昼間のリビングは、いつもより少しだけ暑く感じられた。

ソファの背にもたれたルーファウスの膝の上で、みみはすっかり体を預けてしまっている。首に回した腕に自分でも力が入っているのが分かるのに、離れたくなくて、そのまま喉元に額を押しつけるようにしていた。

「……ルー、ひるま……です……」

ようやくそれだけ思い出して呟くと、頭上から低い笑い声が落ちてくる。

「そうだな」

返事のわりに、まったく反省の色はない。むしろ膝に乗った彼女の腰を支える手に、ぐっと力を込めてくる。

「だが、昼間だからといって、君を抱きしめるのを我慢しなければならない理由にはならない」

言いながら、顎をすくうように指先が触れた。顔を上げさせられた瞬間、唇が重なる。軽く触れるだけのキスではない。口角をくすぐられ、すぐに舌が触れ合い、息が混ざる。

「……っ、ん……」

みみは、もうすっかりルーファウスのキスに弱くなってしまっていた。唇が触れた瞬間、肩から力が抜ける。深くなるにつれて、思考の輪郭がとろとろと溶けていく。

(また、だめになってる……)

そう自覚したときには、すでにソファの背に片肩を預けるような体勢になっていた。片膝を抱え込まれるようにして彼の腿の上に乗り、片方の脚はソファのクッションの上に投げ出されている。昼下がりの柔らかい光が、乱れた髪と頬の赤みをくっきりと浮かび上がらせていた。

「……顔が真っ赤だ」

額を離したところで、ルーファウスが楽しそうに目を細める。

「鏡を見せてやりたいくらいだな」

「見たくないです……」

息を整えながら抗議するも、その声はほとんど甘え声だった。膝の上で身じろぎするたび、彼の手が腰や背中を支えてくる。その温度だけで、うまく力の入れ方が分からなくなる。

「昼間だから、だろうか」

「……え?」

「昼の光の下で君を見ると、夜のときとはまた違う」

そう言って、彼はみみの肩口に指をかけた。

薄手のカーディガンの生地がするりと滑り落ちる。下に着ていた柔らかな素材のインナーが露わになり、さらにその肩紐へと指先が触れる。みみは思わず背中を強張らせた。

「る、ルー……」

「嫌か?」

「……き、きらいじゃ、ないですけど……」

「なら、任せておけ」

迷いのない声とともに、彼はゆっくりと布をずらしていく。乱暴さは微塵もない。ただ、昼間の光の下で「彼女そのもの」を見たい、という欲求が、その動きの一つひとつに静かに滲んでいた。

カーディガンが完全に外され、インナーも肩から少し落ちる。布団の中とは違い、リビングのソファで、しかも窓から光が差し込む時間帯だと思うと、みみの全身に羞恥が一気に押し寄せてきた。

「……やっぱり……ひるまは……」

思わず胸元を押さえようとすると、その手をルーファウスがそっと包む。

「隠さなくていい」

静かな声。

「ここには俺しかいない」

そう言って、彼は一度だけ深く息を吸い込み、視線を落とした。

白く、なめらかな肌。薄く汗ばみ、さっきまでのキスのせいかほんのりと上気している。胸元から鎖骨、肩のラインにかけての曲線が、昼の光に照らされて柔らかく浮かび上がっていた。

まるで、どこにも傷のない陶器のようにきれいで、それでいて触れれば確かに熱を宿す生きた肌。

(……俺しか知らない)

