「う…寒ぅ…」

真冬のニューヨーク。気温は氷点下まで下がりふわふわと雪が舞う。オフィスビルから出てキンと冷える街に出るとイルミネーションに雪が反射して幻想的な景色が目に入るが、私の気分はそんな程度で高揚することはなかった。

朝から電車が大幅に遅延して打ち合わせに大遅刻、認識齟齬によりクライアントを激怒させ昼食をとる時間も無いままリカバリー、さらに上司に雑用まで押し付けられ、今日は何もかもツイていない日だった。疲れとストレスで食欲もなくどん底まで沈んだ気分のまま駅までの大通りを歩く。

「やぁションボリ姫。食事でもどうだい?」

突然黒塗りの高級車が横付けされ、後部座席から声を掛けられた。自信満々の表情を浮かべてこちらを見つめるのは、かの有名な敏腕弁護士様、ハーヴィーである。

「なぁに?無能で可愛げのない女引っ掛けても楽しくないわよ。」

思わずまったく可愛くない返事をしてしまう。言ってから少し後悔してマフラーに顔を半分うずめる。ハーヴィーはそんな私の様子をフンと鼻で笑った。

「君が無能ではないことくらい俺は知ってる。慰めてやるから乗れよ。」

彼が座席を歩道側から車道側に移動したようで、こちらから姿が見えなくなった。いつもは皮肉しか言ってくれない彼の思いがけない優しい言葉に目頭と喉が熱くなる。誤魔化すようにすんと鼻をすすって車のドアに手を掛けた。隣に乗り込むなり「お肉が食べたいです。あとワイン。」と伝えると、彼は満足気に笑って車の発進を促した。

「冷えてるな、なぜ手袋をしないんだ。」
「アイフォンが操作できないじゃない。」
「SNS中毒め。」

後部座席の真ん中で手を絡める。熱いくらいにあたためられた彼の手に居心地の良さを感じて少しキュッと力を入れると、彼は窓の外を見ながらも微笑んで握り返してくれた。