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バイクで走って5分もしない内にそこに辿り着いた
そこはまるでアメリカの
スラム街のような街並みだった
こんな所があったなんて知らなかったな…
そんな風に思いながらバイクを裏に止めると引っ張るようにビルの中へと連れてかれた
着いたそこの扉を開けると生活空間がある部屋、でも少しレトロ感を感じるようなインテリアで…雨宮兄弟の雰囲気には合ってる気がした
「そこ座れ」
引っ張られて座らされたソファーに大人しく座ると背後から扉を開けた音が聞こえて、よく見ると小さい冷蔵庫から瓶を取り出していた
「これ飲んで待ってろ」
「え?あ、おぅ…ん?ま、待ってろって…」
「風呂行ってくる」
そう言うや否や風呂場があるらしい方向に向かって行ってしまった。どうしたらええねん…心の中でそう呟いた後、リモコンを取りテレビを付けてボーッと観てたけどすぐに飽きて…目の前のテーブルに出された瓶の蓋を開ける。一口飲むとウィスキー独特の味がしてすぐ様口から離した
「あっつ!!ウィスキーかぃ!こんなん割らんと飲めるか!!」
普通水とかそんなんあるやろ…っ
喉が焼けるように熱い
クソ…俺自身酒が強い訳やないから
こんなん飲めんわ
「なんか別の飲み物…ん?」
水でもなんでもいいから
この味を無くしたくて周りを見渡すと
一瞬視界に入った扉
なんも変哲もない扉なのに
どこか異質な空気を放っている
「…なんやろ」
近づけば近づくほど
異質な感じが強くなってる気がして
「…」
ほぼ無意識に…ドアノブに手をかけた
「そこは尊龍の兄貴の部屋」
「!?」
いつの間にか背後にいた広斗に驚いてすぐさま離し扉を背に立った。ラフな格好に濡れた黒髪、大きいバスタオルを首から掛け、腕を組みながら俺をジッと見つめている
「あ、す、すまん!は、入るつもりは…!」
「別に入ってもいいけど」
「、え?」
「尊龍の兄貴いねぇし…」
「た、たける…?」
「一番上の兄貴、一年前からいねぇの」
…あ、前に言うとった兄貴のことって
ソイツのことやったんか…
「SWORDにいたって言う情報があったからここに来たけど、ほぼハズレてるし…どこいんだよ兄貴…」
そうか…やからコイツら兄弟はまたこの街に現れたってことか…知らなかった広斗達の事が知れてほんの少しだけ嬉しいと感じた…嬉しいやなんて…どうかしてる
「…んで?入る?」
「!は、入らん…」
「そ…」
そう答えて俺の腕を掴みまたソファーに座らされた。そんなことせんでも逃げんのに…
「…全然飲んでねぇじゃん」
瓶を持ち上げた広斗は確認するように振った。一口しか飲んでないからたっぷり入っとる
「そんなんストレートで飲めるわけ…マジか」
隣に座ってからウィスキーをグビグビ飲み始めた。嘘やん、コイツ酒も強いんかい…
「…ん?…チッ」
急に舌打ちしたかと思えば
ポケットから携帯を取り出し誰かと電話を始めた
「…なに?…うっせぇよ。つか今日帰ってくんな…あ?いいから帰ってくんな…じゃあ」
一方的に電話を切ってテーブルに投げた
「…お、おい…今の」
「雅貴」
「…やと思った」
兄貴に対する態度やないでソレ…
「今日帰んなって言ったから来ねぇ…だから一八」
「え?…っ」
名前を呼ばれ…一気にソファーの端っこに追い詰められた。向かい合う形からジワジワと近づかれ、背もたれと肘掛けに広斗の手が、目の前には…広斗の顔があった
「言えよ…言うまで帰らせねぇから」
本気で言ってるのが声で分かる
いや、ここに来る前からそんなの分かってた
「…」
「…」