昨夜も、今朝方も、目に焼きつくほど見てしまったはずなのに——そう思いながらも、昼の光の下で改めて見ると、その事実が胸の奥でまた別の色を帯びていく。

誰も触れてこなかった場所に、自分だけが触れた。彼女が誰にも見せずに守ってきた部分を、今、こうして自分だけが見ている。

独占欲が、静かに、しかしどうしようもないほど満たされていく感覚があった。

「……そんなに、じっと見ないでください……」

みみが震える声で訴える。両腕を思わず胸の前で交差させそうになるが、その腕もルーファウスにそっとほどかれる。

「見ないほうが、無理だ」

短く、率直な答えが返ってきた。

「白くて、柔らかそうで……」

途中で言葉を切り、彼は苦笑するように息を吐いた。

「理性に優しくない」

「りせいに……」

問い返す前に、首筋に温かいものが触れた。

「……っ」

唇だ、と気づいた瞬間、身体がびくりと震える。喉のすぐ横に柔らかい感触と、軽い吸い付くような刺激が残る。少し強めに押し当てられたあと、じん、と遅れて熱が広がった。

「るー……?」

「跡が残るかもしれないが」

耳元で低く囁く。

「嫌なら、今のうちに止めろ」

「……」

喉まで出かかった言葉は、結局出てこなかった。嫌という感情が、どこを探しても見当たらなかったからだ。

むしろ、「自分だけの印を残したい」と言わんばかりのその行為に、胸の奥がじんと熱くなる。

答えないことが答えだと察したのか、ルーファウスはそのまま首筋にもう一度唇を押し当てた。今度はさっきより少し長く、柔らかく吸い付く。肌の内側から、じわじわと熱が上ってくるような感覚がした。

「ひっ……」

小さな声が漏れる。自分で抑えようと口元に手をやるより早く、今度は鎖骨のあたりに唇が落ちる。軽く噛まれ、吸われ、離れたあとに、そこにも熱が残った。

「……ふ、ぁ……」

昼間の静かな部屋に、自分の声が思った以上に響いてしまい、みみは驚いて肩をすくめる。

「……可愛い声だ」

ルーファウスはさらりと言う。

「せっかく俺だけが聞けるのに、押し殺されてはもったいない」

「もったいなくないです……!」

「もったいない」

否定を即座に塗り替えられる。そう言いながら、彼は肩から胸元へ、そこからまた鎖骨へと、あちこちに短いキスを落としていく。

優しく触れるだけのものもあれば、少し強めに吸って、確かに「跡」として残るものもあった。どれもこれも、まるで「ここは自分のものだ」と主張する印のようだった。

「……ルー……そんな、いっぱい……」

「君の肌が悪い」

「わ、私のせいですか……」

「触れたくなるようにできている」

即答する声に、みみは思わず目を潤ませる。

昼間のソファ。カーテンの隙間から差し込む光。外では遠くに波の音が聞こえる。その穏やかな風景の真ん中で、白い肌のあちこちに、淡く紅い跡が増えていく。

ルーファウスは、その一つひとつを目に焼き付けるように見つめていた。

彼女が恥ずかしそうに顔を背けても、肩をすくめても、膝の上で小さく身じろぎしても、その何もかもが彼を煽る。

触れながら、刻みながら——これは紛れもなく、自分だけが知っている彼女の姿だと、何度も何度も胸の中で反芻しながら。

---

ソファの上で、みみは再びルーファウスの膝の上に抱え込まれていた。

昼の光の中、白い肌に刻まれた淡い痕が、さきほどよりもはっきりと見える。その中心に、彼は迷いなく彼女を迎え入れている。背もたれに片腕をつき、もう片方の腕で彼女の背中をしっかりと抱き留めたまま、深く、確かに繋がっていた。

「……っ……」

小さく息を詰めたみみの身体が、びくりと跳ねる。

昨夜とは、明らかに感覚が違う。

ソファに座った姿勢のまま、膝の上に乗せられているせいか、身体の奥の、より深いところが、体重ごとぎゅっと押し当てられる。動かなくても、ただそこにあるだけで、強く、逃げ場のない刺激が続く。

「……へん……」

みみは思わず、彼の胸に額を押し付けた。

「いたく、ない……のに……」

声が震える。違和感や怖さよりも先に、じわじわと広がる熱が、意識を塗り替えていく。自分の体重が、彼と繋がったまま上下するたび、内側がきゅっと締め付けられて、そのたびに思わず声が漏れてしまう。

