「うん、また来ちゃった。私があげたものが何かはまだわからないけど、何度だって来るよ。だってカラ松とまた会いたいから。」
「また会いたい…?今会っているだろ?」
 カラ松が鏡から視線をこちらに向ける。
よかった。今日は顔が見える。前回顔が見えなかったのはただの偶然だったのだろうか。あの時言われた言葉に対して、すぐにカラ松はカラ松でしょって、そう答えるつもりだった。つもりだったのだが、顔が見えなかったことに気が付いたとき言葉に詰まった。なぜ詰まったのか、はっきりした理由はわからない。顔が見えなくたってカラ松はカラ松なのに。
「今ここにいる俺も、病室で眠っている俺も、松野カラ松。…そうだろ?」
「うん、うん…そうだよ。そうだけどさ、やっぱりちゃんと会って話したいよ。また一緒に買い物に行きたいし、釣り堀にだって行きたいよ。それに触れたいし触れられたい。カラ松は、そう思わないの?…何で、何で飛び降り自殺なんてしたの?」
「フッ…それは自殺した動機を聞いているのか?それともなぜ飛び降り自殺だったのかを聞いているのか?」
「動機を聞いてるの」
「動機…か。俺が松野カラ松であるか確認したかった、というのはどうだ?」
「でも昨日、自分が松野カラ松かどうか証明できないって…」
「ああ、そうだな。結局俺が俺であるかはお前がくれたものを見つけない限りわからないらしい」
 そういったカラ松が立ち上がり台所へ向かう。ふと周りとみると、今いる場所が松野家のリビングだったことに気付く。
 カラ松は自分が誰なのか、と悩んでいたということだろうか。六つ子として生まれたため、似ているので必ず間違えられる。最初は騙していたずらするのが楽しかったが、自分がカラ松なのかそれともおそ松なのか、わからなくなっていった…。そういうことなのだろうか。そこで私が何かをあげて誰が見ても間違えないようにした…?
「ねえカラ松、私があげたものってな……に?!」
 台所から戻ってきたカラ松に視線を向けると、その手には一丁の拳銃。カラ松は弾倉を引き抜き中に弾が入っているのを確認し元に戻した。何で、拳銃が家に…?センシングとはいえ、カラ松が創造しなければ恐らく出てこないものだ。どうして拳銃なんか…。
「すまない、俺がお前からもらったものを言葉にすることはできないんだ」
「どうして…言えないなんてそんなのおかしいよ」
「おかしい?フッ…それは褒め言葉だ、バーン」
 そういったカラ松はいつも指でやっていたように、拳銃をこめかみに当て、引き金を引いた。
「え…カ、ラ松……?」
 カラ松がゆっくりと倒れていき、拳銃が床に落ちる音がした。怖くてすぐに視線を逸らしてしまった。なぜ、このタイミングで…?私と話すことはもうないの?…どうしよう。また、カラ松が自殺した。たとえ現実じゃなくても、自殺したという事実が私に重くのしかかる。このあとはどうすれば…。考えているとカラ松の血が、私のところまで流れてきていた。怖い、怖い、怖い、怖い。見たくない。カラ松の死体も、カラ松の血も。あんな恐ろしい姿を二度も見るなんて、耐えられない。私は強く目をつぶった。

*

「なまえさん!なまえさん!!大丈夫ですか!?」
 また、相田さんの声で目が覚める。
よかった…戻ってこれた。センシングは自分の意志で現実に戻れることはほぼない。実際に今までしてきた中で一度もできたことはない。あのあと戻れなかったらと考えるだけでもぞっとする。
「興奮状態になっておりましたので、センシングを終了させていただきました。大丈夫ですか?」
「ありがとうございます…。終了していただけて本当に助かりました。」
時計を見ると三時間経過していた。私には数分の出来事のように感じられたセンシングだった。しかし三時間もしていたと認識した途端、なんだが体がだるいような気がしてきた。
「すみません、今日は疲れたので報告は後日でもいいですか?」
「はい、わかりました。お疲れ様でした」
私は眠っているカラ松を一目見てからデカパン医院を後にした。
目を閉じるたびに、カラ松が自分の頭に銃を向ける映像が再生される。
 この日を境に、カラ松と必ず会って話すことができるようになった。

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