目が…逸らせない
今度こそ…逃げられへん…っ
「…分かった」
もう言うしか選択肢無いんやろ…
なら…言うたろうやないか
大きく息を吐き…ハッキリと答えた
「…コブラに…告ってへんのに振られた」
「!」
「いや、振られたはおかしいか…気づかれてないんやし。つか、伝える気も無かったし…」
「…」
大きく見開いた目
普段クールなコイツやけど
滅多に見れない表情を見せた
俺は…そんな広斗を見て驚いたけど…言葉を続けた
「…アイツには護りたいヤツがおんねん」
怒りっぽいけどホンマは優しくて
俺らの帰る場所におってくれる
護らなきゃいけない女や
「…それは俺やなくて別のヤツ」
どう考えたってコブラが俺に対して
護りたいなんて思わへん
女であるアイツを守りたいと思うのは
至極当然のことや
「…俺が入り込む隙がないって、改めて思ったわ」
割り込めるわけない
土俵にすら立たせてもらえない
やって俺は…男やから………
「…」
話す度に顔を下にしてしまったから、今、広斗がどんな顔をしてるのか分からない…けど、耳に入ってくる拳を強く握る音が…やけに鮮明に聞こえた
表情が見えへんから想像するしかない
笑ってはない、それは分かる
じゃあ怒ってる…いやそれもちゃう気がする
見たいけど…見るのが怖い
「…もうええやろ、帰るからそこどけや」
「…」
そう言って怖さをはぐらかすしかなくて
どかそうと広斗の肩を押した
ガッ!!
「!…ひろ、…っ」
握りこぶしを緩めた手は真っ直ぐ俺の背中に腕を回し、キツく…抱きしめてきた。肩口に顔を押し付けられ呼吸をする度に広斗の匂いが鼻腔を掠める
「…一八っ」
なんでそんな切なげに名前を呼ぶ
「っ…、!?」
離れようと力を込めるとキツく抱きしめられた体は少し緩んできた。押し付けられた顔が少し解放され、やっと見えた広斗の表情は…予想を超え、俺より悲しげに見つめていた
「…」
なんで俺より悲しそうな顔してんねん…
広斗のそんな表情を見たら力が抜け…
そしたらまた、強く…優しく抱きしめられた
こんな風に抱きしめられたのは
こんな風に心臓が鳴るのは
生まれて初めてやった…
「…俺がいんだろ」
「っ!」
低い声が耳元で囁かれ
体が硬直したかのように固まった
それを感じ取った広斗はほぐすように
俺の体に手を這わせた
その手のひらがやけに熱く感じる…
動機が激しい
全身が熱い
自分の体やない感覚が怖い…っ
でも…それ以上に
「俺のもんになれ、一八」
言葉が、直接脳を刺激してくる
「初めてなんだよ、人に対してこんな気持ちになんの」
「…!」
肩に触れてた俺の手をそっと掴んだ…そして…掴まれた手は…広斗の胸…心臓に持ってかれた
「名前を呼ばれるだけで…
心臓(ココ)が…ざわつくんだよ」
ドクン…!ドクン…!
強く…鼓動してる…
俺が…そうさせてる…のか…
「俺に落ちろよ、一八」
「…っ!?」
流れるように引き寄せられる頬
キスされると思いすぐさま振り払った
「っ!ふ、ふざけんな…!俺が欲しいのはコブラや!!お前のもんになんかならへん…っ!!」
「!…アイツはお前のもんにならねぇ、そう言ったのは一八だ。いい加減諦めろよ」
「っ!…、そ、そんなん分かっとる!!けど…っ、ずっと好きやったんや…っ!簡単に諦めるとか…そんなんちゃうねん…っ!」
ホンマは応援なんかしたない…
告白なんか一生してほしくない…
俺のもんになってほしかったのに…
「お前と出会ってから…もしかして有り得るんかって思うようになって…自分でもアホやと思ったわ!!でもそれに縋りたくて…っ、あるわけないのに…そんなんあるわけないのに…分かっとるはずやのに!!
