あれから数ヶ月、色んなことがあった。
まずテニス部を全国大会に導くこと。全国までは行けれたが、今年は強敵である青学に敗北し、準決勝で負けてしまった。
その後はU-17の合宿に参加し、更に自分を高めることが出来たんやないかと思う。体力的にも精神的にも。
それが終わったら将来自分が何になりたいか真剣に考えることにした。苗字先生は俺の歳ですでに進路を決めとったんや。自分の将来を真剣に考え、毒草に興味があることと、テニスが好きなのと、化学が得意なのことを重点に置いて考えたが、収入的なことや結婚のことも考えて薬剤師を目指すことにした。今、薬剤師になるためには大学に行ってそこで更に6年間勉強をしなければならないらしいが、高校は進学校を選んで今のままの内申でいれば大学にも入れるかと思う。そして薬剤師であれば就職も沢山あるし、条件のいいところも選べるだろう。
何より苗字先生と同じ医療従事者になりたかったのもあった。これは今後、薬剤師を目指すにあたって何かの壁にぶち当たっても自分を奮い起たせる糧になるだろう。それは、苗字先生が隣に居ても居なくても言える未来だ。
彼女は必ず俺にとって忘れられない人となる。それはもう分かっていることだ。
そう腹を括ってからは受験に向けて勉強を始める。その間にも色んな女の子から告白されたりすることはあったが全て断った。ただ、自分のために勉強をし、見事志望校の進学校に合格出来た。
小春や謙也も医者を目指すらしくて俺と同じ学校に通うことになった。

そうして迎えた卒業式の日。
しんみりとした空気から一転、校長のギャグで皆が転ぶ。こんなこともせんなってくるんやなあ、なんて物悲しく思っていると、ふと先生らの座っている席が目に入った。先生らの数も多いせいかそこに居るのは3年の学担や学年主任、教頭、校長だけやった。後は来賓のおいちゃん、おばちゃんらくらい。他の学年は授業しとるからきっと、苗字先生は保健室におるんやろ。そして式典を終えて卒業証書や卒業アルバム、卒業記念品を貰い俺たちは学び舎を後にすることにした。

「なあなあ、卒業式の打ち上げせえへん!?」
「あらっ、いいわね〜!光くんや金太郎さんも呼びましょ」
「オサムちゃんも呼んで奢ってもらおやー!」

謙也の提案に次々と賛成意見が出る。どこの店に行くかとか時間はどうするとか話している間に俺は足を止めた。

「蔵リン?どないしたん?」
「ああ、先に行っといて。また連絡くれや」
「ロックオーンか!?白石」

からかい半分で聞いてくるユウジに、俺は余裕の笑みを浮かべて見せた。

「アホ!ゲットやゲット!」

その後、ユウジと小春が2人でフライングゲットー、とかしよんのが聞こえたが、俺は真っ直ぐ保健室に向かって行った。

コンコン、とノックをするとどうぞ、と返事が聞こえる。いつもと変わらない調子で保健室の扉を開けるとそこにはいつも通り白衣を羽織った苗字先生がコーヒーを啜っていた。

「なんだ、白石か。式終わったの?」

そこで俺はあの時言った言葉をもう一度言うべく、口を開こうとしたが遮ったのは先生の方やった。

「あ、17時だ。帰ろ帰ろ。白石、外で待っててくれる?」
「えっ、あ、はい…」

な、何やねん。こっちは覚悟決めて言おうとしたのに。そう思いながらも俺は保健室を出て靴を履き替え、皆があまり通らん裏門で待つことにした。
苗字先生は今はやりのハイブリッドカーに乗って裏門で立っている俺の前に姿を現す。乗っていけと言われたので遠慮なく乗って行くことにする。車内では無言やったけど居心地の悪さはなく、すぐに目的地に到着する。公園や。今の時間、ランニングしよるオッサンや犬の散歩をする姉ちゃんくらいしか人はおらん。
車から降りて暫く歩く。そこに小高い丘があって夕陽がとても綺麗に見えた。

「綺麗でしょ?たまに来るの」
「先生、ようこんなとこ知ってましたね?」

俺がそう言うと先生は苦笑した。

「もう先生じゃないよ、白石。卒業おめでとう」

何も問題なく心から祝ってくれているのが何となく分かった。祝ってくれる先生の顔が夕陽のおかげもあってか、余計に綺麗に見える。

「せやった。えっと…苗字さん?名前さん?」
「名前でいいよ」

アカン、名前で呼ぶなんて何か照れるな。
でも照れとる場合やない。ここから俺はちゃんと言うんや。

「……名前さん、俺、頑張ったで」
「知ってる」
「あの時から気持ちは変わってへん。ずっと名前さんのこと好きやった。……迎えに来たで!」

思いきり手を彼女に差し出すと、名前さんは笑いながらその手を握ってくれた。

「待ってたよ」




Fin.