「……っ、ぁ……」

腰を揺らすつもりなどなかった。ただ、苦しくて、どうしていいか分からなくて、無意識に身体を捩ってしまっただけなのに、その動きがそのまま快感を増幅させてしまう。

「……みみ」

低く呼ばれる声に、みみは反射的に顔を上げた。

至近距離で、ルーファウスの瞳が彼女を捉えている。昼の光を受けた青が、ひどく深く、熱を帯びていた。昨夜よりも、さらに露骨な欲がそこに滲んでいる。

裸のまま、未知の感覚に翻弄されて、どうしていいか分からずに身を捩る彼女の姿。そのすべてを、彼は一瞬たりとも見逃すつもりがなかった。

「……そんな顔で、そんな声を出されて」

喉の奥で、低く息を呑む音がする。

「俺が、何も考えずにいられると思うか?」

彼の手が、みみの背中をゆっくりと撫で上げる。肩から首筋へ、そして頬に添えられ、親指でそっと唇をなぞる。

「……るー……」

縋るように名前を呼ぶと、そのまま唇が塞がれた。

深いキスだった。舌が絡み、呼吸が混ざり、昼間だということを忘れさせるほど、濃密な時間が流れる。キスをしながらも、彼は腰を動かさない。ただ、繋がったまま、彼女の体重と呼吸と微かな震えを、すべて味わうように抱き留めている。

それだけで、みみの内側は限界に近づいていた。

「……っ、る……」

声にならない声が、彼の唇の中に溶ける。快感が、波のように押し寄せて、逃げ場がない。身体の奥が、勝手にきゅっと締まって、思考が白くなる。

ルーファウスは、その反応を感じ取るたびに、胸の奥で静かに、しかし確実に、欲を膨らませていた。

(……もっと)

触れ方も、教え方も、感じさせ方も。

彼女はまだ、自分の身体のことをほとんど知らない。どこに力を入れると、どんなふうに気持ちが高まるのか。どう触れられると、どんな声が出てしまうのか。

それを、全部。

(俺が、教える)

そう思った瞬間、独占欲が、単なる所有欲とは違う形で、胸の奥に根を張る。

他の誰かに覚えさせる気はない。知らなくていい。知る必要があるのは、自分だけだ。彼女が求めるのも、縋るのも、甘えるのも、自分でなければならないようにしてしまいたい。

——自分でないと、だめなみみに。

その考えに、背徳的な甘さと、抗いがたい昂りが混じる。

「……大丈夫だ」

彼は、みみの額にそっと額を重ね、低く囁いた。

「怖いことは、何もない」

腕に力を込め、逃げ場のないほど優しく抱き締める。

「全部、俺が受け止める」

昼の光の中、ソファの上で。

みみは、彼の膝の上に抱え込まれたまま、ただその言葉と体温に縋りながら、さらに深く、知らなかった快感の中へと引き込まれていった。

---

ルーファウスの手が、みみの背中からゆっくりと下へ移り、臀部をしっかりと包み込んだ。

そのまま、意図をはっきり示すように、わずかに上下させる。

「……っ」

みみの喉から、思わず甘い声が零れた。自分の意志とは関係なく、身体が反応してしまう。深く繋がった場所が揺れるたび、内側に溜まっていた熱が一気に広がり、どうしても声が抑えられない。

「……あ……る、ー……」

声を出してはいけない、と頭では分かっているのに、身体がそれを許してくれなかった。

その瞬間、ふと意識が外へ戻る。

(……まど……)

