38
みみがふと我に返ったのは、自分がどれだけ長いあいだルーファウスの膝の上にいたのか気付いた瞬間だった。
「……そろそろ、降りますね」
胸のあたりをそっと押し、腰を浮かせようとする。ところが、その細い腰を支えている腕は、びくともしなかった。
「誰が許可した?」
耳元に落ちた低い声に、みみはぴたりと動きを止める。
「い、今……言いました……」
「却下だ」
あっさりと返される。くす、と笑う気配と同時に、大きな手が背中を撫でおりていった。肩甲骨のあたりから、ウエストのくびれ、さらに腰のラインへと、服越しにゆっくりと。
「ひゃ……」
思わず変な声が漏れ、みみは慌てて口元を押さえる。にもかかわらず、ルーファウスはお構いなしに指先を滑らせ続けた。背中から腰にかけて描く緩やかなラインを、何度も確かめるようになぞり、そのまま太ももの外側へと手を移していく。
膝の上で少しだけずらされた体重が、そのまま彼の体温に沈んでいく。太ももを包むように添えられた手のひらは、決して乱暴ではないのに、妙に意識をさらっていった。
「る、ルー……?」
抗議とも戸惑いともつかない声で名前を呼ぶより早く、顔が近づいてくる。視界いっぱいに彼の青い瞳が迫り、みみは条件反射のように息を呑んだ。
次の瞬間、唇が重なる。
触れただけで終わるはずもなく、最初から深さを含んだキスだった。上下の唇をゆっくりと噛み、形を確かめるように何度も角度を変える。舌先でそっと触れられるたび、背中を撫でていた手が少しだけ強く太ももを抱いてくる。
「……っ」
胸の奥がきゅっと縮まり、指先に力が入る。彼のシャツをぎゅっと掴まないと、膝から滑り落ちてしまいそうだった。
以前なら、驚きや緊張のほうが勝っていた。けれど今は違う。ルーファウスのキスに触れた瞬間、身体のほうが先に「知っている」ように力を抜く。呼吸の仕方も、舌の絡め方も、彼と時間をかけて覚えてきた「心地よさ」に勝手に従ってしまう。
(……また、頭が真っ白に……)
そんな自覚がどこかに浮かんでは、すぐに溶ける。
唇が離れたほんの短い合間に、みみはとろんとした目で彼を見上げた。自分でも、どんな顔をしているのか分からない。ただ、胸のあたりが熱くて、視界の端がかすかに滲んでいる。
ルーファウスは、その表情を真正面から見ていた。
青い瞳に映るのは、彼の膝の上で息を乱し、唇を濡らし、名前を呼んでくる女——どこか夢見心地で彼にしがみつきながらも、逃げる気配などかけらもない、今の彼だけのみみだった。
喉がひくりと鳴る。
「……本当に」
掠れた声が低く漏れる。
「キスだけで、ここまで蕩けるようになったな」
「な、なりません……」
抗議しようとした言葉は、次の口づけにすぐ塞がれた。今度は先ほどよりも短いが、そのぶん熱がこもっている。啄ばまれ、押し当てられ、舌を絡められて、みみの肩から力が抜けていく。
「……っ、ルー……」
名前を呼ぶ声も、すっかり甘く変わってしまっている。自分では抑えているつもりでも、彼の耳にはすべて届いていた。
背中を撫でていた手が、太ももの外側をゆっくりとなぞる。ひざのあたりまで降りていき、今度は内側へ指を滑らせた。布の上から触れているだけなのに、その軌跡を追うように、みみの身体が小さく震える。
「や……」
かすれた声が漏れる。嫌というより、くすぐったくてたまらないような響きだった。
ルーファウスは、その反応にあからさまに煽られた。
「その声は反則だぞ」
冗談めかした言い方なのに、声音の奥にある熱は隠しきれていない。膝の上の彼女が少し動くだけでも、さっきまでの嫉妬話とは違う種類の「理性の試練」が押し寄せてくる。
膝にかかる重さ、首に回された腕、近すぎる距離で揺れる睫毛。触れれば簡単にほどけてしまうのに、自分にだけこんな顔を見せてくる。
(……本当に、よくもまあ)
ここまで人間一人を「煽ってくる」ものだと、自分の胸の内で苦笑する。
みみは、そんな彼の葛藤など知らないまま、次のキスにまたあっさりと溺れていく。唇を重ねられるたび、喉の奥から小さな声が漏れ、握ったシャツの裾に力を込める。
「……ルー……」
甘く擦れた声で名前を呼ばれ、ルーファウスは小さく息を呑んだ。
「……膝から降りる話は、もうしばらくなしだな」
耳元で低く囁くと、みみは反射的に肩をすくめる。
「……もともと、降ろすつもりない顔してました」
「よく分かっているじゃないか」
彼は愉快そうに目を細めると、またひとつ、彼女の額にキスを落とした。
そのまま背中を撫で、太ももに添えた手に力をこめて、彼女を膝の上にしっかりと抱え込む。
彼の膝の上——それは今や、どこよりもみみが蕩けやすく、そしてどこよりもルーファウスの独占欲を刺激する、危険な特等席になっていた。
