目を覚ましたと同時に急いで隣の部屋で眠っているカラ松のところへ走る。なんでこういう時に限って相田さんは声をかけてくれなかったのだろうか。あれ…おかしい。センシングするときはいつも相田さんがつきっきりのはずだった。嫌な予感がする。そう思いながらカラ松の病室のドアに手をかける。
「え…?」
 そこに眠っているはずのカラ松はいなかった。まさか、死んだ…?さっきの終わりにしようという言葉はやっぱりこういうことだったのだろうか。だめだ、そんなこと考えるな。カラ松はそういうことじゃないと言っていた。大丈夫、カラ松は生きてる。自分で考えると悪い方向に考えてしまうため、相田さんを探すことにする。ふと周りを見渡すと誰もいない。いつもだったら何人もの看護師さんがいるのに今日は誰一人歩いていない。声も聞こえなければ物音もしない。本当におかしい。すぐに病室をでて受付へと足を進める。廊下も誰もいない。受付にも誰もいない。患者さんも看護師さんも。この建物には、誰もいない…?おかしい出来事に激しい焦りを覚えた。慌ててデカパン医院を飛び出す。
「誰も、いない…」
 いつもは賑わっているはずの街に、人っ子一人いない。私は誰もいない道を無我夢中で走った。最初は松野家に向かった。カラ松がいるんじゃないかと思った。しかし誰もいなかった。近くの公園にもいなかった。そのあと実家にも行ったが、もちろん誰もいなかった。もう他に行くところなどなく、自宅へと足を向けた。
 家に着いたら体が無意識に居間へと向かい、ソファへ腰を下ろす。テーブルの上には誕生日プレゼントとして買った六人分のネクタイが置いてあった。ニートの彼らが早く就職できますようにと色違いのネクタイを買ったのだ。それを手に取り、一つずつ並べた。
「赤はおそ松、青はカラ松、緑はチョロ松、紫は一松、黄色は十四松、ピンクはトド松」
 …なんで彼らは一人一人色が決まっているんだっけ。別に何色でもいいはずなのについこの色を買ってしまった。似合う色だと無意識に思ったのだろうか。…ああ、そうだ。思い出した。私が決めたんだ。みんなに間違えられて落ち込んでいた彼らに個性という名の色をあげた。長男はリーダーっぽい赤、次男はクールな青、三男はおだやかな緑、四男は知的な紫、五男は活発な黄色、六男は優しいピンク。そんなことを思って決めた。今更思い出しても、もう遅いけど。

*

「やっと会えたな、なまえ。ネクタイか?」
 カラ松だ。カラ松が、来てくれた。
「うん、みんなにって買ったの」
「そうか、きっとあいつらも喜ぶよ」
「そうだといいなあ。…ねえ、カラ松。カラ松が私にくれた物覚えてる?」
「もの?ものじゃないだろ、俺があげたのは。お前いつも自分で言ってただろ、居場所をくれたのは俺だったって」
「そっか、そうだったね。」
 カラ松はいつも私に居場所を与えてくれた。隣にいてくれた。
 まるで六つ子とトト子ちゃんの金魚の糞だな、と言われたことがあった。その時他の人たちがその通りだと笑っている中、カラ松だけは怒ってくれた。言ってきた人にも、兄弟にも。それだけじゃない。みんなで遊んいる時私が転んだら足をとめてくれたのも、泣いてるとき気づいてくれたのも、落ち込んでるとき慰めてくれたのも、全部カラ松だった。カラ松の隣が私の居場所だった。
「なあ、なまえ。お前は今病院のベッドの上で眠っているんだ」
「それでカラ松が私にセンシングしているの?」
「ああ、そうだ。なあ、なんで自殺なんかしたんだ?」
「自殺…?私自殺なんてしてないよ。…えーっと、そう。あの日すっごく酔ってて、橋の上でふらふらしてたらカラ松からもらった腕時計がなぜか外れて川に落ちたの。それを拾おうと下まで降りて手を伸ばしたら落ちちゃったの。バカだよね。」
「そうか…自殺ではなかったんだな。それが聞けて安心した」
「私てっきりカラ松が眠っているんだとばかり思ってた。それでね、カラ松がいうの、お前が俺たちにくれたものを覚えてるかって。それが分かれば目を覚ましてくれるって思って私一生懸命探したんだ。だけど見つけられなかったの。そっかあ、全部、幻だったんだね。でも、カラ松が生きてるならよかった」
「でも、見つけてくれたんだろ。ちゃんと伝わってるよ、お前の気持ちは」
「本当?」
「ああ。なあ、俺、お前に聞いてほしいことがあるんだ。だから、戻ってきてくれないか。ずっと、待ってる」
 そういったカラ松の顔は今まで見た中で一番優しい笑顔だった。

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