カーテンの隙間から、外の光が差し込んでいる。窓は、少しだけ開いたままだ。海風が入ってきて、遠くの波音がかすかに聞こえる。

——昼間で、窓が開いていて、この声。

急に恥ずかしさが込み上げ、みみは慌てて口元を押さえた。唇を噛み、必死に声を殺そうとする。肩を震わせながら、息だけを小さく吐く。

「……っ……」

その様子を、ルーファウスは見逃さなかった。

みみが一生懸命耐えていることも、声を抑えようとしていることも、すべて分かっている。その上で——胸の奥に、意地の悪い感情が、静かに火を灯した。

「……声、我慢しているな」

耳元で低く囁かれる。

「……る……だめ……」

必死に訴えるように首を振るが、その仕草すら、彼にとっては煽る材料でしかなかった。

「そうやって、必死になると」

わざと間を置く。

「……余計に、可愛い」

次の瞬間、臀部を支える手に力が込められ、揺れが大きくなる。

「……っ……!」

みみは思わず息を詰め、口元を両手で覆った。それでも、喉の奥から漏れる小さな音までは、完全に消せない。身体が揺らされるたび、視界がじんわりと滲み、足先にまで熱が走る。

「……っ、ん……」

声を出すまいとするほど、息が乱れ、喉が鳴る。その様子が、ルーファウスの理性をさらに追い詰めていった。

「……窓のことを思い出したのは、賢いな」

囁きは穏やかなのに、腕の中の動きは容赦がない。

「だが……」

彼は、みみを抱き上げるようにして、さらに密着させる。

「ここで、俺がやめると思ったか?」

意地悪な響きを含んだ声に、みみは首を横に振ることしかできなかった。

「……ばか……」

かすれたその一言に、ルーファウスは喉で小さく笑う。

「今さらだ」

彼女を抱く腕に、しっかりと力を込める。

「君が、こんなふうになるまで煽っておいて」

低く、逃がさない声。

「……途中で手加減できるほど、俺は出来ていない」

昼の光が差し込むリビングで、窓の外から聞こえるのは、変わらない波音だけだった。

その穏やかな音とは裏腹に、ソファの上では、みみが声を殺しながら必死に縋りつき、ルーファウスがその反応に煽られながら、なおも離す気のない腕を絡め続けていた。

---

やがて、みみの身体の奥で、これまでとは違う予兆が膨らみ始めた。

(……なに、これ……)

今まで外側から感じていた波とは違う。もっと深く、逃げ場のないところから、じわじわと熱がせり上がってくる。繋がったまま揺らされるたび、その熱が一点に集められて、身体の芯を強く締め付けた。

