さない。逃がさないが、捕まえすぎない。あくまで、彼女の反応を確かめるための触れ方だった。
突起に指先を当て、今度は少しだけ強さを変える。捏ねるように、円を描くように、時折指で挟んで、ぐに、と揺らす。
「ぁ……あっ……る……っ」
絶え間なく零れ落ちる甘い声。喉の奥で押し殺そうとしても、どうしても隠しきれない。刺激を与えるたびに、みみの腰が跳ね、太ももが擦れ合い、身体全体が彼の指を追いかけてしまう。
「……っ、からだ……へん、です……」
縋るように、みみはルーファウスの胸元に手を伸ばす。指先でシャツを掴み、離れまいと必死にしがみつく。その様子に、彼の喉がごくりと鳴った。
「変じゃない」
低く、はっきりと言い切る。
「ちゃんと……感じているだけだ」
言葉と同時に、もう一度、指で挟んで揺らす。くり、と軽く摘むように触れただけで、みみの声はさらに高くなった。
「ぁ……っ、あ……っ!」
身体が追いつかず、力が抜けて彼の胸に崩れ落ちる。縋りつく腕に、ぎゅっと力がこもる。
ルーファウスはその背中をしっかりと支えながら、動きを止めない。彼女が溺れていく表情から目を逸らせず、同時に、これ以上進めば戻れなくなることもはっきりと理解していた。
(……それでも)
彼女が、自分にすがりついている。
その事実だけで、理性はもう限界に近かった。
「……みみ」
名前を呼ぶ声が、ひどく掠れる。
「そんな顔で、そんな声で……縋られたらな……」
言葉の続きを飲み込み、彼は彼女の額に額を押し当てる。指先はまだ、熱を持った場所に触れたまま。止めるつもりはなかった。ただ、次に進む前に、ほんの一瞬だけ呼吸を整えた。
みみは、彼の胸に顔を埋めたまま、震える声で答える。
「……るー……」
その一声が、十分すぎるほどの答えだった。
ルーファウスは、彼女を支える腕に力を込め、もう一度、ゆっくりと指を動かす。今度は、逃げ場を与えない代わりに、必ず受け止めるという覚悟を込めて。
コスタの夜は静かで、波の音だけが続いている。
その中で、みみは初めて知る熱に身を委ね、ルーファウスはそのすべてを逃さぬように、ただひたすら彼女だけを見つめていた。
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指先で触れ続けているうちに、みみの身体が、はっきりと変わり始めた。
最初は小さな震えだったものが、次第に大きくなり、やがて逃げるように身を捩り始める。腰が浮き、太ももが閉じようとして、無意識に刺激から遠ざかろうとする。
「……っ、や……ぁ……っ」
掠れた声が零れる。
「へん……なんか……へん、です……っ」
その声色に、ルーファウスはすぐに気付いた。恐怖でも拒絶でもない。快感が限界に近づいたときにだけ現れる、戸惑いと焦りが混じった響き。
(……来るな)
彼は指を止めなかった。ただし、動きを少しだけ緩めながら、逃げようとする身体を腕でしっかりと抱き留める。
「大丈夫だ」
低く、落ち着いた声で言い聞かせるように囁く。
「逃げなくていい。今のは……そういう時だ」
みみの背中に回した腕に力を込め、彼女が安心して身を預けられるように支える。捩る動きが次第に小さくなり、代わりに全身が細かく震え始める。
「……っ、る……」
涙の滲んだ声で名前を呼ばれる。
ルーファウスは彼女の耳元に顔を寄せ、わざとゆっくりと息を吹きかけた。そのまま、耳の輪郭に舌を這わせる。
「こういう時はな」
低く囁きながら、耳元で言葉を落とす。
「『イく』って言うんだ。隠さなくていい」
その言葉と、耳をなぞる感触が重なった瞬間、みみの身体がびくりと大きく跳ねた。
「……っ、あ……」
息が詰まり、喉が震える。もう抑えきれないのが、自分でも分かっているようだった。
「……い……」
必死に呼吸を整えようとするが、身体は言うことを聞かない。ルーファウスの腕の中で、震えがどんどん強くなっていく。
「……い、いき……」
最後の一線を越えるのが怖いのか、声が裏返る。けれど、彼の腕がしっかりと支えていることが、確かな安心として伝わっていた。
「大丈夫だ」
もう一度、耳元で囁かれる。
その瞬間、みみは観念したように、彼に縋りついた。