…っお前のせいや…っ」
気持ちが抑えられなくなったのは
全部お前のせいや…っ!
「お前が現れるからおかしくなったんや!!なんで…っ、なんでお前が俺の心に入ってくんねん!!」
「!」
コブラという存在が強くあるはずやったのにどんどんお前が侵蝕して、今日…お前に会って、さらに強くそこに居座ってきた。いなくなれと何度思っても、まるで俺はここだと言わんばかりに訴えかけてくる
気がついた時には
コブラへの想いが濃くなる中で
広斗の存在が強く、大きくなっていた
そして今となっては…
、違う…
俺が好きなんはコブラで…
コブラのはずなのに…っ
やめろ…っ
俺の心はコブラだけやったのに…っ!
「コブラで占めてた心の中になんでお前が入ってくんねん…!なんでお前にこんな俺を乱されなあかんのや…っ!!ふざけんな…!!
俺は…っ、お前なんか好きやない…!!
俺の心の中から出てけ…っ!!」
「っ!!」
完全にこれは俺の八つ当たりや
広斗は…何も悪くない
でもこう思わないと
自分が自分や無くなる気がして
怖くてしゃあなくて…っ
ごめん…広斗…っ
「…んな」
「!?」
何か呟いた広斗は
強引にまた腕を引き寄せてきた
「、はな、せ…っ!離せや…っ!」
お前にこれ以上触れられたくない
必死に抵抗した…けど、それ以上に
強く抱きしめられて動けない…っ
「…ざけんなよ」
「!?…ひろ、と」
広斗の声が1トーン下がった
聞いたことない低い声
目もさっきより鋭くなってる
間違いなく俺が怒らせたからや…っ
「…じゃあテメェは何でここに来た」
「!それ、は…っ」
「俺に頼りたかったんだろ?慰めて欲しかったんだろ?」
「ち、ちが…っ」
「違わねぇ、違うって言うならなんで来た」
「…っ、」
「…それに、今まで一八は俺を家に入れさせた…少なくともテメェの心は俺を受け入れてる証拠じゃねぇか
あとは一八自身が受け入れろ」
「!」
俺…自身…っ?
「俺を頼れ、縋れ。俺はどんな一八も受け入れてやるから…お前をよこせ」
「!…っ、ひろ」
すると抱きしめていた腕を緩め
手のひらを俺の両頬に持っていった
「…俺のもんになりたかったら…キスしろ、一八」
「…キ、ス…っ」
「山王とかコブラとか…余計な事考えるな
触れるだけでいい…キスしろ」
「っ、広斗」
何でこいつはこんなに俺のこと…
…ええんか
縋ってもええんか?…広斗
まだコブラを忘れられない俺なのに
こんな俺なのに…お前に触れてもええんか…?
こんな俺を…___に…なってくれるんか?
「…来い」
「…っ」
広斗の来いを聞いて…
俺の体は…勝手に動いた
まるでそこだけ時が止まったような感覚になった
見つめ合い絡む視線
触れ合う唇は…震えてて
それは俺が震わせてるのか
広斗が震わせてるのか分からないけど
涙がこぼれ…
心臓が強く高鳴ったのだけ覚えている
「一八…」
柔く、愛おしげに名前を呼ばれ
さらに涙が溢れた…
「…っ、広斗…っ俺」
なんで泣いてるのか分からない
理由付け出来ないほど
沢山ありすぎて…分からない
すると包むように抱きしめられて
壊れ物を扱うように頭を撫でてきた…
「…もう今は何も考えんな」
「っ、う…あ…っ、ひろ、…っ」
「一八はもう、俺のもの…んで、俺は…一八のもの。それだけ覚えてろ」
俺は…広斗の…っ
広斗は……お、れの…っ
「来いよ。体にも刻み込んでやるから…」
そう言って立ち上がらせた
行き先は何となくもう…分かっていた
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