「……っ、る……」

縋るように名前を呼ぶ声が、震えて途切れる。

ルーファウスは、みみの変化をすぐに察していた。抱えた臀部を支える手が、わずかに位置を変える。逃げ道を塞ぐように、しっかりと抱き留めたまま、動きを緩めない。

「……来るな」

低く、確信を帯びた声。

その一言で、みみの中の何かが弾けた。

「……っ、ひ……!」

思わず腰を引こうとする。けれど、逃げようとした瞬間、背中と腰を支える腕がさらに強くなる。離してもらえない。逃がしてもらえない。

「大丈夫だ」

耳元で、落ち着いた声がする。

「逃げなくていい」

言葉とは裏腹に、彼は手を離さない。むしろ、逃げようとする動きをすべて受け止めるように、しっかりと抱き締める。

その瞬間、みみの身体は、抗うことを諦めた。

内側がきゅっと締まり、熱が一気に全身へと広がる。頭の中が真っ白になり、息の仕方すら分からなくなる。

「……っ、あ……っ」

声を上げてしまいそうになって、みみは慌てて顔を埋めた。ルーファウスの肩に、必死に口を押し付ける。

「……っ、ひ……あ……っ、んむ……っ」

布越しに、くぐもった音が漏れる。それでも、完全には抑えきれない。喉の奥で声が震え、身体がびくりと跳ねる。

初めて「中から」突き上げるような快感に襲われ、全身が痺れる。足先から背中、指先に至るまで、すべてが甘く痺れて、どこにも力が入らなくなっていく。

ルーファウスは、その様子を逃さずに見ていた。

彼女が初めて経験するその感覚を、恐れず、逃げず、必死に受け止めている姿を。

「……そうだ」

低く囁きながら、彼はみみの背中をゆっくりと撫でる。

「ちゃんと、感じている」

腕の中で、小さな身体が震えながらも、次第に力を抜いていく。肩に押し付けられた唇が、かすかに開き、荒い呼吸が漏れる。

「……る……」

名前を呼ぶ声は、もうほとんど囁きに近かった。

ルーファウスは、その声に応えるように、みみの頭を抱き寄せ、頬にキスを落とす。

「初めてだな」

責めるでも、からかうでもない、ただ事実を受け止める静かな声。

「……中で、感じるのは」

みみは、返事をする余裕もなく、ただ小さく頷いた。

全身を駆け抜けた余韻に、身体がとろとろと溶けていく。逃げ場のないほど抱き留められたまま、初めての感覚が、ゆっくりと引いていくのを感じていた。

ルーファウスは、その様子を見下ろしながら、胸の奥で静かに思う。

——この瞬間も、この表情も、この震えも。

すべて、自分だけが知っている。

腕の中で、まだ小さく息を乱すみみを抱き締めながら、彼はその事実を、深く、確かに噛み締めていた。

---

みみの身体が、まだ余韻に震えているのを感じながら、ルーファウスはそっと彼女の腰に手を添えた。

「……少し、動いてみろ」

低く、落ち着いた声だった。

「え……?」

突然の言葉に、みみは戸惑ったように瞬きをする。まだ頭の中がふわふわとしていて、自分がどういう状態なのかも完全には把握できていない。けれど、腰を支える手が逃がさない位置にあることだけは、はっきり分かった。

「前と、後ろだ。無理に大きく動かなくていい」

促されるまま、みみは恐る恐る体重を前に預け、次にほんの少しだけ戻す。ぎこちなく、探るような動きだった。

「……こう、ですか……?」

「そうだ」

静かな肯定。

動くたびに、内側に残っていた熱が、再び刺激される。先ほど達したばかりの場所が、まだ敏感なままで、わずかな摩擦でもはっきりと分かってしまう。

「……っ」

思わず息を詰める。

前後に揺れるうち、ふと、別の感触に気付いた。自分が前に体重をかけた瞬間、彼の身体の硬い部分に、外側が擦れる。

「……?」

一瞬、理解するまでに時間がかかり、気付いた途端、みみの顔が一気に熱くなる。

「……あ……っ」

慌てて動きを止めようとすると、腰を支えていた手が、しっかりと留めた。

「止まるな」

「で、でも……今……」

「分かっている」

耳元で低く囁かれる。

「それでいい」

「よ、よくないです……!」

恥ずかしさと戸惑いで、声が裏返る。自分が動くたび、内側と外側、両方が刺激されていることが、はっきりと分かってしまう。その感覚が、あまりにも生々しくて、どうしていいか分からない。

