ある日の放課後、急に保健委員会で招集がかかった。普段、招集がかかることなんてないのに。
招集がかけられるまま保健室へと足を運ぶと保健の先生と知らない女の人が立っとった。
保健委員全員が集まると、保健の先生が手を叩いて「はい、ちゅうもーく」とか言う。言われんでも注目しとるがな。

「先生は諸事情により退職しますので、来週からこちらの先生に保健の先生が変わります。皆さんよろしくお願いしますー」

やる気の無さげな保健の先生。隣の女の人は僅かに微笑んでいる。肩まで伸びた茶色の髪の毛が毛先でくるりと内巻きに巻かれていて、それだけで大人の雰囲気が出ている。背はそんなに高くなさそうだ。幼さを感じさせないナチュラルメイクに、綺麗に着こなされたスーツ。
立ち方も綺麗やし、氷帝の忍足くんが見た足は80点ってところやろうか。
僅かに微笑んでいた女の人が一歩前に出て頭を下げた。

「苗字名前と申します。皆さんと一緒に保健委員の仕事を頑張りたいと思いますのでよろしくお願いします」

ふうん、苗字先生っていうんか。えらい若く見えるけど何歳なんやろ?この四天宝寺で若い先生言うたらオサムちゃんくらいしかおらんから新鮮や。
そんな事を思っとったら急に保健の先生に名前を呼ばれて咄嗟に返事をする。そのせいで変な声出てしもた。

「おっ、聖書の白石が綺麗な先生見て緊張しとるで!」
「ホンマや!ついに聖書にも春かあ?」
「やかましいわ!!」

変にからかってくるヤツらを一喝して保健の先生の方を見た。俺と目の合った保健の先生は、そのまま視線を苗字先生に向ける。

「何かあったら白石くんが力になってくれるわ。言われた通り、聖書やからな」
「白石です、よろしくお願いします」
「はあ……」

苗字先生はポカンとした表情で俺を見た。多分、聖書って何やねんってとこやな。ま、これは日を重ねるたびに分かってくることやろ。

この時はその程度でしか思わんかった。
まさか彼女が俺を掻き乱す存在になるなんて思いもせんかった。