よろしく兵器
体のラインが分かる膝丈のワンピースに7センチのピンヒール、ゆるくまとめた髪と少し口角を上げた唇にはコーラルのリップ。中王区とは違い男性が力を持つディビジョンで最大限男性を利用するためのある意味処世術だ。ナンパされることもあればジロジロ見られることもあるが、そこはぐっと我慢。好意的であることは間違いないのだから。
渋谷で起業して約2年。やっと仕事も波に乗ってきた。そこそこ遊んだり、いいものを買ったりできるようになり、先日マイカーも買った。いわゆるデキる女になったのだ。
今日は朝から池袋でクライアントとの打ち合わせがあり、昼もとっくに過ぎた今やっと渋谷に戻ってきた。どこかでご飯を食べてから会社に戻るか、コンビニでおにぎりを買うか迷いながら車を走らせていると、ふと信号を渡った先の歩道で人が倒れていることに気づいた。本当は左折する交差点だったけど倒れている人を見過ごす事も出来ず、直進して倒れている人の近くに車を停めた。運転席を降りてその人に近づき声を掛ける。
「大丈夫ですか?どこか痛みますか?」
「…は、腹…」
「お腹?お腹が痛むのですね。」
倒れている若い男性はこちらに真っ青になった顔を向けた。だいぶ弱っているらしい。救急車を呼ぶべく、交差点の名前を確認するため立ち上がろうとしたら、男性がぱしりと私の手首を掴んだ。骨ばった手はとても大きく、ひんやりとしている。
「今救急車呼びますから、もう少しの辛抱…」
「はら、へった…」
「は?」
今にも死にそうな顔で空腹を訴える彼に、私はへなへなと力が抜けてしまった。心配を返して欲しい。しかし同時に安堵し、はぁとため息を吐いて再び彼の近くにしゃがみ込んだ。
「空腹でしたら、私と食事でもいかがですか。」
このまま彼を飢え死にさせるのも気分が良くない、一度きりの寄付だと思って私は彼に奢ることを提案した。すると彼はへにゃりと頬を緩ませて「ありがてぇ…恩にきるぜ…」と掠れた声で言うのであった。
*
「いやぁ〜!助かった!本当にありがとっす!」
先ほどまで真っ青な顔で道端に倒れていたとは思えないほど元気にもりもりハンバーグを食らう男、私はみるみる消えていく肉を見つめながら苦笑いをした。近場にあったチェーンのファミレスは、昼もとうに過ぎたアイドルタイムのせいか客は疎らだ。目の前のパスタをくるくると無意味にまわす。
ひとしきり食べ終えると、彼はドリンクバーのコーラを飲みながらいろんなことを話してくれた。有栖川帝統くん、20歳(若い!)、職業はギャンブラー、ディビジョンバトルをやっててヒプノシスマイクを持っていること、競馬で持ち金をスッてただいま一文無し、などなど。
「すごいね…毎日生死掛けってるって感じ…」
「まぁな!」
ニカッとまぶしい笑顔を見せてくれたが別に褒めたわけではない。まあ彼が満足気ならそれでいいか、と思い私はズズとカフェオレを飲んだ。
「ところで、オネーサンのことも教えてよ」
興味津々と言わんばかりに目をキラキラさせながら、帝統くんは私に尋ねた。私も名前、彼よりも年上であること、小さな会社を経営していることなどを彼に話した。話すたびに「へー!」「すげー!」と嫌みのないオーバーリアクションをしてくれる。彼は意外と聞き上手なのかもしれない。ふと腕時計を見ると、入店してからだいぶ時間が経っていることに気付いた。次の予定が間もなく迫っていた。
「帝統くん、ごめん。私そろそろ仕事に戻らなきゃ。」
「おわ!もうこんな時間か!引き止めちまって悪かったな、本当にありがとうな!」
会計を済ませ、並んでファミレスを出る。彼はぎゅっと両手で私の手を掴んでぶんぶん振り回すように握手し、またニカッと笑った。
