自慢だった長い髪をばっさりと切った。腰まであった髪は今じゃ肩の上にある。今はやりのボブカット。毛先には内巻きのパーマがかかっている。
何だか最近、様子が変だとは思っていた。様子が変、なんて言ったらまるで彼女みたいないい方だけど、私は蔵くんの彼女ではない。
ただの友だち。
それが1番、私たちの間ではピッタリの言葉だった。初めて蔵くんに会ったのは謙也くんに蔵くんを紹介された時だ。前から白石がな、白石がな、と話す謙也くんを見て、白石くんという人はとてもいい人なんだな、と思ってはいた。目の前に現れた白石くんは普通の人よりも顔立ちが整っていて美青年に部類される方だと思う。名前ちゃん、って呼んでええかなあ、俺のことは蔵ノ介とかでええでって言ってくれて、でも初対面だし、何とも言えなくて蔵くんとしか呼べなかった。
謙也くんとうちで飲み会をするのに、突然おじゃましまーすと来てくれた蔵くん。飲んですぐに眠ってしまった謙也くんを見て2人で微笑み合い、色んなことを話した。料理も全て美味しい、と言って食べてくれた蔵くん。謙也くんや色んな後輩に気をかけていた蔵くん。バイトが忙しくて大変な蔵くん。
お買い物に誘った時、忙しい時間を縫って来てくれた。あの時、嬉しい気持ちと反面、無理をさせてしまったことに私は少し後悔をした。今度はご飯でも行こうね、と約束をしてその時は別れた。

「ね、蔵くん。この前美味しいカフェ見付けたの。良かったら一緒に行かない?」
「あ…ごめんな、ちょっと…」
「……無理、かな?もしかして、カフェとか…そういうの嫌いだった…?」
「ううん、そうじゃないねんけど…2人で行くんは…」
「……私とは、嫌、ってことかな…?」
「ちゃうねん、名前ちゃんが嫌ってわけやなくて…」
「…もしかして、彼女出来た?」

初めて会った時、蔵くんは彼女は居ないと言っていた。私のバイトする雑貨屋さんに顔を出してくれた時、彼女にプレゼントを買っていく人も多いよと話したら「そんな子居らへんからなー」と笑っていた。あれからそんなに期間も経っていないのに、いつの間にそんな人が出来たんだろう。学園祭、一緒に喫茶店をしようと謙也くんが話を持ちかけてくれて蔵くんとも一緒にすることになった。休憩時間、合わせてもらって一緒に回りたいなって思いながら休憩時間いつ?と聞いてみたけれど、蔵くんはこれから休憩やねんってそれだけ言って急いで着替えてどこかに行ってしまった。もう、その子と約束をしていたのかもしれない。

「……そんなところやな」
「…そっか。ごめんね、しつこく誘って。あ、でもテディベアってお店、本当美味しいし可愛いんよ。彼女さん喜ぶと思うし、行ってみてね…!」

その場で泣かないようにするのに精一杯。蔵くんの優しさに隠れて見えなかった本心が今見えた気がした。私と出掛けたり、話してくれたり、蔵くんはきっと迷惑だったに違いない。彼女さんに誤解なんてされたら大変だもんね。あんなに素敵で、優しい人、私なんかが隣に居られるわけがなかったんだ。



fin...


暗い。