「……っ、へん、です……」

「正常だ」

即座に返される。

「君がそうなるのは」

ルーファウスは、みみの腰をさらにしっかりと支え、わずかに動きを誘導する。前に、後ろに。小さく、しかし確実に。

内側がきゅっと締め付けられる感覚と、外側に当たる刺激が重なり、みみの頭の中が一気に白くなる。

「……っ、る……!」

思わず名前を呼ぶ声が、震える。

「そんな……同時に……」

言葉にならない。身体の奥と外で、別々の波が重なって、どこに意識を向ければいいのか分からなくなる。

逃げようと腰を引こうとしても、支える手がそれを許さない。むしろ、しっかりと受け止められ、逃げ場がない。

「……離さない」

低く、はっきりとした声。

「今は、覚える時間だ」

「お、おかしく……なりそう……」

正直な言葉が、ぽろりと零れる。

「それでいい」

彼は、みみの額に自分の額を重ねた。

「そうやって、俺に全部委ねろ」

その言葉と同時に、再び前後の動きが続く。

内と外、両方から押し寄せる刺激に、みみはもう抵抗することを諦めていた。どう動いても、どう力を入れても、身体は勝手に反応してしまう。

「……っ、ぁ……」

喉の奥から漏れる声を抑える余裕もなくなり、ただ必死に彼に縋りつく。

ルーファウスは、その様子を静かに見下ろしながら、胸の奥で確信していた。

——もう、簡単には戻れない。

彼女は今、自分の腕の中で、自分に教えられながら、身体のことを覚えていっている。その事実が、甘く、危うく、どうしようもなく彼の独占欲を満たしていた。

---

みみの身体は、もう限界が近いことを自分でもはっきりと分かっていた。

内側に溜まった熱が、また一気に盛り上がってくる。逃げ場のない刺激に耐えきれず、考えるより先に、腰が大きく動いてしまった。

「あ……っ……!」

自分でも驚くほど、深く、無意識な動きだった。

それを見逃すほど、ルーファウスは鈍くない。

「……来るな」

そう呟いた直後、彼はみみの顎に指をかけ、顔を上げさせた。そのまま唇に深くキスを落とす。逃がさないように、確かめるように、何度も。

唇だけでは終わらず、頬、顎のライン、喉元へと舌が滑る。みみの息遣いをなぞるように、舐め回すその動きに、身体がびくりと跳ねる。

「……っ、る……」

抗議のつもりで名前を呼んだはずなのに、声はすっかり甘く掠れていた。

ルーファウスは、そのまま耳元へ口を寄せる。熱を帯びた吐息が、耳朶にかかる。

「……イくときは、どうすると教えた?」

低く囁くその声が、みみの背筋をぞくりと震わせた。

耳に、舌が触れる。

それだけで、内側がきゅっと締まり、視界が一瞬白くなる。耳への刺激が、こんなにも強いなんて、知らなかった。

「……っ、ひ……!」

思わず肩をすくめると、さらに舌がゆっくりと耳の縁をなぞる。吐息が、わざとらしいほど近い。

「……思い出せ」

促すような声。

みみは、必死に思考を掻き集める。さっき、確かに言われた。逃げるな、隠すな、ちゃんと——。

「……あ……」

腰の奥が、耐えきれないほど熱くなる。身体が勝手に跳ね、もう止められない。

「……ひ、い……」

声が震え、喉が鳴る。

耳元で、さらに囁きが落ちる。

「……ちゃんと、言え」

その一言で、何かが切れた。

「ひ、い……いきます……っ」

教え込まれた言葉を、必死に紡ぐ。

「い、いく……っ♡」

蕩けきった声が、昼の静かな部屋に溶けた。

その瞬間、みみの身体は、再び大きく震えた。内側が強く締まり、全身に快感が駆け抜ける。思考は完全に途切れ、ただ彼の腕の中で、名前を呼ぶことしかできなくなる。

ルーファウスは、そのすべてを逃さず受け止めていた。

声も、震えも、教えた通りに従ったその瞬間も。

「……いい子だ」

耳元で、低く囁く。

その声に包まれながら、みみは、もう自分がどれほど彼に染められているのかを、否応なく思い知らされていた。

---

重ねられた時間の中で、みみの身体は、いつの間にか「覚えて」しまっていた。

促されなくても、胸の奥がきゅっと締まるあの予兆が来ると、自然に言葉がこぼれる。
「……いきます……♡」
掠れて、恥ずかしさを含んだ声。自分でも信じられないほど素直に、けれど必ず、彼に伝えるようになっていた。

経験がほとんどなかったはずなのに、内側でも、外側でも、身体は正直に反応してしまう。恥ずかしそうに首を振り、抵抗するように身をよじりながらも、結局は彼の指示に従ってしまう自分がいる。そのたびに、みみは顔を真っ赤にして目を伏せるのだが——その仕草の一つひとつが、ルーファウスの胸を強く打った。