「あ……っ、い……いきます……っ」
震える声が、はっきりと形になる。
「……イきます……っ」
告げた瞬間、身体の奥で張り詰めていたものが一気に弾けた。
「……ぁ……っ!」
声にならない声が溢れ、全身が大きく震える。腰が跳ね、指先が痙攣するようにシーツを掴む。初めて味わう感覚に、思考が一瞬、真っ白になった。
ルーファウスは、彼女が崩れ落ちないように、しっかりと抱き締める。動きは止め、ただその震えが収まるまで、腕の中に閉じ込めた。
「……そうだ」
低く、静かな声。
「よく言えた」
みみは彼の胸に顔を埋めたまま、荒い息を繰り返していた。身体はまだ小さく震えているが、その震えの質は、先ほどまでとは違う。波が引いていくような、余韻を含んだ揺れ。
「……る……」
名前を呼ぶ声は、もうかすれきった囁きだった。
ルーファウスは、彼女の髪に顔を埋め、ゆっくりと呼吸を合わせる。初めての絶頂を迎えた彼女を、ただ大切に抱いたまま。
その夜、みみは「未知の快感」だけでなく、「それを受け止めてくれる腕がある」という確かな安心を、身体ごと覚え込んでいた。
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ルーファウスは、彼女の震えが完全に収まるのを待たなかった。
ただし、動きは先ほどよりもずっと穏やかで、確かめるようだった。身体が覚えた感覚を、忘れさせないために撫でる――そんな触れ方。
みみの身体は、達した直後とは思えないほど正直だった。ほんの少し触れられただけで、びくりと跳ね、息が乱れる。さっきまで受け止めていた刺激が、何倍にも膨らんで返ってくる。
「……っ、る……」
声にならない声が漏れる。拒もうとするより先に、身体が彼の手を求めてしまうのが、自分でも分かっていた。
「今は、敏感だ」
低く囁かれた言葉が、耳元で溶ける。
「無理なら、止める」
そう言われているのに、止めてほしいとは言えなかった。むしろ、その確認があるからこそ、みみは安心して身を預けてしまう。
彼の指先が、再び同じ場所をなぞる。さっきよりも軽く、しかし逃がさない。身体が覚え込んだ快感を呼び起こすように、ゆっくりと、執拗に。
「……ぁ……っ」
声が上がるのを、もう抑えられない。胸の奥がきゅっと締め付けられ、息が浅くなる。達したばかりで柔らかくなっている感覚が、重なって押し寄せてくる。
「……っ、だめ……」
そう言いながら、腕は彼に縋りついている。拒絶の言葉と、身体の動きが、まるで噛み合っていない。
「大丈夫」
ルーファウスの声は変わらず落ち着いている。
「さっき覚えたばかりだ。戸惑うのは、当たり前だ」
囁きとともに、触れ方がほんのわずかに変わる。その違いだけで、みみの身体は簡単に反応してしまう。
「……っ、る……」
喉の奥が震え、背中が大きく反る。先ほどよりも早く、熱が一気に込み上げてくるのが分かる。逃げ場を探すように身体を捩るが、彼の腕がそれをやさしく、しかし確かに受け止めていた。
「……言えるな」
耳元で囁かれ、みみははっと息を詰める。
「また……来る」
その一言で、身体の奥に溜まっていたものが一気に溢れそうになる。
「……っ、い……」
必死に呼吸を整えようとしても、もう間に合わない。さっきよりも、ずっと近く、ずっと強い。
「あ……っ、い……いきます……っ」
震える声が、今度は迷いなく告げる。
その瞬間、身体が大きく跳ね、熱が一気に弾けた。二度目の波は、最初よりも深く、長く、みみの中を通り抜けていく。
「……ぁ……」
声は細く、甘く、力なく溶けていった。
ルーファウスは、彼女が崩れ落ちる前にしっかりと抱き締める。もう触れることはせず、ただ、その余韻が静まるまで腕の中に閉じ込めた。
「……よく頑張ったな」
髪に口づけながら、そう囁く。
みみは彼の胸に顔を埋めたまま、何度も浅い呼吸を繰り返していた。身体はまだ熱を帯び、思考はまとまらない。それでも、不思議と不安はなかった。
ただ、彼の腕の中にいるという事実だけが、はっきりと心に残っていた。
その夜、みみの身体は「快感」だけでなく、「受け止めてもらえる安心」を、より深く覚え込んでいった。