「……そろそろ、降りますね」
胸のあたりをそっと押し、腰を浮かせようとする。ところが、その細い腰を支えている腕は、びくともしなかった。
「誰が許可した?」
耳元に落ちた低い声に、みみはぴたりと動きを止める。
「い、今……言いました……」
「却下だ」
あっさりと返される。くす、と笑う気配と同時に、大きな手が背中を撫でおりていった。肩甲骨のあたりから、ウエストのくびれ、さらに腰のラインへと、服越しにゆっくりと。
「ひゃ……」
思わず変な声が漏れ、みみは慌てて口元を押さえる。にもかかわらず、ルーファウスはお構いなしに指先を滑らせ続けた。背中から腰にかけて描く緩やかなラインを、何度も確かめるようになぞり、そのまま太ももの外側へと手を移していく。
膝の上で少しだけずらされた体重が、そのまま彼の体温に沈んでいく。太ももを包むように添えられた手のひらは、決して乱暴ではないのに、妙に意識をさらっていった。
「る、ルー……?」
抗議とも戸惑いともつかない声で名前を呼ぶより早く、顔が近づいてくる。視界いっぱいに彼の青い瞳が迫り、みみは条件反射のように息を呑んだ。
次の瞬間、唇が重なる。
触れただけで終わるはずもなく、最初から深さを含んだキスだった。上下の唇をゆっくりと噛み、形を確かめるように何度も角度を変える。舌先でそっと触れられるたび、背中を撫でていた手が少しだけ強く太ももを抱いてくる。
「……っ」
胸の奥がきゅっと縮まり、指先に力が入る。彼のシャツをぎゅっと掴まないと、膝から滑り落ちてしまいそうだった。
以前なら、驚きや緊張のほうが勝っていた。けれど今は違う。ルーファウスのキスに触れた瞬間、身体のほうが先に「知っている」ように力を抜く。呼吸の仕方も、舌の絡め方も、彼と時間をかけて覚えてきた「心地よさ」に勝手に従ってしまう。
(……また、頭が真っ白に……)
そんな自覚がどこかに浮かんでは、すぐに溶ける。
唇が離れたほんの短い合間に、みみはとろんとした目で彼を見上げた。自分でも、どんな顔をしているのか分からない。ただ、胸のあたりが熱くて、視界の端がかすかに滲んでいる。
ルーファウスは、その表情を真正面から見ていた。
青い瞳に映るのは、彼の膝の上で息を乱し、唇を濡らし、名前を呼んでくる女——どこか夢見心地で彼にしがみつきながらも、逃げる気配などかけらもない、今の彼だけのみみだった。
喉がひくりと鳴る。
「……本当に」
掠れた声が低く漏れる。
「キスだけで、ここまで蕩けるようになったな」
「な、なりません……」
抗議しようとした言葉は、次の口づけにすぐ塞がれた。今度は先ほどよりも短いが、そのぶん熱がこもっている。啄ばまれ、押し当てられ、舌を絡められて、みみの肩から力が抜けていく。
「……っ、ルー……」
名前を呼ぶ声も、すっかり甘く変わってしまっている。自分では抑えているつもりでも、彼の耳にはすべて届いていた。
背中を撫でていた手が、太ももの外側をゆっくりとなぞる。ひざのあたりまで降りていき、今度は内側へ指を滑らせた。布の上から触れているだけなのに、その軌跡を追うように、みみの身体が小さく震える。
「や……」
かすれた声が漏れる。嫌というより、くすぐったくてたまらないような響きだった。
ルーファウスは、その反応にあからさまに煽られた。
「その声は反則だぞ」
冗談めかした言い方なのに、声音の奥にある熱は隠しきれていない。膝の上の彼女が少し動くだけでも、さっきまでの嫉妬話とは違う種類の「理性の試練」が押し寄せてくる。
膝にかかる重さ、首に回された腕、近すぎる距離で揺れる睫毛。触れれば簡単にほどけてしまうのに、自分にだけこんな顔を見せてくる。
(……本当に、よくもまあ)
ここまで人間一人を「煽ってくる」ものだと、自分の胸の内で苦笑する。
みみは、そんな彼の葛藤など知らないまま、次のキスにまたあっさりと溺れていく。唇を重ねられるたび、喉の奥から小さな声が漏れ、握ったシャツの裾に力を込める。
「……ルー……」
甘く擦れた声で名前を呼ばれ、ルーファウスは小さく息を呑んだ。
「……膝から降りる話は、もうしばらくなしだな」
耳元で低く囁くと、みみは反射的に肩をすくめる。
「……もともと、降ろすつもりない顔してました」
「よく分かっているじゃないか」
彼は愉快そうに目を細めると、またひとつ、彼女の額にキスを落とした。
そのまま背中を撫で、太ももに添えた手に力をこめて、彼女を膝の上にしっかりと抱え込む。
彼の膝の上——それは今や、どこよりもみみが蕩けやすく、そしてどこよりもルーファウスの独占欲を刺激する、危険な特等席になっていた。