「じゃあまたな、なまえちゃん!」
ぱっと手を離し、ひらひら手を振って彼は私に背を向けて歩き出した。理由もなく私は楽しい気分になり、鼻歌を歌いながら駐車場へ向かった。
渋谷で起業して約2年。やっと仕事も波に乗ってきた。そこそこ遊んだり、いいものを買ったりできるようになり、先日マイカーも買った。いわゆるデキる女になったのだ。
今日は朝から池袋でクライアントとの打ち合わせがあり、昼もとっくに過ぎた今やっと渋谷に戻ってきた。どこかでご飯を食べてから会社に戻るか、コンビニでおにぎりを買うか迷いながら車を走らせていると、ふと信号を渡った先の歩道で人が倒れていることに気づいた。本当は左折する交差点だったけど倒れている人を見過ごす事も出来ず、直進して倒れている人の近くに車を停めた。運転席を降りてその人に近づき声を掛ける。
「大丈夫ですか?どこか痛みますか?」
「…は、腹…」
「お腹?お腹が痛むのですね。」
倒れている若い男性はこちらに真っ青になった顔を向けた。だいぶ弱っているらしい。救急車を呼ぶべく、交差点の名前を確認するため立ち上がろうとしたら、男性がぱしりと私の手首を掴んだ。骨ばった手はとても大きく、ひんやりとしている。
「今救急車呼びますから、もう少しの辛抱…」
「はら、へった…」
「は?」
今にも死にそうな顔で空腹を訴える彼に、私はへなへなと力が抜けてしまった。心配を返して欲しい。しかし同時に安堵し、はぁとため息を吐いて再び彼の近くにしゃがみ込んだ。
「空腹でしたら、私と食事でもいかがですか。」
このまま彼を飢え死にさせるのも気分が良くない、一度きりの寄付だと思って私は彼に奢ることを提案した。すると彼はへにゃりと頬を緩ませて「ありがてぇ…恩にきるぜ…」と掠れた声で言うのであった。
*
「いやぁ〜!助かった!本当にありがとっす!」
先ほどまで真っ青な顔で道端に倒れていたとは思えないほど元気にもりもりハンバーグを食らう男、私はみるみる消えていく肉を見つめながら苦笑いをした。近場にあったチェーンのファミレスは、昼もとうに過ぎたアイドルタイムのせいか客は疎らだ。目の前のパスタをくるくると無意味にまわす。
ひとしきり食べ終えると、彼はドリンクバーのコーラを飲みながらいろんなことを話してくれた。有栖川帝統くん、20歳(若い!)、職業はギャンブラー、ディビジョンバトルをやっててヒプノシスマイクを持っていること、競馬で持ち金をスッてただいま一文無し、などなど。
「すごいね…毎日生死掛けってるって感じ…」
「まぁな!」
ニカッとまぶしい笑顔を見せてくれたが別に褒めたわけではない。まあ彼が満足気ならそれでいいか、と思い私はズズとカフェオレを飲んだ。
「ところで、オネーサンのことも教えてよ」
興味津々と言わんばかりに目をキラキラさせながら、帝統くんは私に尋ねた。私も名前、彼よりも年上であること、小さな会社を経営していることなどを彼に話した。話すたびに「へー!」「すげー!」と嫌みのないオーバーリアクションをしてくれる。彼は意外と聞き上手なのかもしれない。ふと腕時計を見ると、入店してからだいぶ時間が経っていることに気付いた。次の予定が間もなく迫っていた。
「帝統くん、ごめん。私そろそろ仕事に戻らなきゃ。」
「おわ!もうこんな時間か!引き止めちまって悪かったな、本当にありがとうな!」
会計を済ませ、並んでファミレスを出る。彼はぎゅっと両手で私の手を掴んでぶんぶん振り回すように握手し、またニカッと笑った。
「じゃあまたな、なまえちゃん!」
ぱっと手を離し、ひらひら手を振って彼は私に背を向けて歩き出した。理由もなく私は楽しい気分になり、鼻歌を歌いながら駐車場へ向かった。