(……愛おしい)

敏感さも、従順さも。彼女が自分だけに向けて見せる無防備さが、どうしようもなく可愛くて、胸の奥が甘く疼く。
同時に、別の感情も静かに芽を出していた。

——このまま、彼女が誰かの視線に晒されたら。
——この無防備さを、もし他の男に向けられたら。

考えたくない想像が、ふいに胸を掠める。守りたい、という感情と、手放したくないという独占欲が、静かに混ざり合っていくのを、ルーファウス自身も否定できなかった。

そのわずかな揺らぎが、彼の動きに滲む。ほんの少しだけ、熱が強くなる。抱き留める腕の力が増し、呼吸が深くなる。

それに、みみはすぐ気付いてしまう。

内側がきゅっと締まり、あっという間に波が押し寄せる。逃げる暇もなく、身体は正直に反応して、また彼の胸元に顔を埋めた。

「……っ、る……」

小さく名前を呼んだ瞬間、ぎゅう、と内側が強く応えて、みみは再び波に攫われる。声を堪えようとするのに、喉の奥で甘さが震えてしまう。

ルーファウスは、彼女をしっかりと抱き留めたまま、そのすべてを受け止める。荒れかけた自分の律動を、ゆっくりと落ち着かせながら、額を寄せる。

「……大丈夫だ」

低く、確かな声。

「俺が、ちゃんとここにいる」

その言葉に、みみの身体の力が抜けていく。胸に顔を埋め、縋るように腕を回すと、彼はそれを拒まなかった。

昼の光は少し傾き、部屋には静かな影が落ち始めている。
ふたりの呼吸がようやく揃い、熱がゆっくりと引いていく中で、ルーファウスは胸の奥に芽生えた不安を、まだ言葉にせずに飲み込んだ。

——守る。
——急がず、縛らず、それでも離さない。

腕の中で、安心しきったように息を整えるみみを感じながら、彼はそう静かに心に決めていた。

---

ソファの上は、すっかり静けさを取り戻していた。

みみは、ルーファウスのシャツだけを着て、クッションの端で小さく体育座りになっていた。長めの裾が太ももの上でふわりと揺れているが、膝をぎゅっと抱え込んでいるせいで、素肌の白さが余計に際立つ。

彼女はルーファウスに背を向けたまま、うつむいて動かない。

首筋には、さっきつけられたばかりの淡い痕がいくつも浮かんでいた。昼の光がそれを拾って、まるで「ここは誰のものか」を証明するように際立たせている。

「……みみ」

背後から名前を呼ぶと、かすかに肩が揺れた。けれど振り向きはしない。

ルーファウスはゆっくりと彼女の背後に回り、ソファに腰を下ろす。腕を伸ばして、その小さな身体をそっと抱き寄せた。背中越しに胸板を預けさせ、膝を抱え込んだままの彼女を包むように腕を回す。

「……離れてくれとは、言わないのだな」

冗談めかした声を落とすと、みみはしばらく黙っていた。やがて、膝に額を押し付けたまま、蚊の鳴くような声でぽつりと呟く。

「………ばか」

「そうか」

あっさりと肯定する返事に、みみの耳がますます赤くなる。

こんな場所で、こんな時間に、とんでもない乱され方をした——その自覚が、全身にまとわりついて離れないのだろう。顔を上げれば、さっきまでの自分の姿まで思い出してしまいそうで、どうしても前を向けない。

ルーファウスは、そんな彼女の頑なさすら愛しくて仕方がなかった。

自分のシャツの中にすっぽりと収まった肩の細さ。裾から覗く太ももの線。うなじから首筋へと続く白い肌に点々と残る、自分の跡。どれもこれも、「自分のものだ」と無遠慮に主張してきて、理性に良くない。

