「なあ、お前が俺たちにくれたものを覚えているか?それを、ずっと探しているんだ。それがなければ俺は俺であることを証明できない。」
そういったカラ松は、私を見ずにいつも通り鏡で自分を見ている。
鏡で反射し、窓に映ってるはずのカラ松の顔が、見えない。
「俺は本当に松野カラ松か?」
そこで意識が途切れた。
*
「お疲れさまです。」
看護師の相田さんに声をかけられて、初めて自分が病院で寝ていることに気がついた。そうだ、私はカラ松とセンシングするためにデカパン医院を訪れていたのだ。
カラ松が自殺未遂をし、昏睡状態になってから半月が過ぎた。図書館やインターネットで昏睡状態のことを調べていくうちに"センシング"という相手の意識に入りこみ、直接話せる方法があるのを知った。自殺をした原因を突き止め、それをなくすことができればもしかしたら目が覚めるかもしれないらしい。
センシングは誰にでもできるわけではない。相性があるらしく、できる人もいればできない人もいる。カラ松へのセンシングが成功したのは私だけだった。兄弟の誰でもなく、親でもなく、私だけだったのだ。これも原因に関わっていることなのだろうか。
「何か原因のようなものはわかりましたか?」
「原因…かはわかりませんが、私がカラ松たちにあげたものを探しているといってました。それがなければ、自分が松野カラ松であることを証明できないって。でも、私は彼らに何かをあげた覚えはないんです……。」
彼らとは幼稚園から中学校までずっと一緒だった。しかし私が彼らに特別何かをあげた覚えはない。カラ松がカラ松であることを証明できるものとはなんだろう。証明するものと言われても抽象的すぎてまったくわからない。私があげた"何か"がわかればカラ松は目を覚ますのだろうか。
「とりあえず今日は終わりにしましょう。お疲れさまでした。」
センシングは脳への負担が大きいので一日一回までと決まっている。時計を見るとセンシングをしてから1時間が経過していた。センシングをしている状態ではこちらでどのくらい時間が経っているのかわからない。あまりにも長い時間が経過しているとそれもまた脳への負担が大きいので、その場合は相田さんが強制的に終わらせることになっている。何回かセンシングを行ったが、今日初めてカラ松と話すことができた。次も話せるとは限らないが、調べられることは調べておこう。
とりあえず私は松野家に向かった。
わかってはいたが、5人全員私からもらったものなど覚えていないようだ。そもそもあげたのかも怪しいとまで言われた。そんなことを言う前に少しは思い出そうという努力をしてほしいものだ。
ただ、カラ松がそれを探しているなら探すしかない。とりあえず何か思い出したらすぐ教えてほしい、と伝えた。帰ろうと靴を履いていたら松代さんが帰ってきたので、同じく何か覚えていないか聞いたのだがやはり覚えていないようだ。それからトト子ちゃん、チビ太、イヤミにも聞いたが答えは同じだった。
誰も、何も覚えていない。彼らが言ったように私は本当に何かをあげたのだろうか。しかしカラ松は嘘をつくような人ではなかった。他の人たちが嘘をついていると思ってはいないが、カラ松がもらったと言うならば私は何かあげたのだろう。思い出せ、思い出せ。カラ松を救いたいならば。
結局何もヒントを得られないまま、次のセンシングの日がやってきた。
*
「また来たのか」
カラ松はまた鏡を見つめたまま私に言った。
そして、お前が俺たちにくれたものは見つかったのか?と私に問うのだ。
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