俺には2つ下に妹が居る。女の子だと言うのにあまり女の子らしくない。昔から俺の後をついて行きながら俺の一歩先を行く奇抜な行動は変わらない。わずか10ヶ月で歩いてソファを移動させてよじ登ったり、タンスの引き出しを全て引き出して階段のようにして登って落ちたり、滑り台の上から飛び降りたりと、とにかくやることが奇抜で雑い。そして声も大きい。どことも構わず「おにーいーちゃーん!!」と叫んで呼んでくるのは正直勘弁して欲しい。あれが幸村の妹?なんて友人に笑われたり、ましてや仲も良くない野郎どもに陰口を言われたりするのはごめんだ。普段からもっと声を落とせとか、姿勢を正せとか口うるさく言っているけど直る気配はない。若干諦めると同時に付き合う女の子は絶対お淑やかな子がいいとずっと思っていた。そう、俺のクラスで言えば苗字さんのような感じ…。クラスでも特に目立つ方ではないし、皆は知らないと思うけど仕草や話し方が綺麗なんだ。授業中、たまにちらりと彼女を見ると真剣にノートを取ったり前を向いたりする仕草が綺麗だ。以前、たまたま中庭で真田たちと弁当を食べていると中庭の別のベンチに居た苗字さんとその友だちを見付けた。食事をする姿も凄く綺麗。お腹が減っているからってがっついたりしないんだ。本当、ああいう子を彼女にしたいものだよ。
…それに比べ、俺には苦手な子も居る。それは苗字さんの友だちの苗字さんだ。クラスでも大きい声で話してバカ笑いするし、仕草も俺の妹と一緒で奇抜でがさつ。授業中は寝ていることが多くてその度に苗字さんにノートを見せてもらったりしている。中庭で見かけた昼休みには口元にケチャップは付いてるし、食べ物が口に入ったまま喋ってる。苗字さんとこんなに真逆な苗字さんが友だちなのが不思議でならない。
小さく息を吐くと俺は中庭の俺が育てている花たちに水をあげる。プランターや植木鉢、地面に植えているものまでしっかりと。今日は太陽がよく出ているから水分を摂らせてあげないとね。プランターたちの水やりを終え、地面に植えられた花たちに水をあげていると両手いっぱいに荷物を抱えた苗字さんがこちらに向かって歩いてくる。大方先生に雑用でも頼まれたのだろう。俺には関係のないことだ。だけどその時、悲劇と呼べる悲劇が起こった。

「名前〜!!」
「なに〜?」

後ろから苗字さんに呼ばれ、振り返った苗字さんが持っていた荷物が俺の大事なプランターの花たちにぶつかり、植木鉢とプランターを倒してしまったのだ。俺は頭が真っ白になった。普段からがさつな苗字さんのことだからきっと無視して踏んでいってしまうのだろう。そんなことさせるものか。そう思いながら俺は手に持ったシャワーを止め、それを置いた。だけど俺は意外な光景を目にした。

「あ!ごめん!ごめんね!大丈夫!?」

苗字さんは持っていた荷物をすぐに置いて倒れたプランターを起こし、植木鉢も起こした。そして急いで花たちを元に戻して土も素手で整えていく。ついさっき水をあげたばかりだから土だってドロドロだ。でも彼女は手が汚れるのを気にしない。綺麗に整えてからプランターと植木鉢を元あった場所にそっと戻す。先ほどから苗字さんは謝罪の言葉を述べているがそれは俺に向けられたものではなく、花たちだった。あの様子だと俺が後ろに立っていることも気付いていないだろう。必死で花たちに謝り、葉っぱについた土も綺麗に払って苗字さんはにっこりと笑っていた、と思う。

「良かった…。ごめんね、誰かに大事に育ててもらってるのに…大丈夫かな?」

長い髪をそっと横にかけ、そのせいか苗字さんの顔に泥がつく。花たちは許してくれたんだろう、苗字さんは泥だらけのままの手で荷物を持って振り返り、俺にやっと気付いた。俺も苗字さんの顔に泥が付いているのをその時初めて発見し、思わず噴き出して笑ってしまう。

「ふふ!あはは!あははは!」
「ゆ、幸村くん!?見てたの…!?や、あの、花と話してるとこ、も…?」
「うん、全部…ふふ!苗字さん、顔に泥ついてる。」
「へ!?嘘!?」
「荷物も泥ついちゃうけどいいの?」
「あ!」

その後は駆け寄ってきた苗字さんのハンカチで顔の泥を拭ってもらった苗字さん。今度からハンカチは持参しようね、なんて内心思いながらも苦手な人間と関わったというのに俺の心はなんだか温かかった。



fin.

P.S. 後日、苗字さんに告白したら振られました