抱き締めた腕の中で、その柔らかな体温を確かめているうちに、指先が自然と動いてしまう。

背中に回した手で、シャツ越しにそっと撫でる。肩甲骨のあたりをなぞり、ウエストのくびれに沿って指を滑らせ、腰のラインを確かめる。みみの身体が小さく震える。

「る、ルー……いま、したばかり、です……」

「知っている」

あまりにも落ち着いた返事に、みみは余計に困ったように膝を抱え込む腕に力を込めた。

それでも、彼の手つきはやむ気配がない。シャツの裾のあたりから指先がそっと入り込み、太ももの素肌に触れる。ひやりとした空気と、彼の掌の温度の差に、敏感になっている身体が簡単に反応してしまう。

「……ひゃ……」

抵抗するように身を捩る。けれど、背後から抱き込まれているせいで、逃げ場は少ない。ルーファウスの腕が、落ちないように・離さないように、しっかりと彼女を囲っている。

「離してほしいか?」

耳元に落ちた問いかけに、みみは答えに詰まる。

離れてほしいような、離れてほしくないような——そんな矛盾した感情が胸の中でぐるぐる回って、言葉にならない。ただ、息だけが小さく乱れていく。

ルーファウスはため息まじりに小さく笑う。

「……その顔で、俺に自制を求めるのは、いささか無理があるな」

「かお、みないでください……」

「見ないほうが、難しい」

そう言いつつ、彼はようやく背中に回した手を止めた。代わりに、彼女の額に軽く唇を押し当てる。

みみは、膝の間に顔を埋めたまま、しばし沈黙していた。

ソファの上を通り抜けていく海風が、ゆるく揺れたカーテンを撫でる。昼の光は少し傾き始め、部屋には柔らかな影が伸びている。

しばらくのあいだ、ふたりはそのまま黙っていた。

やがて、みみが小さく身じろぎした。体育座りだった膝を、ゆっくりとほどく。背中に預けたままのルーファウスの体温を、改めて確かめるように肩で息をしてから、ぽつりと呟いた。

「……するなら」

「ん?」

「……するなら、ベッドがいいです……」

やっと絞り出したその一言に、自分で自分の口を押さえたくなる。けれどもう遅い。耳まで真っ赤に染まっていくのが、自分でも分かった。

ルーファウスは、一瞬だけ目を細めた。

「交渉がずいぶん甘いな」

「いまの、なしです……」

反射的に言い直そうとする声は、震えていて説得力がない。

彼は、みみの肩に額を預け、一度深く息を吐いた。

(……優しく、か)

さっきまで自分の中で燻っていた独占欲や、ほんの僅かな不安や焦り。それらが、彼の中の加減を容赦なく削っていく予感があった。

「次は、優しくしてやれないかもしれないぞ」

「い、いわなくて、いいです……」

情けない返答に、自分でも苦笑したくなる。それでも、彼から離れる気配はない。そのことが、ルーファウスには何よりの「許可」に見えた。

「……了解した」

短くそう告げると、彼は腕の力を少しだけ強めた。

みみの身体がふわりと浮き上がる。ソファから抱き上げられたのだと気付いた瞬間、思わず両腕で彼の首にしがみついた。シャツの裾がふわ、と揺れて、太ももにひやりとした空気が触れる。

「ル、ルー……!」

「ベッドがいいと言ったのは、君だ」

静かに歩きながら、淡々とそう言う声には、僅かな愉快さと、隠しきれない熱が混ざっていた。

寝室へ向かう扉の前で、ルーファウスは一瞬立ち止まり、腕の中のみみを見下ろした。

乱れた髪も、襟元からのぞく首筋の痕も、自分のシャツにすっぽりと包まれた細い身体も——どれも、自分のものだという実感が胸に広がる。

「……覚悟しておけ」

その一言だけを残して、彼はドアを開けた。

その先でどんな時間が続いたのかは、ふたりだけの記憶として、コスタの静かな午後の奥深くにそっと沈んでいくことになる。